宝塚をずっと見てる人って、これが理解できるんか? 星組メガファンタジー「JAGUAR BEAT−ジャガービート−」とは何だったのか(2/2 ページ)
ガンダム不在! 光る階段! ジャガビーの定石破りとは
──先ほど「ストーリー仕立てのショーはちょっと珍しい」という話が出ましたが、他に定石を崩しているところはあったんでしょうか? 自分は前に見た「カプリチョーザ」しかサンプルがないんで、「『カプリチョーザ』とは全然違うな!」ということしかわからなかったんです。
モモンガ:「カプリチョーザ」は、場面場面の味付けの仕方は(演出を担当した)藤井先生の個性が出ていたりしますけど、ショーとしてはスタンダードな作りでしたからね。宝塚のショーって段取りが決まってるというか、コース料理みたいな作りなんです。
──こうなったら次はこう、みたいな法則があるんですね。
モモンガ:そうです。でも、ジャガビーは「メイン料理を食べ終わって次はデザートだと思ったら、まだカツ丼が出てきた」みたいな感じ。ただ、ショーの流れが定石と違うこと自体はたまにあって、例えば「初舞台生のラインダンスがあるから、いつもラインダンスがあるタイミングより前の方にずらす」みたいなことはあるんです。だから前代未聞と言うほどではないんですが、スタンダードなものを見るつもりで行くと「あれ?」と思うかもしれません。
──「カプリチョーザ」ではすごいものを見たとは思ったんですけど、緩急はわかったし、ここは明るい場面でここは静かな場面なんだな……みたいなのは感じ取れたんです。でもジャガビーはマジでわからなかった。
モモンガ:とにかく暗転がないというのも、その原因だったかもしれません。普通は一場面が終わったら、拍手して暗転。それでちょっとまた人数が出てきて次の場面……みたいな流れが普通だと思うんです。でも、ジャガビーは大人数で始まって、その人数が全員残ったまま引き継がれて、そのままの流れで次の場面が始まる。だからどこが切れ目なのかが分かりにくい。
──あと、どれが誰だかわからなかったんですよね。自分の「カプリチョーザ」の記事でフリーダムガンダムを例えに出してるんですけど、あれは完全に誰が主役メカなのか分かったからなんですよ。宝塚って、ガンダムがいてライバルのシャアザクがいて、ガンキャノンやガンタンクがいて、後ろにジムやボールがいる……みたいなのがわかりやすいんだなと思ったんです。しかしジャガビーは全員ギラギラしてて誰がどの立場なのかよくわからなかった……。
モモンガ:トップスターがいて娘役がいて、二番手三番手がいて……っていうのが視覚的に分かりますもんね。「宝塚はピラミッド構造だから美しい」という意見もあって、実際そういう見せ方をすることも多いんです。ただ、ジャガビーはピラミッドというより、「トップがいて、周囲が各々のカラーで盛り上げる」という感じに見えたと思います。
──それってわざとなんですかね?
モモンガ:おそらくわざとだと思います。多分、齋藤先生の生徒一人一人への愛が強すぎるんですよね。だからピラミッド構造をあえて崩して、「この子のこういうところを見ろ!」「この子はこういうことができるんだよ!」という叫びを伝えようとしている。役の属性や衣装を細かく分けることで、その演者しか身につけていない要素を増やしていると思います。
──そんな意図が……。
モモンガ:だから、フラットにトップスターを見たいという人にとっては、ピラミッド型の洗練された美しさが崩れてしまって、ガチャガチャして見えたかもしれません。あと、ジャガビー独特なところで言えば、大階段は普通あんなに光らないですね。
──ムチャクチャ光ってましたもんね、階段。
モモンガ:普段、補助的に光ることはあるんです。海の中にいることを表現するためとか。あと、たまに花びらが舞っている様子を再現するためとか、スクリーン的な使われ方をするときもあります。でも、あんなに高速で光ることは珍しい。
──じゃあ、今回は純粋に光るためだけに光っているわけですね。齋藤先生のショーでは階段が光りがちということではないんですか?
モモンガ:いや……そんなことは……。普通程度には光る、という感じだと思います。だからあんなにピカーッとなってたのは、宝塚だからとか齋藤先生だからとかじゃなくて、「ジャガビーだから」ですね。
「ジギー・スターダスト」+『聖闘士星矢』=ジャガビー、なのかもしれない……
モモンガ:今回のプログラムの最初の方で、齋藤先生が「デビュー作の『BLUE・MOON・BLUE』(※)があんまりウケなかったんで、それを踏まえた上で自分に期待されているものも全部乗せて、今自分が作り出せる最高のメガファンタジーをつくりました」みたいなことを書いているんですね。
※「ゲリラ戦士が月明かりの中で見た幻覚」を幻想的に描いた、2000年上演の月組のショー。トップスターは真琴つばさ。
──リターンマッチみたいなところもちょっとあるんですね。
モモンガ:「BLUE・MOON・BLUE」は本人的にはさほど尖ったものを作ったつもりではなかったと思うんですが、それこそ普通のショーの定石を破壊していたというか。私が見始めるより前のショーなんで直接見たことはないんですが、コアなファンの多いショーではあるんです。個性が強いからマニアックなオタクがついている感じというか。
──齋藤先生というのは、そういうファンがつきそうな演目の多い人なんですか。
モモンガ:そうですね……「BLUE・MOON・BLUE」でも、当時のトップスターをガルーダ(古代インドの神話など登場する半人半鳥の霊鳥)に見立てたりしてたんですよね。そういう一貫性はあります。ちょっと昔の少年漫画とか、特撮とかも好きな人なんですよね。ショーの途中で5人くらいのスターがオラついたりとか。戦隊モノっぽい要素もあります。
──あ〜、ガンダムじゃなくて戦隊だから序列があんまりはっきりしてないのか……。
モモンガ:齋藤先生は1971年生まれなんで、今50過ぎくらいのお歳なんですよね。
──じゃあもう、80年代のジャンプ黄金期とかが直撃してる世代ですね。
モモンガ:その辺りのネタからの影響を、割とまっすぐぶつけてきますね。恥ずかしさやダサさを取っ払って、少年のまま「俺はこれがカッコいいと思う!」というのを押し出してくるんです。「メラメラ滾るぜ」「マジ! マジ! マジック!」みたいな歌詞って、令和の世の中ではシラフで書けない歌詞だと思うんですよね。それをまっすぐ投げてくるというのが齋藤先生です。
──しかし、トップスターが神獣に見立てられたり、ジャンプ黄金期とか80年代のコンテンツのカッコよさが盛り込まれたりということは、あ、じゃあアレか、ジャガビーは『聖闘士星矢』みたいなもんってことか……!
モモンガ:あ〜、そうですそうです。『聖闘士星矢』とか、そのくらいの時期の少年漫画みたいな。
──登場人物が動物に準えられたり、神話と宇宙がドッキングしてたりとか……。考えれば考えるほどジャガビーは『聖闘士星矢』ですね……! そ、そうか〜『聖闘士星矢』の仲間だと思って見ればよかったのか……!
モモンガ:ジャガビー、世界各地の神話も下敷きになってますもんね、確かに。
──「ジギー・スターダスト」から出発して、途中で80年代のジャンプが混ざるとジャガビーになるんですね……。完全に腑に落ちました。そうか〜、宝塚で80年代ジャンプをやろうとするとああなるんですね……。足し算が過剰だ……。
長く見続けると味が濃くなる、宝塚はプロレスである
モモンガ:そういう齋藤先生のパッションの大きさが好きな人は好きですし、逆にもっと洗練されたものやキチッとしたものが好きだったり、緩急をつけてほしいという人もいると思うんで、それは好みですね。
──確認なんですが、齋藤先生のショーって毎回こんな感じではないんですよね?
モモンガ:だいたいこんな感じではありますが、今回は輪をかけてすごかった、ということだと思います。普段はあそこまで階段が光らないので。
──これは自分の経験不足が原因だとは思うんですが、比較対象が「カプリチョーザ」だけだから、どの要素がよくあることでどの要素が珍しいのか、よく分かってないんですよね。
まうす:いろんな作品を見るようになると、「推し演出家」みたいなものができると思います。けっこう皆さん違うところがあるので。ショーでいえば、自分が今まで見てて大興奮したのは大体野口幸作先生の作品ですね。ちょっと気持ち悪い感想だと思うんですけど、この人は私好みの男役を女装させてくださるんですよね……。
──男役が? 女装? それはもう普通に女性の格好をしているということでは?
まうす:そうなんですよね……。説明しててもワケがわからんなと思いますけど、男役が女の人の格好して出てきてくれるのってレア感、サービス感があるんですよ……! あと、音楽や衣装の面でも、例えば演出家の方によって以前の演目と同じ衣装を使ったりとか。
モモンガ:演出家によって、タッグを組みがちな衣装さんとかがいるんです。
まうす:だから、「何年か前のショーで着ていた衣装と同じものを、今回も着て出てきてくださった!」みたいなことがあるんです。今回のジャガビーも、2015年に齋藤先生が演出した「ラ・エスメラルダ」で着ていたものが出てきたりとか。
──そこはプロレスでいうと「ビッグマッチのここぞというタイミングで、ヒールターン以前に使っていたフィニッシュホールドが出た時の嬉しさ」みたいな感じですね。長く見ているがゆえの面白さというか。
まうす:派手さや過剰さ、様式美みたいなところも、宝塚とプロレスは似ているかもしれないですね。
──そうかあ。宝塚って昨日今日始まったものではないから、そういう蓄積も楽しめるんですね。
モモンガ:だから宝塚をずっと見ている人からすると「また似たようなショーだな」ってなっちゃうことがあるんですよね。それを避けるために新しいものを持ち込む過程で、時折おかしなものが出てくることがある。「今までより新しいものを!」って頑張った結果なんですよね。
──ということは、第二第三のメガファンタジーが襲来することもあるかもしれないということですね。
モモンガ:そう……だと思います。またメガファンタジーが襲ってくるかもしれませんが、とにかく齋藤先生の作品の場合は「カッケ〜! 血が滾るぜ〜! あ〜楽しかった〜イェ〜イ!」って終わるのがいいのかなと。
まうす:そうですね。景気いいな〜って。キラキラしてると嬉しくなるじゃないですか。光に集まる虫みたいですけど……。キラキラしてて羽がついてるとおめでたいし、ワ〜ッと嬉しがって見るのもいいと思います。
──ストーリーがどうとか難しいことは言わず、めでたみを味わったほうがよさそうなこともあるんですね。ジャガビーの謎は全然解けてないですが、『聖闘士星矢』という補助線のおかげで齋藤先生のショーについて今日はちょっと理解できた気がします。ありがとうございました!
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