「キネマの神様」菅田将暉が明かす、志村けんさんとの別れを乗り越え生まれた“使命感” 「何としてもやり切って公開を」(2/2 ページ)

» 2021年08月06日 18時00分 公開
[斉藤賢弘ねとらぼ]
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ゴウを演じる上で参考にした「感情」

―― 菅田さんが演じた「過去のゴウ」は大きな才能を持ちながら、夢破れて映画とは別の人生を歩みます。非常に複雑な役柄ですが、演じる上で最も参考にしたことは?

菅田 山田監督が話してくれた中で、「現場で昔一緒だった助監督の方」が心に残っていて。ゴウのように才能豊かで、面白い発想を持っていて、周囲も期待していた方でしたが、女性やお金のことを巡って結局現場を去っていったようです。

 うかがったエピソード自体がそのまま本作に通じますけど、かつての同僚を語る山田監督の表情が印象的で。才能がとうとう形にならなかった“さみしさ”と、「アイツはやっぱりそうなってしまうのか」という“諦め”が両方にじんだ顔をされていて、僕は自分なりに「周りの人が山田監督と同じ顔になってくれてたらいいのかな」と受け止めて演じていました。

―― 特にこだわった点についてはいかがですか?

菅田 まず助監督然とするところでしょうね。僕らが映画作りの中で一番接する人なので、「誰が現場で助監督だろう?」というのは一番気になるし、指名させていただくことも多々あります。

 山田監督と助監督という仕事について話したり、カチンコの鳴らし方も教わったりしました。当時のカチンコって、「フィルムがもったいない」って怒られるから、コンマ何秒の間にできるだけ早く鳴らすんだということを聞いたり。

 一番気を付けたのは、あの時代特有の空気感。山田監督から小津安二郎などの資料をいっぱいいただいたので、当時の写真をずっと眺めたり、「東京物語」を見たりして現場に入りました。

野田さんとの「うたかた歌」は新しいスタートライン

―― 本作のエンドロールでは、菅田さんと野田さんによる主題歌「うたかた歌」が流れます。どのようないきさつで生まれたコラボですか?

菅田 俳優の立場としては、「自分が出演する映画のエンドロールを自分で歌う」のは違和感があってとても落ち着かなくなります。作品からいったん離れたところで、自分の歌声が急に聞こえるというのは抵抗感を常に覚えるので、なるべくやらないようにしてるんです。でも、今回のケースはすごく不思議で。

 ゴウの過去パートを撮り終わった矢先、志村さんの逝去を経験して、現場がコロナ禍でストップしたタイミングで、野田さんが「『今回ご一緒できてありがとうございました』っていう気持ちを込めて1曲できたんで、どうか聞いてください」と、この曲を送ってくれたんです。

―― 送られた曲を耳にして最初どんな感想を抱きましたか?

菅田 1番の部分しかなかったんですが、もう本当にすてきな曲だなって感じました。「お手紙」として曲を作るなんて野田さんにしかできないことで、僕は1人のリスナーとしてただただ感動して、「こちらこそありがとうございました!」という思いでいっぱいでした。

 「いつか歌いたいなぁ」という思いも確かにありましたが、野田さんと歌うことになったときはやっぱり驚きましたね。でも今思えば、みんなが「映画がどうなるか分からない」「撮影がこのままできるかどうかも分からない」と精神的に停滞していた中、野田さんが「うたかた歌」を届けてくれたことによって、「キネマの神様」がまた動き出した感じがします。本作と同じように、人と人とのつながりで作品が動いていくように思えたんです。

―― お話を聞いていると、「キネマの神様」は一度大きな“喪失”を経て、新しく“再生”したというイメージに受け取れます。

菅田 そうですね。「うたかた歌」が僕の中では“再生”の基盤です。野田さんの中でも、撮影現場の出来事がこのままだとなかったことになっちゃうという怖さがあって。その思いが結構曲に込められているように感じて、「そうですよね」という気持ちになったところが僕にとってのスタートラインになりました。

―― 曲のどの部分に、“再生”の意思を強く感じましたか?

菅田 曲冒頭の「夢中になってのめり込んだものがそういやあったよな」から撮影現場を思い出して、続くサビ部分の「悔やむにはどうやら命は短すぎて」で命の話へと展開する部分では、どうしたって志村さんのことを考えます。また、ゴウのことも思い浮かべたのでそのあたりです。

 完成作品の鑑賞後に「自分が歌ってたんだ……」「ああ、よかったな」って安心しました。本編ともなじんでいて、ちゃんと「ゴウの歌」に違和感なく聞こえたからよかったですよ。

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抱いていたのは「何としてでも公開を」という使命感

―― 「キネマの神様」は多くの困難を経て完成しました。クランクインからクランクアップまでに、作品へ向かう姿勢や意味付けはどう変わりましたか?

菅田 どれだけ大変な現場でも「なんだかんだいっても終わらないことはないよね」「最後には撮りきれるよな」というムードなんですけど、今回は本当に止まらざるを得ない、みんな何もできないという状況。志村さんと一緒に映画製作を経て、コミュニケーションを取って思い出ができるであろう未来がなくなったっていう喪失感もあって、どう悲しんでいいかも分からない。

 そこから山田監督はじめ、僕らチームは諦めることなく、映画をちゃんとお客さんに見てもらおうっていうパワーで動いて。「何としてでもやり切って公開しよう」「考えるのはその後」みたいな使命感で動くようになっていたかもしれないですね。

―― 「キネマの神様」からは、全編通して映画の生命力を、そこに一生をかけた人間の存在を感じました。菅田さんは今後どんな俳優人生を目指していますか?

菅田 その場その場の出会いやタイミングで基本的には生きてきましたが、30代以降は自分の人生をちゃんと謳歌(おうか)しないと、作品にきちんと向き合えないなという感覚が今はあります。

 自分の人生をずっと無視して仕事してきたので、ここからはバランスを取って一個一個の作品に向き合っていかなきゃっていう心持ちです。

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スタイリスト:猪塚慶太/IZUKA KEITA ヘアメイク:古久保英人(OTIE)/ EITO FURUKUBO(OTIE)

(C)2021「キネマの神様」製作委員会

映画『キネマの神様』

出演:菅田将暉、沢田研二、永野芽郁、野田洋次郎、リリー・フランキー、前田旺志郎、志尊淳、北川景子、寺島しのぶ、小林稔侍、宮本信子

監督・脚本:山田洋次

原作:原田マハ『キネマの神様』(文藝春秋刊)

配給:松竹


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