ピクサー最新作「私ときどきレッサーパンダ」レビュー “思春期オタク”の言動に悶えながらも、自分らしさを抱きしめたくなる意欲作(1/2 ページ)
かつてオタクだった、そして今もオタクのあなたに。
ディズニープラスで独占配信中のピクサー最新作「私ときどきレッサーパンダ(原題:Turnig Red)」。“オタク”な主人公・メイと愛すべき仲間たちの物語に、Twitterでは「オタク系の趣味で青春時代を過ごした人は本当ノックアウトされるやつ」「『これ私の話じゃん…』まである」「めちゃくちゃに最高な映画」といった声が上がっています。
推し活にはげむアジア系主人公の物語というだけでなく、新しい試みがぎゅっと詰め込まれた本作。そのあらすじやメッセージ、そして海外の背景を、主人公メイと同世代のライターが紹介します!
チートスと水:セーラームーンに自我を育てられながら海外を転々とする子供時代を過ごしたアラサー。現在はアメリカ在住。2019年よりフリーライターとして活動開始。3度の飯とお酒と洋画と海外フェスが好き。食を通じた比較文化にも興味があり、最近は自家醸造酒(米では合法)にハマっている。
もふもふキュートな意欲作
短編アニメーション「Bao」でアジア系女性初のアカデミー賞短編アニメーション賞を受賞したドミー・シー監督をはじめ、ピクサー史上初の主要メンバーが全て女性の製作チームが手掛ける意欲作「私ときどきレッサーパンダ」。
舞台は2002年のカナダのトロント。13歳の中国系カナダ人少女メイは、学業・家業にまい進する「マジメないい子」として両親と仲睦まじく暮らす一方、家族にはアイドルオタクの親友3人組に囲まれて過ごす「好きなことに夢中な等身大の自分」を秘密にしています。
そんなメイですが、ある事件をきっかけに感情が昂ったときに巨大レッサーパンダに変身するようになってしまいます。モフモフな自分の姿に戸惑うメイ。推しのコンサートも控えているのに親も説得できないし、何よりこんな姿じゃ行けない! いったいこれから私、どうなっちゃうの〜!?
キュートなレッサーパンダ女子・メイが、家族との関係や「本当の自分らしさ」に向き合い、悩みながら成長していくさまがコミカルに描かれた本作は、全編にわたって「自分らしさはひとつじゃなくていい」という強いメッセージが込められた作品です。
すべてのティーン、そしてティーンだった人に捧ぐ思春期賛歌
本作には、濃厚なオタク描写が随所に登場します。メイは、推しのアイドルについて語る際にはオーバーリアクション気味にはしゃいだり、気になる男子のセクシーな絵や、自分とのイチャイチャ絵(いわゆる「夢絵」!)を秘密のノートに描いて想いを発散したりするタイプの女の子。特に「夢絵」がきっかけでレッサーパンダ化してしまう事件が起こる一連のシーンは、オタクなら共感性羞恥でいたたまれない気持ちになることうけあいです。
ピクサー映画でリアルなオタク女子像が描かれたことが話題になりがちな本作ですが、「オタクあるある」の先には「思春期の普遍的な葛藤・悩み・成長」という大きなテーマがあります。
友人とはめを外したり、好きな人の名前を持ち物に書いたり、秘密の日記を書いたりという経験に覚えがある人は少なくないはず。そして時には、秘密がバレて羞恥心で悶え苦しむことも……。親に内緒の「推し活」で結束を強めるメイと親友たちの姿は、青春のきらめきにあふれているのです。
監督が愛する「日本アニメ」の要素もてんこ盛り
ドミー・シー監督も、元は日本のアニメや漫画の大ファン。本作のドキュメンタリーでは、学生時代は二次創作にも打ち込むオタク女子だったことを明かしています。二次創作ファンダム出身者がピクサーの長編監督になったという事実に、まず胸が熱くなります。
日本のアニメ漫画作品の影響を反映したと明言されている本作。メイの変身は『らんま1/2』や『フルーツバスケット』を彷彿とさせますし、「時をかける少女」や「となりのトトロ」を思わせる場面など、オマージュも盛りだくさんです。
また注目すべきは、演出面だけでなく、物語の大切な要素である「女性たちの友情関係や連帯(シスターフッド)」が、『美少女戦士セーラームーン』からインスピレーションを得たものだということ。ガールズエンパワメントのメッセージが込められた本作の根底に、日本の少女漫画で描かれた「女の子のヒーロー」たちが影響しているのは、彼女たちに勇気をもらっていた世代としてうれしくなります。海外で育った私も、当時の日本のコンテンツ人気は故郷の誇りのように思えてよろこばしかったのですが、同世代の海外クリエイターがその影響を受け、ピクサー作品として昇華してくれたことはとても感慨深いものです。
日本アニメの要素をここまでふんだんに取り入れている作品は、今までのピクサーにはありません。日本の視聴者も、作品をより身近な「自分事」だと感じられるのではないでしょうか。
“あの頃”のアイドルポップスを手掛けるのはビリー・アイリッシュ
劇中でメイ達が“推す”人気アイドル「4★TOWN」にも、監督のボーイズグループ文化への愛が込められています。BACKSTREET BOYSや*NSYNCに代表される2000年代のボーイズグループに、近年のK-POPアイドル要素を加えた彼らの楽曲は、なんとビリー・アイリッシュとその兄フィニアスが手掛けたものです。なお、フィニアスは4★TOWNのメンバー ・ジェシーの声優も務めています。
彼らが手掛けた1曲「U KNOW WHAT’S UP」は、ビリーいわく「自己肯定感爆アゲ曲」。「欲しいもの全部勝ち取りに来た! 私/君しか勝たん!(意訳)」と鼓舞する歌詞は、少年少女たちをエンパワメントする映画の挿入歌として100点です。
劇中のコンサートシーンは、「*NSYNCの『Bye Bye Bye』のMVパロディじゃん!」と、筆者も同世代の友人と大盛り上がり。 2000年代初頭に青春を過ごした世代に刺さること間違いなしです!
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