【「ソウルハッカーズ2」否定寄りレビュー】取捨選択を間違えて差別化しきれず、女神転生とペルソナを継承するには力不足 ターゲティングも誤ってしまった(3/6 ページ)
組織を矮小化してしまったシナリオと続編を出したいという欲求
「女神転生」シリーズは悪魔に重点が置かれた話、「ペルソナ」シリーズは人の心に重点が置かれた話であり、「デビルサマナー」およびそこから派生する「ソウルハッカーズ」が人と組織と悪魔の話であるとするなら、本作は「ソウルハッカーズ」ではなく「ペルソナ」に近いといわれるのも納得できる。大人の年齢に属する者たちが戦い、サマナー同士の暗躍があってもデビルサマナーやソウルハッカーズにはならない。その点で、本作は「ペルソナ」といわれるくらい悪魔の話がない。ペルソナよりもないので、その意味では、やはり「幻影異聞録♯FE」の系譜上にある作品だ。そのうえでキャラクターを重視したシナリオとしてはライトに完成しており、メインキャラクターたちのミクロな話を気に入る層もいるだろう。
だが、本作は設定だけ見るとマクロな話である。「世界の終わり」を題材に行われるコヴェナント争奪戦と、ファントムソサエティ、ヤタガラスという組織名は出てくるが、10人前後の登場人物とモブだけで完結した組織同士のやりとりは、地方のサークル活動のような狭さだ。サイバーパンクな都市は独自の世界観を構築しており、そこは悪くない。
悪魔や神話に重点を置かず、新規の悪魔デザインが初回限定版のDLCで付属するAiホーとラスボスを除いて存在しないという派生作品としても異例の事態であるため、本作は人と悪魔と組織の戦いにはならない。前作は、アルゴンキン族の伝承をもとにした電霊たちが第三勢力として登場し、デザインと合わせた特別感があったが、本作のメインストーリーで出てくるのはサマナーと彼らが召喚する既存の悪魔ばかりだ。サマナーたちとの戦いは久しぶりの感覚で懐かしさはあるものの、敵側だけが従来の召喚を行うのでシリーズファンに対しての挑発にしかなっていない。過去の作品で引用していたグノーシス主義と旧約聖書から、その単語や表面的な要素を使ったほぼオリジナルな展開に、関連した新規のボス悪魔すら存在しない物語を「ソウルハッカーズ」の続編として認識するのは、分かっていても苦労した。
新規のボス悪魔がいないのは、私と同様に失望した人もいるだろう。人間だけではなく、悪魔を望む層も確実にいる。「真・女神転生 STRANGE JOURNEY」以降、金子一馬氏による新規の悪魔デザインがない現状では「真・女神転生V」のように後継者を擁立して、「ソウルハッカーズ2」としての新規悪魔をデザインするべきだったのではないだろうか。金子悪魔こそが人気のシリーズであっても、新しい世代に交代していかなければアトラスの個性であった神話の再解釈と、そこから生まれる新たな悪魔デザインは望むべくもなく、新たな神話や悪魔を使った話もできなくなってしまう。作品の世界設定として、21世紀のノスタルジーを焼き直して文化が停滞した時代を描いたのも、作品としての苦肉の策を感じるが、それを続編のタイトルでやるべきだったのかといわれると疑問が残る。
なにより悲しいのは当時の最先端であり、今もなお通用する先見性があった「ソウルハッカーズ」の続編が、この形で出てしまったことだ。どんなに出来の良い作品でも反発は免れない作り方なのに、そこまで良い出来ではない。そのため、なおさら反発されてしまう。フラットな視点で見ればJRPGとして一定の完成度はあるが、「ソウルハッカーズ2」として出す意味は見いだせなかった。新規のRPGとして見ると普通なので、何とも言えない。
また、ファントムソサエティの幹部級ダークサマナーにも人間としての生活や情があると描いたことで、えたいの知れない雰囲気や強大さが薄まったのも痛い。前作では、マダムが善や悪の思想を超えた絶対的な服従に突き動かされる組織だと語っていたはずが、思想が違うだけの人間味がある組織として再解釈された結果、底が浅くなってしまったようにも見えた。世界を広げようとして描写している部分が、デビルサマナーを巻き込んで矮小化している。
ソウル・マトリクスの第4層をクリアしてゲームを完全な形で終えると、「ソウルハッカーズ3」に向けた伏線のような会話が随所に見られる。決着が付かない要素もいくつかあり、まだまだこのキャラクターで作りたいという思いが伝わってくるようだ。だが、現状の評判で今回の登場人物たちによる決着を見せてもらえるのだろうか。ゲームを通して古参への「あなたたちはもういらない」というメッセージなのではと邪推してしまうくらい、旧きものへの決別や悪魔召喚がない理由を作中の人物が語る事から見ても、こうした部分にこだわる古参はいらないと思っているのかもしれない。それならそれで構わないので、新規ユーザーが付くように振り切って欲しかった。切った古参よりも新規層が増えれば問題ないのだ。現状はどっちつかずなので、あまり意味がない。キャラクターゲームに振り切るのは良いが、単調なダンジョンや本編に入れるべきものをDLCに回す商法など、いただけない部分も目立つ。古参のファンとしては、胸を張ってオススメできる物にして欲しかった。
SFとしては、世界5分前仮説のジョークやクオリアの牢獄といった単語でそれっぽさを出しているが、あくまでもフレーバーにとどまっている。コアな話はパーソナルイベントやヴィクトルなどNPCとの会話に回され、本編はあっさりとした物語として終わるのは現代の選択としては悪くはない。ただし、終盤で顔見せするだけの組織の幹部たちを含め、サマナーシリーズの系譜からなる「ソウルハッカーズ」の物語としてはやや薄っぺらいものだ。「ペルソナ5」は言わずもがな、スタイリッシュなピカレスクロマンの怪盗物になってもペルソナシリーズとしての基本は継いでいる。「真・女神転生V」はシナリオと人間の描写が薄いといわれるが、悪魔という根本の掘り下げは問題ない。薄いので完全版として足す余地はあるが、女神転生としての根本は継げている。「ソウルハッカーズ」には、単語や表面的な設定以外の面で、人と組織と悪魔の戦いという根本が継げていない。だからこそ、1つのRPGとして見れば濃い面もあるが、ソウルハッカーズとしてはいささか薄っぺらいのだろう。
ライトでカジュアルな「女神転生」「ペルソナ」の入門作を目指したのであれば納得できる点はあるが、どれも継げてはいない。「真・女神転生」「ペルソナ」を継ぐという宣伝をしたことで界隈が荒れたのも確認できたが、そもそもとして「デビルサマナー」も「ソウルハッカーズ」もほとんど継いでいないので、かつて遊んでいたユーザーの大半から拒絶されるのは当たり前でしかない。なによりも驚くのが、そこに気が付かなかったことだ。本作は評価以前の段階である。「幻影異聞録♯FE」や新規IPで作るか、アニバーサリーブックに掲載されている初期構想(後述)を貫徹すべきだった。主人公側が「ソウル」を「ハック」するという表面的な仕様や、前作にも出ていたアイテム名やインストールソフト名、単語や一部の設定だけを使えば、続編になるとは到底思えない。最初から切り捨てると宣言すればまだ理解できたが、古参のファンに受け入れられると思っていたこと自体が驚きだ。
超常現象の世界に身を置くサマナーに、こうしたセリフを言わせてしまったり、ダークサマナーをただ変人の集まりのように描いていたり、前作をリスペクトしたうえで新しい物を作ろうとした感じは終始受けなかった。作り手が、前作の要素としてここを守れば問題ないと残した部分は確認できるし、ファンサービスとして前作キャラをDLCで出すのも古参を取り込みたいのだと分かる。それが、私も含めて真っ向からケンカを売られたように見えた人が多かったのは、根本的なプロダクトのミスだろう。恐らく、そこに気が付いてもいない。
アニバーサリーブックを読むと、なぜか「新生ソウルハッカーズ」といわれていることからも、開発側としては換骨奪胎したうえで作ったことがうかがえる。掲載されている企画書の時点ではサマナーを尊重しようとした内容が書かれており、ペルソナや女神転生との差別化も図られていた。つまり、素材は悪くないのだ。なぜ、企画書の段階で分かっていたことが、製品版になると消えてしまったのか。内部事情は推し量れないが、最終的な結論を間違えてしまったとしか思えない。本来であれば、古参も新規も海外ユーザーもみなが喜べた道を、いつの間にか自ら踏み外したことに気が付かないまま進んでしまっていたのだろう。
せめて、発表後にすれ違いを解消する努力があればよかったのだが、怠ったために現状では正当に評価されていない。平均点は取れるJRPGとして評価されにくくなっている。
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