映画「エブエブ」 アカデミー賞最有力だけど、主婦が確定申告中にバトる実写版『すごいよ!!マサルさん』だった件(2/3 ページ)
実は監督らはアジア映画の大ファンで、特に湯浅政明監督の「マインド・ゲーム」、今敏監督の「パプリカ」、宮崎駿の「もののけ姫」などの日本のアニメからもインスピレーションを受けて、この映画を作ったとも語っているのだ。良い意味で悪夢的な光景が広がる様から、それらのアニメ映画っぽさを確かに感じられるのも面白い。
頭のネジが吹き飛んでいる唯一無二のセンスを持つ映画のように思えるが、実は先人の作品を参照し、しっかりと現実に通ずる題材を盛り込んでもいるのだ。
さらに、本作は「ムーンライト」や「ミッドサマー」などエッジの効いた映画を続々と送り出す製作・配給スタジオ“A24”の作品。これほどの企画を通せるのも納得であるし、A24史上最高の興行収入かつ評価を得ていることも実に喜ばしい。
「魔宮の伝説」のあの子役が四半世紀の時を経て大活躍
さらに注目ポイントは、夫のウェイモンドを演じるキー・ホイ・クァンだろう。彼は「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」「グーニーズ」で大ブレイクした、80年代を代表する子役だったのだ。
しかし、その後はなかなか役に恵まれず年齢を重ね、ハリウッドでアジア人にはチャンスがないという厳しい現実を突きつけられた。アジア映画のアクション振付や演出、助監督として映画業界で働いてはいたものの、俳優として不遇の長い長い時間を過ごしていたのだ。そのキー・ホイ・クァンがメインキャラクターに抜てきされ、そしてアカデミー賞助演男優賞にノミネートされるほどに絶賛を浴びたのが、この「エブエブ」なのだ。
しかも、キー・ホイ・クァンは、劇中でウォン・カーウァイ監督の「花様年華」という映画にそっくりなシーンを演じていたりもする。彼もまた、違う宇宙ではアジア映画のスターになれていたのかもしれないという可能性を、メタフィクション的に見せていたシーンとも言えるだろう。
この他にも、主人公の家族が中国系移民であり、娘がレズビアンであることも自然に描かれるなど、ハリウッド大作映画の慣習にとらわれない、多様性をもった設定とキャスティングがなされている。こうした設定は家族の葛藤にもつながっており、物語上も大きな意味を持っていた。
今の現実の人生を肯定したくなる優しいメッセージ
本作は「違う宇宙の自分の能力を借りて戦う」というプロットを利用し、「他のあり得たかもしれない可能性」を描いているとも言える。「あのときこうしていれば違う人生もあったはずなのに」という誰もが一度は考えてしまうことを、マルチバースのさまざまな自分の姿を通して提示しているのだ。
とはいえ、他のマルチバースの世界を垣間見たりすることは、現実にはできない。ともすれば、本作で描かれていることが「しょせんは映画の話だよな」と冷めてしまいそうなところだが……この「エブエブ」が真に素晴らしいのは、マルチバースを題材とし、他のあり得たかもしれない可能性を示しているにもかかわらず「現実の人生を肯定したくなる」、その優しいメッセージ性にあったのだ。
詳しい理由はネタバレになるので書けないが、見終わると「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」という長いタイトルの意味と、邦題をそのままにした理由もはっきりとわかった、ということも告げておこう。これほどにトンデモでカオスな映画が、まさか、ここまでの感動を届けてくれるなんて!
最後まで見終われば、このヘンテコな映画が、なぜアカデミー賞最有力候補なのかが、きっと分かっていただけるはずだ。ぜひ、実写版『マサルさん』的なギャグに戸惑いつつも笑って、感動のラストまで見届けてほしい。
(ヒナタカ)
関連記事
- 小島秀夫監督と「マッドマックス」のミラー監督との共通点は? 最新作「アラビアンナイト 三千年の願い」対談インタビュー
原典の「アラビアンナイト」にはない「発明」がある。 - 「THE FIRST SLAM DUNK」ネタバレレビュー これは井上雄彦が語り直した『リアル』だ!
「問題児」同士の物語。 - 製作期間30年! 「グロい」「ヤバい」「頭おかしい」三拍子そろった地獄巡りストップモーションアニメ映画「マッドゴッド」レビュー
「狂っている」は褒め言葉。 - ペルシャ人と名乗ってしまったユダヤ人vsナチ将校! ウソのペルシャ語を教え続けなければ処刑されてしまうサスペンス映画「ペルシャン・レッスン」レビュー
創ることよりも覚えることに必死。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの行動”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」【大谷翔平激動の2024年 「家族愛」にも集まった注目】
-
60代女性「15年通った美容師に文句を言われ……」 悩める依頼者をプロが大変身させた結末に驚きと称賛「めっちゃ若返って見える!」
-
「庶民的すぎる」「明日買おう」 大谷翔平の妻・真美子さんが客席で食べていた? 「のど飴」が話題に
-
皇后さま、「菊のティアラ」に注目集まる 天皇陛下のネクタイと合わせたコーデも……【宮内庁インスタ振り返り】
-
真っ黒な“極太毛糸”をダイナミックに編み続けたら…… 予想外の完成品に驚きの声【スコットランド】
-
71歳母「若いころは沢山の男性の誘いを断った」 信じられない娘だったけど…… 当時の姿に仰天「マジで美しい」【フィリピン】
-
新1000円札を300枚両替→よく見たら…… 激レアな“不良品”に驚がく 「初めて見た」「こんなのあるんだ」
-
家の壁に“ポケモン”を描きはじめて、半年後…… ついに完成した“愛あふれる作品”に「最高」と反響
-
ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
-
「ほぼ全員、父親が大物芸能人」 奇跡的な“若手俳優の集合写真”が「すごいメンツ」と再び話題 「今や全員主役級」
- ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
- ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
- フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
- 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
- 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
- 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
- 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
- ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
- 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
- セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
- 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
- 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
- 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
- アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
- 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
- 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
- ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
- 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」