鈴木さんと富永さんのバトルは「最初からお願いした」―― 令和によみがえる「お笑いマンガ道場」初代Pと放送作家が語るお化け番組の裏側(4/5 ページ)
―― お2人はそれぞれ何年くらい番組に関わってらっしゃいましたか?
澤田:大岩さんは最後まででしょ?
大岩:最後までじゃないと思うよ。
澤田:(最終回の台本を見ながら)あ、外れてる。いつごろだろう? スタッフに三谷幸喜がいたんですよ。出来は悪かったけど(笑)。名古屋の他局の番組に出たときに、名古屋駅のそばで「僕はずっとマンガ道場で名古屋には来てたんだ!」って言ってましたから、隠してるキャリアではない。
大岩:多分外れたのは、最終回の3〜4年前かなあ。
澤田:18年続いてますから、大岩さんは15年くらいやってるはず。僕は3〜4年なんだよな。「11PM」(木曜の「11PM」は大阪YTV制作で、系列ローカル局が制作に参加できた)とかやりたかったんですよ。いろいろやりたいものがあって。ちょうど「ズームイン」も始まったりして、いろんな事情があって。たしか僕は3年か4年やって一緒にやっていた伊藤くんにプロデューサーを任せて離れるんですね。ただ、顔は出してましたから。スタジオに行けるときはしょっちゅう行ってました。
―― 鈴木さんと富永さんのバトルはいつから始まったんですか?
澤田:最初から僕がお願いしました。大喜利って言った時点でそうですもん。
大岩:「笑点」の歌丸・小圓遊のポジションですね。
澤田:ちょうどその2人です。要するにテレビ的に鈴木さんも富永さんも素人だから、何らかの演出のお願いはしないといけないだろうと、2人に「ケンカしてほしいんですよ、両端に置きますから」って言ったら、「アレだね?」って2人も分かるわけですよ。でもちょっと照れくさそうにね、「え〜?」ってな感じでしたけどね、これが予想以上に面白いわけですよね。面白いんで彼らもノルわけですよ。最初は半信半疑だったし、抵抗感もあったと思います。でも僕の予想を裏切る面白さで、2人も面白いということが分かってきて。細かいことを言うと、鈴木さんは無表情だからあんまりリアクションできないんですよね。一方、富永さんは「ん?」という表情をするしタレント性がある。あとは2人にはマンガの表現力がむちゃくちゃありますからね。
―― あの2人の掛け合いは印象的でした。
澤田:富永さんが亡くなったときに、ネットのみんなの書き込みが「アレは本当は仲良かったんだ」「そんなこと分かってるじゃねえか」って書いてあったから、あ、これは演出でやっているとかなりの人たちが分かってると思うので、言っちゃって構わないと思うんですが、あそこまで面白くなるとは僕も思わなかったです。
―― それを楽しみにしている視聴者もたくさんいました。
大岩:ただ一方で、やっぱりマンガっていう特性なのかなあ。マンガ好きにはたまらないんだけど、一つのバラエティ番組として見る人にはダサく見えるところも当時はあったようです。
澤田:富永さんも書いてるけど、放送当時はアニメ・コミックの勢いのいいときだったから、コママンガに対する郷愁というか、僕なんかは古い人間だからあるんだけども、その話をよくしました。「こんなの当たらないだろう」って富永さんのほうが冷静だった。来期も放送されることが決まったときには「ワンクールもたないと思った」と言ってました。彼はわりと単発でテレビに出ていた人ですから。僕ね、2代目プロデューサーの伊藤くんと一緒に雑誌の取材に出たことがあって、それもね、コママンガの特集をやってる東京のすごいマニアックな雑誌で、「どうしてこの番組を作ったんですか?」と若いスタッフに聞かれました。コママンガってアニメやコミックに比べると狭い世界のものなんですよね。
―― でも結果的に18年も続きましたからね。
大岩:思い付きは大事だよね。
澤田:僕は思い付きと、あともう一つ、過程、練り上げていくプロセスは本当に大事だと思いましたね。「他にない、自分の一番の核になるものはなんなんだ?」っていうところは大事だなあと思います。だから大岩さんが忘れた、このフリップを使った2コマの見せ方は大事なんですよね(笑)。
―― 想定した視聴者ターゲット層は?
澤田:ターゲットは広いですね。まあ、若者とは言いにくいですが。だからもうちょっとかっこいい番組をやりたいなあと思って、その反動が僕の次の番組に出るんですが。若者ウケみたいなものをやろうと思って、それが名古屋ローカルで「5時SATマガジン」っていう番組になりました。土曜の5時のマガジンのような番組っていうコンセプトです。
―― 「5時SATマガジン」は反動なんですね(笑)。
澤田:だって「お笑いマンガ道場」のタイトルを大岩さんが見ながら、「なんかダサいタイトルだよなあ」って(笑)。大岩さんは「ひょうきん族」とかやってる頃だったから、もっとおしゃれなタイトル考えろよって。
大岩:それは覚えてる。「“お笑い”って……」って言った(笑)。
澤田:「澤田くんがそんなタイトルつけるとは」って言われたんですよ。僕は僕なりにちょっとダサめなほうが親しみを持たれるだろうっていう姑息(こそく)な計算ではあったんですよ。
大岩:見事に当たったね。澤田さんってどちらかというと「5時SATマガジン」の感覚の人なんですよ。5時SATマガジンをやる前から、そういうセンスを志向しているし、そういうセンスを求めているディレクターっていうのがずっとあったから、だから「お笑いマンガ道場」というタイトルが出てきたときに、「どうしちゃったんだ!?」っていう(笑)。
澤田:企画も企画だし、タイトルもタイトルだし。
大岩:“お笑い”に“道場”だもんねえ。
―― ちょっと「いなかっぺ大将」みたいな感じですよね。
澤田・大岩:そうそうそうそう。
―― なんで“道場”にしたんですか?
澤田:悩んだんですよ、これは〜。最初、“講座”っていうのを考えたんですが、これは略すと下ネタみたいになっちゃうからまずいなと思って(笑)。本当は“講座”くらいがちょうどいいんですけどね。“教室”だとちょっとなあって。内容は道場じゃないんだけどなあと思いながら、なんで付けたんでしょうね。あんまりいいのがなかったんですね、多分ね。
―― でも道場のおかげで、パンチ力は出ましたよね?
澤田:う〜ん、結果論ですねえ。
大岩:タイトルはね、当たるとよくなるってのは昔から言われてるからね。外れるとタイトルがダサいって言われる。
―― タイトルのよしあしは後で決まると?
大岩:もちろん「5時SATマガジン」なんてのは相当考えたタイトルだと思うし、自分がやった番組だと「ひょうきん族」なんかもそうだと思うけど……。
澤田:「ぴったし カン・カン」とか。
大岩:それもそうで、考えに考え抜いたタイトルなんだけど、「8時だョ!全員集合」ってバカみたいなタイトルじゃないですか。だけどやっぱり歴史を作ったいいタイトル。当たればね。お化け番組になればね。だから僕はタイトルってそんなに、多分ね、この「お笑いマンガ道場」からタイトルにこだわってないと思います。だからそういう意味でも番組は当たらないとダメなんですよ。自分がやってきた番組ってみんなそうだな……。
―― では大岩さんは最初に、田舎臭ささえ感じるタイトルにちょっとびっくりしたんですね。
大岩:その瞬間だけですよ。別に番組が始まってからはそんなこと全然。そんなことに関わっていられなかったし、中身をなんとかしていかないといけなかったら。まあでも楽しかったなあ、中身を考えるのはね。
澤田:このタイトルは時間がない中で考えましたしねえ。その前に結局流れてしまった別企画があって、そのときにもっとキザなタイトルを付けたんですが、それを後に5時SATにしたんですよ。マンガ道場のときは切羽詰まって考えた記憶があります。で、自分でもダサいなーって思ってます。だから大岩さんに言われたときはドキッとしました。「なんだ、高畑さんかと思ったら、澤田くんが考えたの?」といわれて、わ〜って恥ずかしくなった(笑)。
大岩:高畑さんという部長は、本当にそういうキャラクターだったんですよ(笑)。なんかいかにも付けそうだなっていう。逆に澤田さんが気の毒だったんですよ、部下として言われちゃったからさ、使わなきゃしようがなかったんだなって。
―― でも、私は当時小学生だったのですが、このタイトルだからこそ見たという記憶があります。これが例えば「5時SAT」だったら、ちょっと大人向けの番組なのかなと敬遠したかもしれません。
澤田:どこで見たの? 大阪? 大阪はわりと早くからオンエアしてたからね。大阪のお笑いにハマったのが大きいよね。
―― 「笑点」には東京っぽさを感じますが、マンガ道場にはそれがないですよね。
澤田:江戸っ子の風があるよね。僕は三波伸介さんが司会のときに、見学に行ったり、収録を手伝ったりしてましたよ。
―― マンガ道場と同時にひょうきん族も見ていました。
澤田:それまたすごい組み合わせだな(笑)。ひょうきんの構成やってたから大岩さんによく聞いたんだけどね、作家も考える、美術さんもものすごく考える、演者もそれを喜ぶ。みんながノッてきてるんだって話を聞いて、いいなあ〜って。どこかが負担するだけじゃなくて、みんながノッてきて、その相乗効果でどんどん面白くなっていった。当たるってのはそういうことなんだなあって。
―― 当たる番組にはそういう循環が必ずあるのでしょうか?
大岩:ありますね。隅々にまでね。逆に隅々にまで神経を使った番組で外れることはないですよ。外れるのはやっぱりどこかで手を抜いちゃってる。
―― スタッフみんなが一人一人ちゃんと機能している感じなのでしょうか?
大岩:そうですそうです。みんなが番組のことを考えていれば、心象的な話で申し訳ないんですが、エネルギーが集中するんでしょうね。テレビはやっぱり生モノだってのを感じますよ。ジャンルを超えて番組のために集中できる空気がちゃんとあるかどうかが、番組の当たり外れに関わってきますよね。例えば美術のことに口を挟むのはディレクターの仕事だったり、美術の仕事だったりするんだけど、僕はけっこううるさく言うんですよ。領域関係なしに、セットと色に関しても、細かく注文つけたりするんですよ。
澤田:そういうとき、大岩さんは「なんで?」って聞くんだよね。「なぜその色にしたのか?」って。「ダメだよ」って言うんじゃなくて、その色にしたディレクターの考えを聞こうとするね。考えてないと答えられないわけですよ。ドキッとしますよね。
大岩:そういうことを言うから煙たがられるんですよ。
―― 大岩さんのセットに対するこだわりとは?
大岩:一番はそこに佇む人、その人がちゃんと引き立つセットであったり、色であったり、照明であったりするのかどうかですね。大体デザイナーだからいいデザインを考えるんだけど、そこに演者が入ると埋没しちゃうことがあるわけですよ。全てが人を引き立たせるための材料じゃないですか。そうなってるかどうかが一番重要です。
―― あくまで背景じゃないといけないということですね。
大岩:いまだに番組を見てても思うんですけど、日本ほど色使いの多い番組はないですよね。欧米がいいか悪いかは別として、3色、あるいは4色だと多いですよ。どんな番組見ても。あと、すぐに花を置きたがるんですよ。それはデザイナーの能力を放棄していると僕は思っているんです。セットに花を置かないと空間が埋まらないみたいなね。だけど優れたデザイナーは、例えば昔の「ミュージックフェア」で言うと、シワシワの壁だけでも十分効果が出て、歌手も引き立つと。だけど今の番組はグッチャグチャになっちゃって……。
―― 花が置いてある番組、確かに見たことがありますね!
大岩:僕は「世界まる見え!テレビ特捜部」っていう番組もやってるんで、世界中のテレビを見るわけですよ。そうするとね、日本の番組のデザインはまだまだだなあって思いますね。だからセットを作る人たちは舞台をちゃんと見てないと。舞台は絶対にそんなことないですから。ちゃんと人を立たせるようになっている。テレビはそこがねやっぱりね……いまだに気付いていないですよ。
―― 確かに足し算ばっかりな気がしますね。
大岩:この番組では誰に注目してほしいのかっていうことをみんなが考えれば、デザイナーも照明もカメラマンも、自然と削ぎ落としていくんですよ。それができてない、みんなそれぞれのパートをやってる感じで。でも視聴者の目線で考えたら、普通に分かりそうなんだけどね。目がチカチカして嫌だろうと思うんだけどね。
―― 特に今は薄型テレビになって大画面化しているから、よけいに圧を感じて、パチンコ屋の中に放り込まれた感じがします。
大岩:そうそうそう(笑)。
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