「室町時代の変身ロッドみたい」 藝大の卒展に登場した漆芸の「魔法の杖」がみやびな味わいで話題(1/2 ページ)

作者に製作の経緯を聞きました。

» 2023年02月07日 20時30分 公開
[沓澤真二ねとらぼ]

 これは室町時代から寺に代々受け継がれてきた、魔法少女の変身ロッド――。そう言われたら信じてしまいそうな漆芸作品が、東京芸術大学の卒業・修了作品展で注目を集めています。

いにしえの変身アイテム もしも中世日本に魔法少女がいたら、こんなアイテムで変身していたかも? そんな想像をかきたてる作品(画像提供:うちゃかさん)

 話題の作品は、漆芸を専攻する学生の奥村花梨(@machiyuyutao)さんが手がけた「Your Magic -01-」。三日月や雲、ハートや羽根のモチーフに仏具のような柄が付いていて、もしもセーラームーンの設定が仏教的世界観に基づいていたら、こんなアイテムで戦っていただろうか……? と想像をかきたてます。

いにしえの変身アイテム 寄って見るとなお神々しい……(画像提供:奥村花梨さん、以下同)
いにしえの変身アイテム
いにしえの変身アイテム
いにしえの変身アイテム

 観覧した人のツイートがきっかけで、作品は「十二単衣のみやびな姿に変身できそう」「雅楽師の演奏でムーンライト伝説が流れてきそう」「かぐや姫の装備」などと話題に。なかには本当に室町時代から存在する宝物と勘違いする人すらいました。

 編集部は奥村さんを取材し、作品にかける思いなど、詳細を聞きました。

―― まず作品のコンセプトを教えてください

奥村さん 「現代文化と伝統工芸技術が融合した、勇気や自信を与えてくれる魔法のステッキ」です。

 魔法というと、その力を持った人が他者に使うイメージがあります。しかし私が幼いころに見たアニメの少女たちは、ステッキをかざし自分自身を変身させるために力を使っていました。なのでこの作品も、手にした人自身にパワーを与えることを目指し制作しました。

―― それを卒業制作のテーマに選んだきっかけは?

奥村さん 一つ一つていねいに、正確に作業しなければならない性質の漆は、大ざっぱでせっかちな私に向いているとは思えない素材で、同級生と比べてうまくできないことにコンプレックスを感じていました。やりたくない気持ちで作業をすると、当然うまくいきません。そうしてなかなか上達しないまま、どんどん自信もやる気もなくしていきました。そのような状況で、コロナ禍や進路の悩みなどが重なり、またこのまま卒業制作に取りかかるのは精神的に難しくもあって、両親に相談して一年休学し、漆からもいったん離れてみようということになりました。

 その間は料理をしたり、友人と展示をしたり、とにかく興味の湧いたことはなんでもやってみました。初めてのことはやはり想像以上にできなくて、その代わりやるたびに少しずつ上達するのが楽しく、人と比べる必要もなく、なんでも新鮮に感じました。そうしていろいろな経験を少しずつ増やして時間を置いてみると、だんだん自分で「自分はこういう人間だ」と決めつけているからできないのではないか? 自分はできると心の底から信じられたなら、私は作品を完成させられるのではないか? そう思うようになっていきました。

 そうして日々自分の存在の小ささを実感するなかで、幼いころの記憶がよみがえりました。アニメに出てくる、輝く衣装をまとい勇敢に戦う少女たちの記憶です。彼女たちが手にしていた魔法のステッキを、量産されたおもちゃではなく世界に1つだけの本物として私の手に握れたら、きっと私は強くなれると考えました。自分に自信や勇気を与えてくれる、そんな魔法の道具が欲しい! という気持ちがあふれてきました。

 また、私はもともと仏像がとても好きで、年に1度は京都に足を運び仏像巡りをしています。よく仏像が手にしている金剛杵(こんごうしょ)や宝輪などの法具たちは、まるで魔法道具のようだと以前から感じていました。さらに宗教の持つ神秘的な存在感が、勇気をくれる魔法の力に、より説得力を与えてくれるとも考えました。そこで密教法具、今回は特に錫杖(しゃくじょう)をデザインのヒントとして制作しました。

―― 製作にあたって注力した部分は

奥村さん 「どんな角度から見ても美しい形状か」はとても意識しました。正面から横、後ろに回って見た時、その都度表情を変え新しい発見のある、魔法を感じさせるような形を目指しました。また装飾の部分でも、卵殻や螺鈿の伏彩色、箔押し、平蒔絵などさまざまな伝統技法に挑戦しました。職人さんから見ればまだまだ未熟な技術だと思いますが、とにかく挑戦してみるという精神でやり切りました。

―― 最後にSNSでの反響について、ご感想をお願いします

奥村さん 純粋に、たくさんの方に見ていただけてうれしいです。漆芸は工芸界の中でも、一般にどういうものかあまり認知されていないので、これをきっかけに興味を持つ人が少しでも増えたらと思います。そのためにも、私ももっと自分から発信していかなければならないなと強く感じました。

協力:奥村花梨(@machiyuyutao)さん

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2404/25/news174.jpg 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  2. /nl/articles/2404/26/news154.jpg 元「AKB48」メンバー、整形に250万円の近影に驚きの声「整形しすぎてて原型なくなっててびびった」
  3. /nl/articles/2404/21/news011.jpg 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  4. /nl/articles/2404/12/news174.jpg 築年数不明の平屋にある、ボロボロ床板をはがしてみたら…… 発覚したヤバい事実に「ビックリ!」「大丈夫でしたか?」心配と驚きの声
  5. /nl/articles/2404/26/news022.jpg ママの足にくっつく生後7カ月の赤ちゃん、甘えてるのかと思いきや…… 計算された行動と「ちいこい後ろ姿がかわいすぎ」て目が離せない
  6. /nl/articles/2404/25/news016.jpg 「電車の中で見ちゃダメ」「笑ったww」 実家からLINE「子ヤギがすばしっこくて捕まらない」→送られてきた衝撃姿が320万表示!
  7. /nl/articles/2404/25/news069.jpg “作画軽減ガンダム”をガンプラで作成 → 使用パーツも最小限の再現ぶりに「完全に一致」「部品軽減ガンダム」
  8. /nl/articles/2404/23/news090.jpg 誰も教えてくれなかった“裁縫の裏ワザ”が目からウロコ 200万再生のライフハックに「画期的」と称賛【海外】
  9. /nl/articles/2404/18/news134.jpg 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  10. /nl/articles/2404/26/news024.jpg 0歳赤ちゃん「(ママ来たっ!)」→喜びが抑えきれなくて…… 尊すぎるダンスが300万再生「心が浄化されていく」「朝から癒やされました」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  2. 富山県警のX投稿に登場の女性白バイ隊員に過去一注目集まる「可愛い過ぎて、取締り情報が入ってこない」
  3. 2カ月赤ちゃん、おばあちゃんに少々強引な寝かしつけをされると…… コントのようなオチに「爆笑!」「可愛すぎて無事昇天」
  4. 異世界転生したローソン出現 ラスボスに挑む前のショップみたいで「合成かと思った」「日本にあるんだ」
  5. 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
  6. 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  7. 1歳赤ちゃん、寝る時間に現れないと思ったら…… 思わぬお仲間連れとご紹介が「めっちゃくちゃ可愛い」と220万再生
  8. 業務スーパーで買ったアサリに豆乳を与えて育てたら…… 数日後の摩訶不思議な変化に「面白い」「ちゃんと豆乳を食べてた?」
  9. 祖母から継いだ築80年の古家で「謎の箱」を発見→開けてみると…… 驚きの中身に「うわー!スゴッ」「かなり高価だと思いますよ!」
  10. 「ゆるキャン△」のイメージビジュアルそのまま? 工事の看板イラストが登場キャラにしか見えない 工事担当者「狙いました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」