ペルシャ人と名乗ってしまったユダヤ人vsナチ将校! ウソのペルシャ語を教え続けなければ処刑されてしまうサスペンス映画「ペルシャン・レッスン」レビュー(2/2 ページ)
現実の戦時中に何百もあった物語
本作は、ドイツ映画界の脚本家の巨匠で、ベルリン国際映画祭の金熊名誉賞を持つヴォルフガング・コールハーゼの短編小説をもとにしつつ、膨大なリサーチと綿密な取材にも基づき映画化されている。見た目や収容されていた期間などを正確に知るためにさまざまな収容所を調べ上げ、事実に即した収容所を再現するため当時の写真やビデオ映像もとことん参照したのだそうだ。
劇中の主人公のように、創造力を駆使して生き延びたユダヤ人たちは実際に大勢いたと言われている。ヴァディム・パールマン監督は「機転と鋭い思考で助かる物語は現実の戦時中には何百もあって、その集積がこの映画である」とも語っている。つまり、発想のおおもとはフィクションではあるものの、「本当にあったこと」も反映した映画となっているのだ。
収容所の様子は本物としか思えないほどリアルに描かれ、命があっけなく失われてしまう様などはホラー映画のように恐ろしい。悪い冗談にさえ思えてしまう設定にもかかわらず、実力派キャストの鬼気迫る熱演もあって、状況を「擬似体験」できる内容に仕上がっている。
友情や対等な人間関係にも「見える」けど……
さらに、ヴァディム・パールマン監督自身が指摘する面白いディテールに、高圧的で傍若無人に思えていた将校が、「人間らしさ」に目覚めるということがある。
例えば、主人公が「あなたは誰ですか?」とウソのペルシャ語で聞くと、将校が「親衛隊大尉コッホ」という肩書付きの名称ではなく、「クラウス・コッホ」というフルネームで名乗る場面がある。監督いわく、そうした時に彼はウソの言語を通じて、これまでは言えなかった自分自身の心の一部に気付き、それを表現できるようになっているのだという。
他にも、主人公と将校がペルシャ語で意思疎通をしている間は、支配する/される立場ではない、対等な人間関係が構築されているように思える。とそれどころか、彼らの間にはある種の友情が芽生えているようにすら見えるときもある。
だが、その対等な人間関係や友情も、一時的にそう「思える」「見える」というだけで、「つかの間に利害が一致したにすぎない(しかもウソの単語ばかりを教える/学ぶ立場)」かもしれないという、冷徹な視線も本作には確実に込められている。後半にある戦時中の無常さをストレートに打ち出した展開は容赦がなく、それを持って単純な「いい話」にはしない、極めてシニカルな作風になっているのも本作の美点だ。
そして、ヴァディム・パールマン監督は、この映画の最も主要なテーマは「記憶」であり、また「人間の創造性」であると語っている。思いがけない感動的なラストで、その意味するところははっきりと分かるだろう。
(ヒナタカ)
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労働環境と人間関係の問題を正面から切り取った映画。
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