劇場アニメ「映画大好きポンポさん」レビュー フィクションで創作を描く難しさと、失敗(1/2 ページ)
ネタバレあり。
「創作活動」をテーマとした作品は少なくない。小説家や漫画家が登場するフィクション作品は枚挙にいとまがなく、彼らの悩みや産みの苦しみを描いたドキュメンタリーはそれだけでもエンタテイメント足り得る。近年でもアニメを作るアニメ「SHIROBAKO」、漫画を作る漫画「バクマン」といった、ジャンルに自己言及するドキュメンタリックな群像劇が評価された。「映画大好きポンポさん」もその系譜に並ぶ、「映画製作にテーマを置いた映画」である。のだが、こちらは少々事情が異なる。
※この記事は「映画大好きポンポさん」のネタバレを含みます
まずざっくりとしたあらすじは以下のようなものになる。
本作のメインキャラクターは映画プロデューサー・ポンポさんと、新人監督のジーン。映画の本場「ニャリウッド」に君臨するやり手プロデューサー・ポンポさんは、祖父であるペーターゼン監督のコネクションを一気に引き継いだ敏腕で、見た目は幼女。そのお眼鏡にかなった映画好きの付き人・ジーンはある日の仕事が評価され、新作映画「マイスター」の監督をいきなり任されることに。ベテラン俳優とポンポさんの勘で選ばれた新人女優と共に、ジーンの映画製作が始まる……という筋書きである。
言えることとしてはまず、ものすごく世界が狭い。もともとが5分アニメを想定して構想されたものを漫画化した、ということに起因するのかもしれないが、登場人物の誰しもが原作の時点で、致命的に記号的だ。
「敏腕プロデューサー幼女」「世界一の役者」「アルバイトに明け暮れる女優志望の若者」という取ってつけたようなキャラクター造形に、魅力を感じるのは難しい。映画製作の過程についても細部を描くわけではないので、楽屋裏的な楽しみを得るわけにもいかない。
原作に比較して、唯一多めにキャラクター性を肉付けされているのがジーンである。ほぼ主人公といっていい存在である彼もまた原作の段階では、「映画オタク」という属性が服を着て歩いているような存在でしかなかった。そこを映画版では新規キャラクター・アランの投入、および監督としての個人作業である「フィルムの編集」をクライマックスに持っていく構成により、掘り下げている。
だが、それはまた同時にいくつかの問題を発生させている。1つ目はジーンのバックグラウンドのみを強固にすることで、その他のキャラクターの装置性がより浮き上がってしまうこと。全てのキャラクターは物語が後半に行くにつれ、ジーンを完全に理解し、無条件で承認する人間だらけになってしまう。そしてその過程において、ジーンはとりたてて彼らの心を変えるような行動を取っているわけではない。その結果、どうしてもご都合主義の面が強くなる。
2つ目はリアリティーラインのブレだ。そもそもがキャラクター、舞台設定の時点で非常にフィクショナルな理想世界で進む本作において、急に投資銀行の疲弊したサラリーマンが出てくるというのは少々バランスが悪い。主人公たちへの反発を呼ぶ障害としての外部かと思えば、彼もやはり瞬時にジーン側の人間となり、いきなり犯罪まがいの行為をしてまで味方する。世界観が現実的ではないとはいえ、これをどう飲み込めば良いのか理解に苦しむ展開だった。
最後にこの映画の根本に関わる。すなわち「90分の上映時間」、そして「誰のために作品を作るのか」、というテーマについてだ。
まず上映時間の90分について。本編で語られる「映画の長さは90分が良い」という話はポンポさんの過去の体験、加えて観客の集中力が持続する時間を考慮してのものだ。実際に人間の集中力が90分程度であるというのは一般的によく言われることで、このためかB級映画はその前後の上映時間で制作されることが少なくない。
しかしそれはそもそも物語の筋書きが横道にそれることなく、無理な引き伸ばしもないことが大前提。製作者の、「これを見せたい」というテーマがはっきりとしていなければできないことだ。ただ時間が短ければいいい、という方は「ジュラシック・シャーク」か「デビルシャーク」を見てみるといい。本編70数分とは思えないほどの退屈と尺を稼ぐための引き伸ばしの嵐に、自分の集中力が死ぬ声を聞くことになるだろう。
本編がジャスト90分である「ポンポさん」については、これらほどとは言わないが、そもそもの物語が動き出すまでの長さ、そして再撮影、アラン視点の導入、ジーンの入院……と、不自然に障害が続く展開は、正直なところかなり冗長だ。
作品の作りとしての問題だが、ここまでジーンたち一行には一切“敵”がいない。スケジュールをかき回すトラブルメーカーもおらず、ハプニングとしての失敗は起こり得ない。成功が確定している以上、彼が入院しようがしまいが、そこにスリルも達成感も生まれようがない。
そしてテーマについて。物語のクライマックス、膨大な撮影テープに囲まれた編集作業に煮詰まったジーンが到達するのは、「あの日の自分に向けた創作」という真理である。映画に救われてきた自分、その自分が喜ぶような作品にするため、これまでにみんなで創ってきたシーンを切って、切って、切っていく。通常は皆の力を併せて問題を解決していくというのが王道であるところに、あえて「利己的に切り捨てていく」ことで自分の作品を作り上げる、というのは原作に存在しない、確かに面白いところだ。
だがそうであれば、「マイスター」の上映時間がジャスト90分だというのは腑に落ちない。ジーンは自分の好きな映画を挙げるシーンで、「映画の中になるべく浸っていたい」「長ければ長いほどそれだけ映画の中にいられる」という趣旨のことを話している。この世の映画が全部好き、というジーンだが、試写室で「ニュー・シネマ・パラダイス」(おそらく約175分の完全版)を見るほどの筋金入りの長編作品ファンであることが描かれている。であれば、「マイスター」が「90分間なのが気に入っている」となれば、本作の最も重要なテーマがブレてしまう。
原作版では、「映画を見てもらいたい対象」がポンポさんであることが匂わされているため、そこに矛盾は生まれない。ただ映画版での「マイスター」は、明確にポンポさんに向けられた映画というよりも、ジーンの個人的な物語としてフィーチャーされている。であれば最後のセリフが原作のままでは、「ポンポさん」本編が90分間である、という楽屋オチ以外の意味を失ってしまう。このセリフに関してそのままで使うには、より異なる理由が必要だった。
創作の中で、創作論を語るのは難しい。なぜなら「こういうのが良い○○だ」と作品内で述べたことは、その作品自体が守らなければならない戒律になりかねないからだ。それを避けるため、創作を描くフィクションは群像劇になりやすい。お仕事モノというジャンルにすることで作中作自体の出来が不問になるという利点に加え、さまざまな人間に異なった主張をさせることで、責任が分散できる。また、作品自体の評価は描かないことが多い。フィクション内においては「作品の完成」がゴールであり、その評価を無為に高めることは、どうしてもむずがゆさにつながってしまう。作中作と本作の上映時間が同一であることも踏まえればなおさらだ。
本作はその手を取らず、自ら上げに上げたハードルに突撃した。かつ、作品内で「あらゆる賞を総ナメにする」という自己評価まで行ってしまった。それを勇敢ととるか、無謀ととるかは観客次第だ。もちろん本作もまた、誰かに向けた物語なのだろう。残念ながらその顔は、私の方を向いていないようだ。
(将来の終わり)
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