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» 2020年11月08日 21時00分 公開

意味がわかると怖い話:「潜入捜査」(2/2 ページ)

[白樺香澄,ねとらぼ]
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「潜入捜査」解説

 溌溂男や能面女たちは、女性たちを監禁し、アジトで何をやっていたのか。彼らの世界観はシンプルなものでした。「人間の細胞は1カ月ですべて入れ替わる」「食べたものが人間をつくる」、そして彼らの目的は、「死んだ英不時子を転生させる」こと。

 彼らが稚拙な教義から行き着いたのは、「1カ月にわたって、“英不時子を食べ続ける人間”がいれば、1カ月後にはその体は英不時子のものになっているはずだ」という考えでした。溌溂男たちが不時子の遺体を奪ったのは、彼女の復活のための依り代を用意し、食べさせるためです。

 平均的な成人女性(体重50〜60キロ)の骨や髪などの「非可食部」の総量は2〜3キロほどだそうですから、冷凍保存などしながらそれ以外の部分をすべて食べていくとなれば、1日2食、1カ月分は十分にまかなえるでしょう。

 ただし、それで終わりではありません。せっかくの依り代がその後、「英不時子以外のもの」を食べてしまえば、それはどんどん英不時子から離れてしまうからです。そのため、1カ月の「英不時子のフルコース」が終わったあとは、依り代には何も食べさせることはできず、しかしそのまま放っておけばやがて餓死してしまう……。

 彼らの言う転生とは、「前の英不時子(セミナーの失踪女性)」を「次の英不時子(新たなセミナーの失踪女性)」に1カ月かけて食わせるという繰り返しのことでした。溌溂男たちは現世に英不時子を現前させ続けるために、新たな依り代を用意してまた一から、「前の依り代(彼らの目から見れば、転生した英不時子)のフルコース」を始めていたのです。

 つまり、語り手が能面女に見張られながら食べていたのは……。たとえばヴィヴェイロス・デ・カストロの書籍にあるように、ブラジル先住民の食人儀礼が、他部族からの婿取りと近い扱われ方をしており、その本質は「被食者の力を自身に取り込む」ことであった例など、他者を内面化する形で自己を確立する行為としてのカニバリズムは、歴史上、決して珍しい発想ではありません。それにしても、異常に不経済な団体ですね。

白樺香澄

ライター・編集者。在学中は推理小説研究会「ワセダミステリ・クラブ」に所属。怖がりだけど怖い話は好き。Twitter:@kasumishirakaba


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