「ソウルライク」以前と以降のいいとこどり なぜ「Dead Cells」はここまで「操作」することの楽しさに満ちたゲームなのか?水平思考(ねとらぼ出張版)

「一手差のゲームデザイン」と小気味よさの両立。

» 2021年12月13日 19時30分 公開
[hamatsuねとらぼ]
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 現代の、あまりに多様化したゲームの面白さを、一言で表現することは難しい。ほぼほぼ不可能と言ってもいいだろう。

 しかし、それでもゲームというものの多くが何らかの「操作」をすることで駆動するエンターテインメントである以上、「操作」することそのものが楽しいゲームは、その時点で問答無用に楽しいゲームだともいえるのではないだろうか。

 今回紹介するゲーム、「Dead Cells」Switch/PS4/Xbox One/Steam/iOS/Androidほか)を遊んで感じるのは、何よりその「操作」すること自体の気持ちよさ、楽しさである。

 2018年にリリースされた「Dead Cells」をなんで2021年に今更紹介するのかいえば、私がいまだに「Dead Cells」をちょくちょく遊んでいるからだ。

Dead Cells

ライター:hamatsu

hamatsu プロフィール

某ゲーム会社勤務のゲーム開発者。ブログ「枯れた知識の水平思考」「色々水平思考」の執筆者。 ゲームというメディアにしかなしえない「面白さ」について日々考えてます。

Twitter:@hamatsu


 かれこれ3年以上遊んでいるにもかかわらず、私はアクションゲームがそんなに上手ではないので、いまだに「Dead Cells」をクリアをしていない。しかし、とにもかくにもプレイヤーキャラクターを「操作」することのあまりの気持ちよさに、メインで進行しているゲームの合間に「Dead Cells」を遊んではまた元のゲームに戻るというサイクルをこの3年ずっと続けているのである。

 カテゴリー的には「ローグライク/ライト」とも「ソウルライク」とも区分けされる「Dead Cells」だが、私にとって「Dead Cells」というゲームは現状どのゲームよりも「操作」の快楽を味わわせてくれるゲームであり、最もゲームの原初的な悦びを得られるゲームでもある。だからついつい時間を見つけては遊び続けてしまうのだと思う。

 なぜ「Dead Cells」はここまで「操作」することの楽しさに満ちたゲームなのか。そもそも「操作」の楽しさとは何か。「Dead Cells」の新しいDLCも発表されたことだし、ちょうどいいので考えてみよう。

「Dead Cells」 日本語版公式トレーラー

「生殺与奪の権」を握りしめろ!

 「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」とは、『鬼滅の刃』の水柱こと冨岡義勇のセリフだが、優れたアクションゲームを成立させる条件とは何かと言えば、一瞬の油断が即座に死につながる過酷な状況においてなお「生殺与奪の権を己の手で握りしめる」ことができるということに尽きる。

 このあまりに有名なセリフを述べてからも冨岡義勇は畳みかけるように炭次郎に厳しい言葉を投げかけてくる。

惨めったらしくうずくまるのはやめろ!!
そんなことが通用するならお前の家族は殺されてない

奪うか奪われるかの時に主導権を握れない弱者が
妹を治す? 仇を見つける?
笑止千万!!

弱者には何の権利も選択肢もない
悉く力で強者にねじ伏せられるのみ!!

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』1巻 P38〜39より



 このセリフを「ダークソウル」などの高難易度アクションゲームをプレイし、強すぎるボスに心が折れかけている自分に対して吐かれたセリフとして変換してみるとめちゃくちゃ染みる。冨岡さん、言葉で殺さないで……。

 「Dead Cells」の面白さを考える上で重要なのは、この冨岡さんの言うところの「生殺与奪の権」という言葉であり、そしてそれを最も象徴するタイトルこそが「ダークソウル」だと私は考えている。

Dead Cells

 「死にゲー」「ソウルライク」とも呼称され、フロム・ソフトウェアによる「デモンズソウル」「ダークソウル」といった一連の作品によって確立されたこのゲームカテゴリーの面白さを一言で表現するのであれば、「生殺与奪の権の奪い合い」といえるのではないだろうか。

 特に「ダークソウル」は今年(2021年)の11月24日に開催されたゴールデン・ジョイスティック・アワードにおいて、史上最高のゲーム作品を決める「Ultimate Game of ALL Time」において大賞に選出されるなど(関連:電ファミニコゲーマーの記事)、あらためて世界的な評価が高まっている。

 「ダークソウル」というゲームを現在の視点でプレイしてみたとき、気付かされるのはそのゲーム全体のテンポの「遅さ」である。

 「ダークソウル」は「遅い」。テンポよく、当意即妙に操作に応答してくれることを通じて得られるアクションゲームの王道的な快感原則から背を向けるがごとく「遅い」。しかし、その「遅さ」は明確に意図されたものである。

 なぜ「ダークソウル」は「遅い」のか。それはプレイヤーが起こす行動、繰り出すアクションの一つ一つの「意味」、そしてゲーム中に発揮される「機能」を一から再定義、再構築したかったからではないかと私は考えている。

Dead Cells

 「ダークソウル」を遊んだ人なら当然のこととして理解していると思うのだが、このゲームはとにかくプレイヤーの安易かつ適当な行動を許さない。剣を1回振ることと2回振ることの間には明確な差異が存在し、ときにはそのたった1回分のアクションの違いが生死を分ける。

 このゲームの序盤の雑魚敵が、標準的な強さにした主人公が序盤で手にはいるロングソードを手にした状態で、1〜3回の弱攻撃で倒せるようになっているのは恐らく意図的なものだろう。特に2回の攻撃で倒せる敵との遭遇は重要だ。2回連続で攻撃を当てれば倒せるが、その間に敵の攻撃を食らうのは面白くないので、一度相手の攻撃を防御した後で2回攻撃するか、多少のダメージなど顧みずに先制攻撃してしまうか、それともレベルを上げて強攻撃の1発で仕留められるようにするか。序盤の雑魚敵の対応ですら幾つもの選択を行えるよう設計することで、「一手差」が生死を分ける「ダークソウル」の世界にプレイヤーが自然と馴染めるようになっているのである。

Dead Cells

 この「一手差」の感覚は従来のアクションゲームというよりも、「ファイアーエムブレム」などのシビアな判断が要求される詰め将棋的ともいわれるシミュレーションゲームに近い感覚ではないかと思う。この「一手」の違いが明暗を分けるゲーム内容をユーザーに理解してもらう上で、「ダークソウル」の「遅さ」は必要なことだったのではないかと思うのだ。

 そして初期作の「ダークソウル」をプレイヤーが習熟してもらうためのステップとして捉えているからこそ、この仕組みが広く浸透して以降の「ダークソウル3」や「SEKIRO」といったタイトルにおいては、従来のアクションゲーム的快楽が得られる機敏なテンポ感を採用するようになっているのである。

 注意しておきたいのは、「ダークソウル」以前のアクションゲームがいい加減な操作を許容する粗雑なゲームであったのかと言えばそういうわけでもないということだ。

 突き詰めていけばよく練られたアクションゲームというものは、往々にして一瞬の油断や隙が自身の死につながり、全く隙がないように見える相手の一瞬の隙を見逃さす攻撃をたたき込むようにできているものである。それでも「ダークソウル」が優れていたのは、流麗なコンボやスピーディなモーションなどが存在しなくても、ただ剣を振り下ろす、盾を構えるといった、素朴な動作の連続で、あまりにもシビアな「生殺与奪の権の奪い合い」という現代に通用するアクションゲームが作れるということを示した点にある。

 そして、そうやって再構築されたアクションゲーム文法は、「ソウルライク」という呼称とともに、この10年ちょっとの間に世界的な広がりを見せた。そしてこの文章の本題である「Dead Cells」もまた、その「ソウルライク」の系譜に連なる一本なのである。


「Dead Cells」という快楽発生装置

 「ダークソウル」の意図された「遅さ」と比較すると「Dead Cells」のプレイ感は明らかに「速い」。そのテンポ感はアクションゲームの模範ともいえる小気味の良さである。それは、アクションを繰り出す始点と、それが敵に当たった瞬間の打点という、本来であれば異なる2点が、ボタンを操作するという1点に集約することで起きる気持ちよさだ。

Dead Cells

 アクションゲームにおけるボタン操作とはアクションの始動であると同時に、相手を攻撃し、当たった瞬間の手応えでもある。だからこそ、操作感が気持ち良いアクションゲームとは、くにおくんの時代から動きのキレが良く、キビキビしているのだ。「Dead Cells」の操作の気持ちよさはまさしくそれだ。だが、それと同時に、「Dead Cells」には濃厚に「ダークソウル」以降を感じさせる、一つ一つのアクションが明確な意味と機能を持ち、「一手」の違いが明暗を分けるという「ソウルライク」の血が流れてもいる。

 「Dead Cells」の面白さ、それは「ソウルライク」の系譜を感じさせる「一手差」のゲームデザインと「ダークソウル」以前、もしくは「SEKIRO」のような「ソウルライク」の最新型を感じさせる操作の機敏さ、テンポの良さを併せ持つことによって生まれる面白さである。

 言ってしまえば「ソウルライク」以前と以降の良いとこどりに成功しているのが本作なのだから、面白くないわけがないのだ。

 特に本作の序盤は素晴らしい。初期装備にもよるが、剣による攻撃1発で倒せるが遠距離攻撃を仕掛けてくる敵、2発で倒せるが盾を持っているため背後を取る必要がある敵、分かりやすい大ぶりなモーションで攻撃を仕掛けてくるが、倒すのに3回攻撃を当てる必要があるので攻撃中に攻撃されないように注意が必要な敵など、それぞれに適切な判断が要求され、油断していればあっという間に死に至るプレイ感覚はまさしく「ソウルライク」のそれである。当然のことながらプレイヤー側は剣による攻撃一辺倒ではなく、盾によるパリィ、弓による遠距離攻撃など攻略手段も多彩に用意されている。

Dead Cells
Dead Cells
Dead Cells

 それらの敵キャラクターを適切に処理し、右に左に駆け回り速やかにゴールを目指す序盤は何度遊んでも飽きることがない。

 細かい部分ではあるが、ドアを蹴破る、地面に着地した際に繰り出せる攻撃が強力なものになっているため、自然と移動とそれに伴うアクションを促すようになっている点も素晴らしい。良いゲームというものは、プレイヤーの能動性をさらに促進するようブーストをかけてくれるものである。

Dead Cells
Dead Cells

 そしてさらに「Dead Cells」は死ぬたびにスタートに戻され再度新しい武器でトライする「ローグライク/ライト」要素すら孕んでおり、まったく同じことを何度も繰り返すのではなく、遊ぶたびに味が変わるのでさらに飽きにくいようになっているのである。これは永遠に遊べてしまう……。アクションゲームの万華鏡や〜。

 既に売れすぎるほどに売れている(全世界で600万本突破)ゲームであるが、追加のDLCも発表されたことだし、未体験の方も既に購入済みの方も、このタイミングでこのアクションゲームで得られる快感が詰まりに詰まった「Dead Cells」をプレイして「生殺与奪の権」を己の手に握りしめてみてはいかがだろうか。


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