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» 2021年07月25日 22時00分 公開

妖精? 妖怪? 目撃相次ぐ謎生物「ケサランパサラン」とは何なのか?

[日本気象協会 tenki.jp(http://www.tenki.jp/)]
Tenki.jp


ガガイモの成熟した綿毛。植物に疎い現代人の盲点をつくように謎の生物に

 科学文明が発展し、世界にある不思議な出来事や事物の謎が駆逐されていく現代。それでも未確認生物や不可解な現象の目撃は未だに後を絶たず、つい先月には、アメリカ合衆国の情報機関のトップである国家情報機関室が未確認飛行物体(UFO)の報告書を公開し、科学的に説明がつかない謎の飛行物体が実際に確認されていることを明かして話題となりました。日本でも多くの未確認生物や現象が話題となっていますが、その中のひとつにかわいらしい外見の『ケサランパサラン』があります。季節的には7月ごろから秋にかけて、目撃されることが多くなります。なぜなのでしょうか。

会いに行けるUMAケサランパサラン。その概要

セイヨウオニアザミ。風に乗ると意思があるように動き回ります

 全国各地には、真贋はともかくとして河童や人魚、龍などのミイラや骨と伝わる伝説の遺物が保存されています。また近年では写真や動画に、UFOや伝説的UMAが記録・目撃されるなど、事例に事欠きません。

 とはいえ、未確認生物の生体や物体の実物を捉えたというケースはありません。ところが唯一、生きたまま捕らえたとされ、それをケースに入れて展示される例外中の例外の謎生物がいます。ケサランパサランです。

 大きさはピンポン球から鶏卵ほどの白い毛玉です。正体についての仮説には鉱物のオケナイト(okenite)説や菌類(きのこ)説、渡り鳥のダウン羽毛説、クモの子のバルーニング(尻尾から糸を出して空を飛ぶ生態)、あるいは妖狐・妖蛇などの類が体内に持つある種の霊力のある玉が外に飛び出したもの説などもあるものの、主流となっているのは、ふわふわ空を飛ぶ綿毛タイプと、桐箱などに収められたおはぎのような毛玉タイプのふたつで、綿毛タイプは、戦後比較的近年になってから急速に同定されだしたものです。

 1970年代のUMAブームの折、岩手県山形村で、全国にありふれた蔦植物のガガイモの種子の冠毛が風に吹かれて飛ぶのをケサランパサランだと噂されたのがきっかけで、植物の綿毛系ケサランパサランは一挙に近年の主流となりました。

 その後1960年代に帰化して全国で野生化分布したセイヨウオニアザミ(Cirsium vulgare)の冠毛はひとつずつが大きく、端正な球形のかたちで、軽くてよく飛び、人が近づくわずかな風圧で容易に浮遊することから、意思をもって逃げているように見え「本物のケサランパサラン」として採取され、ガラス瓶に入れられるなどして販売もされます。

 一方、桐箱に収められた毛玉系のものは綿毛系よりも歴史が古く、主に東北地方の旧家で、他人に知られずにひっそりと保管されてきました。その正体は、猛禽がウサギやテンなどの動物を捕食した後に吐き出した未消化物(ペリット)がたまたま丸くなって乾燥したものともいわれていますが、はっきりとはわかっていません。

 民間では「ケーサラパーサラ」とも呼ばれ、持っているとその家は「ふくしく(裕福)になる」とされますが、所有していることを他人にもらすと神通力が失われるため口外しないせいで、どれほどの家がケサランパサランを所有しているのかは不明です。

 民俗学者の岩崎敏夫氏は、福島県相馬市の実家にケーサラパーサラがあり、小さなお宮のミニチュアに収めて神棚に祭ってあると記述しています。さらに岩崎氏は口外してしまったためか、「ついぞ裕福になったためしがない」と述懐しています。

 実はこの「岩崎家のケーサラパーサラ」は、昨年(2020年)に岩手県遠野市で開催された「遠野物語と怪異」の企画展示で、実物が展示されていました。おはぎに全体に白い獣毛が生えたようなていで楕円形でぼってりしています。

 山形県鶴岡市の加茂水族館にも「実物」のケサランパサランが展示されています。展示の説明ではケサランパサランは天から(空から)降りてくるとしています。つまり、飛ぶとは思われないおはぎ形のケサランパサランも、冠毛のふわふわしたものもどちらも空から飛来したという点で共通しています。空から降ってくる毛状の謎物体。となると、該当する現象がひとつ思い当たります。

江戸時代になぜか頻発! 空から毛が降ってくる?

火山の大噴火が相次いだ江戸時代。謎の降毛が何度も観測されました

 降毛については、室町時代末期ごろから江戸時代にかけて多くの記録が残されています。天文19(1550)年八月三日の会津地方の降毛をはじめとして、記録されているものだけでも江戸末期までに30回以上。

 これらの降毛は火山毛(ペレーの毛)だとする推測がなされており、実際宝永噴火として名高い宝永4(1707)年には、驟雨雷鳴 して一尺(30cm強)もの長さの白毛が降ったとされています。天明3(1783)年に記録されている浅間山天明噴火では、各地に火山硫黄毛が降り、長野県須坂市の山下八右衛門家文書に「天明三癸卯年七月六日ヨリ八日迄浅間山大焼之節砂石共降毛」と記されています。

 16世紀から19世紀初頭にかけては、富士山、阿蘇山、霧島山、浅間山、三宅島、桜島等が相次いで噴火しており、この当時の降毛を火山毛とするのは十分考えられることです。ただ、火山毛が発生するのは、ハワイのキラウェア火山のように粘度が低くさらさらとしたマグマが噴出したものが空中で凝固した場合にできるとされていて、粘度の高い日本の火山で果たしてそれほど頻繁に発生するのかは疑問が残ります。

 その上、明和6(1769)年に京都近辺や伊勢地方(三重県)、天保7(1836)年には江戸および磐城(福島県)、畿内五カ国および東国に降毛が見られた記録がありますが、対応する噴火が見当たらず、何に由来するものかはわかっていません。江戸城下での記録は詳細で、毛の長さは長いものは三寸、短いものは二寸ほど、色は白が多く、中には茶色や黒の混じる斑毛もあったとあります。

 近世に頻発した火山の大噴火は、深刻な凶作をたびたびもたらし、特に天明・天保の大飢饉は寒冷地である東北に深刻なダメージをもたらしました。しかしこのときを契機として、養蚕が東北地方で隆盛となるのです。

 日本の養蚕は長らく低迷し国内需要をまかなえない状態で、中国から絹織物を大量に輸入していました。絹輸入のせいで貨幣が大量に流出し、経済破綻を懸念した八代将軍徳川吉宗は養蚕を殖産奨励、江戸後期には養蚕はかつてないほどの隆盛となり、桑の生育不良など養蚕に不利な寒冷地である東北や北陸、北関東でも技術革新で絹が産出され経済流通が見られるようになったのでした。

 そしてこの時代、中国で古くから伝承され、『捜神記』や『法苑珠林』などの古い説話集に見られる「蚕馬(さんば)」伝説(馬娘婚姻説話)に基づく蚕神信仰が盛んとなり、東北の土着民俗神である「オシラサマ」が広く信仰されるようになります。

 オシラサマは主に二体の桑の木で彫った人形に貫頭衣を着せたもので、人形の一体の頭は馬、もう一体は少女の頭部で(ネコのような獣耳がついているパターンもあり、これは養蚕の天敵であるネズミを駆除してくれるネコ信仰からでしょう)男女一対といわれます。カイコは、頭のかたちが馬に似ていること、背中に馬蹄形の模様が浮き上がることなどから馬と、やわらかく白い体が若い女性に似ていることから少女との混成体とみなされ、中国の蚕馬説話ではこんな伝承があります。

 娘が愛馬と交わったため怒った父親が馬を殺して皮をはいでしまいます。すると馬の皮が娘を包み、空へと飛び去ってしまいます。後日、その家の庭の桑の木に、馬の皮と娘の遺体がかかっていて、それが大きな蚕に化身をした、というものです。

 ですからカイコは「蚕女児」「蚕姑娘」とも、また「馬頭娘」とも呼ばれるのです。この伝承は『怪談全書』(林羅山 1698年)に記載されて、日本でも受容されていきます。

 江戸時代後期から明治にかけて蚕神信仰の聖地として多くの信仰を集めた茨城県の筑波山麓にある蚕影(こかげ)神社では、天竺から桑の木で造った空穂舟(うつぼぶね うつろ舟とも)に乗って漂着した金色姫が蚕に化身をし、絹を人々にもたらしたという起源譚が語られます。

オシラサマとの共通項から見えてくる? ケサランパサラン名前の由来

頭が馬に似、背中に馬蹄。蚕は馬が化身したという伝説が

 馬とかかわりの深いオシラサマ信仰の分布の中心である東北が、ケサランパサラン信仰の中心地であることはとうてい偶然とは思えません。

 ケサランパサランは白粉を食糧とするという伝承がありますが、オシラサマも春秋二回の祭日に行われる「オシラアソバセ」では、白粉を人形の顔にまぶしてやるという行事が知られます。オシラサマ信仰の隆盛した江戸時代以降に、ケサランパサランも登場しているのです。

 江戸時代に頻繁に見られた降毛現象で、降り落ちてくる毛が馬のたてがみや尾の毛に酷似している、ということは、当時の養蚕に携わる人々には容易に馬頭娘伝承との関係を想起させたでしょう。東北の絹糸流通の集積地として知られていた山形県鶴岡市の水族館に、ケサランパサランの実物展示があるのも偶然ではないでしょう。

 降毛は凶作などの悪い予兆(火山毛だとしたら、噴煙で太陽光がさえぎられて寒冷地に冷害をもたらします)と考えられてきましたが、そんな中ごくたまに見つかるやはり毛に覆われた不思議な玉は、災難を除き、福をもたらす霊力を持った天から贈られたアイテムだと考えられたのかもしれません。

 このように考えていくと、ケサランパサランという不思議な名前の由来も見えてきたように思います。「けさらんぱさらん」は明らかに半畳語(ずんぐりむっくり、有象無象、のらりくらり、ふんだりけったり、てんやわんや、ちやほや、ちんぷんかんぷん、押し合いへしあいなど)で、たとえば植物の「なんじゃもんじゃの木」なども同様で、脳裏に残りやすく、伝聞しやすいミーム語の一種です。

 「け」は毛でしょう。「ぱ」はバ=馬から転じたとも「羽」から転じたとも考えられます。「け」「ぱ」それぞれに「さん(蚕)」、そして親愛の意味のある接尾語「ら」がつきます。これで「けさんらぱさんら」となります。これが、より調子がいいように「けーさらぱーさら」→「けさらんぱさらん」へと転化していったのではないでしょうか。

 セイヨウオニアザミの冠毛が飛び始めています。確かに不思議な動きを見せる冠毛を眺めながらケサランパサランについて空想をめぐらしてみるのも楽しいかもしれませんね。

馬の頭と少女の顔の対のオシラサマ。ケサランパサランとの関係は

(参考・参照)

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