故郷と駅弁を守るためにいまできること 鳥取駅弁「アベ鳥取堂」(1/12 ページ)
毎日1品、全国各地の名物駅弁を紹介! きょうは「とっとりの居酒屋(レギュラー版)」とアベ鳥取堂・阿部社長インタビュー最終回、「ニッポンの駅弁の将来」を聞きました。
明治43(1910)年創業、鳥取駅の駅弁を手掛ける「アベ鳥取堂」。そのトップに立って約40年、阿部正昭社長がこれからチャレンジしたいこと、さらにニッポンの駅弁の将来について取材しました。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第25弾・アベ鳥取堂編(第6回/全6回)
鳥取市の郊外、水尻池(みずしりいけ)に沿って走る特急「スーパーはくと」。山陰本線の車窓に広がる有名な湖山池や水尻池は、もともとは海だったところが砂丘の発達などによって、海と切り離されて「池」になったと考えられています。海や川、湖・池など、車窓に水辺が広がる鉄道路線は、旅にも潤いを与えてくれるもの。みどりの窓口で指定席を取るときも、ついつい駅員さんに「海側(川側)にして下さい」と頼んじゃいますよね!
「スーパーはくと」の列車名の由来となったのは、「因幡の白兎」伝説。鳥取駅南口には、大国主命と白兎の像があって、駅に下り立った人たちを出迎えてくれます。昔話では、「嘘をつくことの愚かさ」や「人に優しくすること」の大事さなどが語り継がれています。駅弁作りにも相通じるのが「正直さ」や「優しい心」。その駅弁を紹介するにあたって私自身も、正直に、そして可能な限り丁寧にご紹介していきたいと、身が引き締まる思いです。
白兎伝説が伝わる鳥取で、創業から110年あまり、駅弁参入からまもなく80年を迎えるのが、菓子屋をルーツに持つ「アベ鳥取堂」です。5回にわたってお届けしてきた3代目・阿部正昭社長のインタビューもいよいよ完結編。今回はアベ鳥取堂の駅弁作りで大切にしていること、そして今後チャレンジしてみたいこと、さらにはニッポンの駅弁の将来について伺いました。
地元に根差した「本物」の駅弁作り!
―「アベ鳥取堂」が駅弁作りで最も大切にしていることは何ですか?
阿部:「地元」ですね。自分がいま、立っている場所です。加えて、できる限り「本物」を売りたいと思っています。駅弁には絶対に崩してはいけない部分と、変えていっていい部分があると思うんです。(アベ鳥取堂にとって)「元祖かに寿し」は、絶対に崩してはいけない、守っていかなければいけないものですね。
―「本物」は、なかなか難しくありませんか?
阿部:鳥取でも「元祖かに寿し」に使っていたお酢屋さんが辞められてしまいました。大手の攻勢の前に。でも、寿しのお酢が変わってしまったら困ってしまうんです、味が変わってしまいますので。だから、お酢に関しては(辞められた業者さんから)作り方を教えてもらって、一部自社で作っています。駅弁だけでローカルブランドを守ろうとしても守り切れません。ローカルブランドを守るためには、違うこともしていかなくてはいけないと感じています。
「冷凍駅弁」で新たな販路を開拓したい!
―例えば、どんなことをしてみたいですか?
阿部:鳥取で育まれてきた食や文化は財産だと思いますので、これをいろいろな方向へ発信していくことが求められていると思います。2020年の1年、待っていてもダメということがわかりましたので、もう打って出ていくしかない。駅弁のブランドを活かして、食の分野でさらに前へ進まなくてはと思っています。食以外のジャンルは考えていないです。かつて、(ビル経営で)痛い目に遭っていますので。
―阿部社長が興味のある駅弁は?
阿部:冷凍(駅弁)に興味があります。アベ鳥取堂には「とっとりの居酒屋」という駅弁があります。昨年(2020年)、あまりにヒマだったのでこれを進化させた新作を開発して、年末に「とっとりの居酒屋 鳥取の宴」として発売しました。もともとの駅弁をベースに繊維質のものなどを外して冷凍させ、全国の通信販売にも対応しました。すでに冷凍のおせちで採用されている「プロトン凍結」という磁力線で細胞をきちんと整理して凍らせていく技術を使っています。
ふるさとの味、駅弁という文化を守るために打って出る!
―阿部社長は、これからニッポンの駅弁をどんな形で盛り上げていきたいですか?
阿部:駅弁135年のなかで、本当に大変な時期です。1人でも多くの方に鳥取に来てもらって、この土地を楽しんでもらって、駅弁をいただいてもらうというのが本来の姿だと思います。でも、(コロナ禍で)それができないのなら、駅弁という文化を消さないために、こちらから打って出ていろいろな販路を求めていくことが必要になります。加えて田舎では、いまはオリジナルが確立されていたとしても、いずれ人口減少で消費量が減っていって、採算が合わず作れなくなる。契約栽培もできなくなると、いまある品質のものが作れなくなります。だから、この品質を守れるだけの最低限の販路は求めていかなければならないんです。
かにを使った駅弁が多いアベ鳥取堂にあって、少し異色の駅弁が「とっとりの居酒屋」(1500円)です。ニフティサーブ「鉄道フォーラム」の掲示板にあった「駅弁を作ろう」という企画から生まれたと言います。掲示板では「鳥取の酒が美味い」「酒のアテになる駅弁が欲しい」「夕方から売る駅弁があったっていい」といった議論が盛り上がったそう。そこで、この「とっとりの居酒屋」という駅弁が誕生したのだそうです。
【おしながき】
- あご寿し
- いか寿し
- あご竹輪
- とうふ竹輪
- あごの梅しそ巻きフライ
- 鳥取牛の煮込み
- あご竹輪の金平
- とうふ竹輪の酢味噌和え
- イカの子の煮付け
- 長芋の天ぷら
- 大根なますカニ爪添え
- あまさぎの南蛮漬け
- するめの麹漬け
- 甘酢ラッキョウ
鳥取を代表する食文化の1つ「とうふ竹輪」「あご竹輪」といった練り物が、駅弁で存分に味わえるのが、「とっとりの居酒屋」です。とくに「とうふ竹輪」は最初はふっくらした食感に豆腐のような印象を受けますが、かみしめると大豆と魚の味がフワッと広がって不思議な気分になります。酒の肴として作られた駅弁だそうですが、鳥取ならではの味を楽しむにももってこいの駅弁。元祖かに寿しと並んで、望月も大好きな鳥取の駅弁です。
―鳥取駅売店にも、コロナ禍に対応した「とっとりの居酒屋」のポスターがありましたが、この1年、さまざまな取り組みをされてきましたね。
阿部:正直、売り上げが90%減まで落ち込んだ時期もありましたし、会社がなくなるかと思いました。でも、お客様も外に出られないなか、「何かできることがないか?」ということから、全国の駅弁業者さんにご協力いただいて「駅弁お取り寄せ便」を行ったり、駅弁の通信販売も、クレジットカード決済対応とし、ホームページのリニューアルも行いました。「できることは何でもしよう」というのが、去年(2020年)から今年にかけての1年ですね。
―いずれ皆さんが鳥取に足を運んでもらえるようになったとき、阿部社長お薦め、駅弁を“美味しくいただくことができる”車窓は、どの辺りでしょうか?
阿部:弊社はかにの駅弁がメインですので、海を見ながら召し上がって欲しいです。必然的に「山陰本線」となりましょうか。西へ向かう場合は青谷・泊の辺り、さらに倉吉から西はよく海が見えます。東では餘部橋梁の付近でしょう。私は小学4年生のとき、夏休みの自由研究で当時の駅弁屋さんが作っていた駅弁の掛け紙を集めました。掛け紙を見れば土地の名物が全部出てくる、だから自由研究の対象としたと記憶しています。駅弁には、その土地の文化があるんです。
「元祖かに寿し」がなぜ美味しいのか、それは「オリジナル」の強さではないかと思います。アベ鳥取堂はかに寿しの開発と通年販売を通じて、無名だった松葉がにのブランド化への一翼を担いました。そこで培われたオリジナル性は、3代目正昭社長にも受け継がれ、強い郷土愛とともに、きょうも故郷と駅弁を守るため必死に闘われていると感じます。お出かけにいい時期になったら鳥取で、それまでは通販でじっくり味わいたい鳥取の駅弁です。
(初出:2021年4月21日)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/
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