【寄稿】「ElecHead」という傑作 人生を削って作品を磨き上げるということ
年末にかこつけて、編集部員が好きなことを書く特別企画。ここでは副編集長・池谷がこの間遊んで感動したインディーゲーム「ElecHead」について、池谷の個人noteから転載します。
※この記事はねとらぼ副編集長・池谷が個人的に参加しているnote「ゲームライターマガジン【基本無料版】」から転載したものです(→元のエントリは10月30日に掲載したもの)。
なんの気なしに遊んだ「ElecHead」(Steam / itch.io)がめちゃくちゃ面白かった!!!
いやーすごかった。スタッフロールが流れはじめた瞬間、心の中では椅子から立ち上がって拍手してました。深夜でなかったら、多分ホントに立ち上がって拍手していたと思う。
たった一つのギミックを限界まで掘り下げ尽くして、さらにその向こう側まで見せたうえで、やれること全部やったら一番気持ちいいところでスパッと終わる。ゲームスタートからエンディングまで、一時たりともダレる瞬間がなく、トップスピードのまま走りきった。
ゲーム開発者から絶賛されているというのも納得で、ゲームを作っている人、あるいは一瞬でも「ゲームを作ってみたい」と思ったことがある人なら少なからず「やられた!」「これがやりたかった!」と悶絶するんじゃないか。誇張抜きで本当にそれくらい完成された作品だと思います(僕は悶絶した)。
1行で説明できちゃうルール
ゲーム内容は、「勝手に通電しちゃうロボットになって、いろんな仕掛けをクリアしていく」――以上!
一応、中盤で「頭を飛ばす」というアクションが解禁されるので大きなギミックは実質2つなんだけど、とにかく、
- 触っている場所には強制的に通電してしまう
- 主人公は頭だけ飛ばして分離することができる
――という、たったこれだけの要素で、これほどのアハ体験と満足感を成立させていることに最後まで驚かされっぱなしだった。
ごく簡単な仕掛けから始まり、次はそれよりちょっと難しい問題、その次は少し発想の転換が必要な応用問題……と、次々出てくるパズルは全て「勝手に通電しちゃう」という共通ルールを下敷きにしつつ、どれ一つとして同じものがない。しかも常に新しいことをちょっとずつ求めてくるので、毎回新鮮な「解けた!」という快感が最後まで続く。
冷静に考えると、他のゲームでもよく見る「スイッチのオンオフ」を「勝手に通電しちゃう」に置き換えただけなんだけど、「スイッチのオンオフが思い通りにならない」というだけでこれだけの遊びを生み出せるものかと感動してしまった。レベルデザインもすばらしく、アイデアに溺れることなく、「勝手に通電しちゃう」というギミックでやれることの全てをこの1本でやりきっている。
「開発期間5年」の重み
ところでこのゲーム、最初に世に出たのは2016年なんですよね。「日本ゲーム大賞 2016」のアマチュア部門で、このとき既に優秀賞をもらってる。
受賞コメントによると、この時点で開発期間3カ月だったらしいんですが、実際にリリースされたのは2021年。この規模のゲームで開発期間5年というのはかなり長い方で、失礼ながらTwitterで開発中の動画が流れてくるたびに、「そういえばまだ出てなかったんだ」くらいの感じでボーッと眺めていたりした(本当に失礼)。
しかしいざ遊んでみて、「そりゃ5年かかるわ!!!」と、過去の自分の頬をひっぱたきたくなった。この5年間がなかったら、恐らくここまでのゲームにはなっていなかっただろうなと思う。
あらためて当時の動画を見てみると、初期バージョンの時点で既にゲームの骨格部分はほぼ出来上がってるんですよね。その気になれば、多分2年目くらいの時点でエイッとリリースしちゃうこともできたはず。だけどそうはしなかった。
実際に完成したゲームと見比べてみると、完成版は本当に限界まで情報を削ぎ落としたデザインになっているのに対して、初期バージョンは画面構成もレベルデザインもまだまだごちゃっとしているのがよく分かる(完成版は文字や余計な装飾を全部取っ払って、レベルデザインだけでルールや行き先などが全部分かるようになっている)。初期バージョンでは最初から使える「頭を飛ばす」というアクションを、完成版では途中からアンロックするようにしたのもうまい。
んで、初期バージョンの動画と、「開発期間5年」という事実を見て思ったのは、
「それだけ時間をかけて磨き続けたらそりゃ面白くなるわ!」
という納得感が2割くらい。それから、
「そうは言うけど本当にこれを5年間作り続けられるか!!???」
という驚きと恐怖が8割くらい。
いや、そりゃ作り続ければいいものにはなるだろうけど、ましてや個人制作のインディーゲーム、発売延期になっても延びた分の制作費を会社が出してくれるわけでもない。作り続けるのは作者の自由でも、同時にそれには多大な犠牲が伴うわけですよ。時間とかお金とか、あと人生とか。
インディーゲーム、たまにこういう「人生を削って作り込んじゃったゲーム」に出くわすんですけど(確か洞窟物語も開発期間5年だったはず)、なんというか、才能ある人がその人生の一部を費やしてまで磨き上げてくれた作品を享受していると、ひたすらもう「ありがてえ……ありがてえ……」としか思えなくなってしまうんですわ……圧倒的感謝……!
最高のタイミングで終わってくれる潔さ
それともう一つ、このゲームの美点として「やれること全部やったら一番気持ちいいところでスパッと終わる」という潔さにもぜひ触れておきたい。作者のツイートによると、最初は10ステージあったのを削って今のボリュームにしたそうで、これは間違いなく英断だったと思う。
どんなに面白いゲームでも、必要以上に長く続ければどうしても水増し感が出てきてしまう。「あとちょっと短ければ最高の体験のまま追われたのに……」というゲームも多い中、「今ここで終わってくれたら最高」というまさにそのタイミングで終わってくれるのカッコよすぎでしょ!?? 道中が面白いゲームはいっぱい浮かぶけど、その勢いのまま最後まで走りきれるゲーム、あるいは最後をキレイに畳めるゲームというのは本当に少なくて、面白いゲームが面白いまま終わってくれると思わず「ヨッシャ!」とガッツポーズしたくなってしまう。
ところで僕の本業はWebニュースの記者(どっちかというと編集寄り)なわけですが、これって文章にも言えるんですよね。どんなネタにも適切な文量というのがあって、どれだけ面白い文章を書く人でも、書く内容と文字量が釣り合っていなければダラダラと間延びした記事になってしまう。面白い記事を書くために一番大切なことは、実は「面白い文章を書く」ことではなく、「いらないところを削る」作業だったりする。
そして文章もまた、時間をかけて推敲すればしただけ良くなっていくんだけど、当然ながら世の中には「締め切り」という邪悪があるわけで、どこかのタイミングで区切りはつけなければならない。もちろん満足いくまで推敲し続けることもできなくはないけど、そうしないのはやっぱり、それに伴う犠牲が大きすぎるから。このゲームを遊んで「やられた!」と悶絶してしまった理由の一つには、そういう「削ることの美しさ」とか、「納得いくまで推敲し続けることの難しさ」とか、普段自分がやりたくてもなかなか実践できていないことを、5000%の濃度でやって見せられたから……というのもある気がします。
本当に本当に本当に、5年間ピカピカになるまで磨かれ続けた泥団子のような、そんなゲームだと思う。Steamで980円、itchなら9.99USD。煮込んで煮込んでドロドロになるまで圧縮された作者の5年間を、映画1本見るくらいの時間で摂取できるぞ!
そんなに長いゲームではないので、少しでも興味を持ったら今すぐ遊びましょう。遊んでください。選挙にも行ってください。僕からのお願いです。そんじゃ。
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