アニメ「ULTRAMAN」の音楽はなぜ刺さるのか 作曲家・戸田信子×陣内一真が明かす「すごくスリリングで楽しかった」仕事の内幕インタビュー(1/3 ページ)

戸田「私たちはウルトラマンという歴史の一粒の砂でしかない」。

» 2023年05月20日 18時00分 公開
[西尾泰三ねとらぼ]

 作品の魅力を高める要素の1つ、劇伴。作品の音楽を誰が担当しているかは重要なポイントといえます。

 Netflixで5月11日から配信がスタートした神山健治×荒牧伸志両監督のアニメ「ULTRAMAN」FINALシーズン。シーズン1から音楽を手掛けているのが、戸田信子さんと陣内一真さんのコンビです。

 記者がその名を知ったのは、20年ほど前。ゲーム「METAL GEAR SOLID SNAKE EATER」(MGS3)のEDで流れるスタッフロールに戸田さんの名が連なっていたのを覚えています。その後、「METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS」(MGS4)では作曲チームのチーフとして、重厚な音楽を作り上げていました。

 その活躍の幅はゲームにとどまらず、映画音楽などにも広がっていく中、映画「すずめの戸締まり」では第46回日本アカデミー賞の最優秀音楽賞を受賞するなど、信頼と実績を重ねた円熟の音楽を生み出しています。

 神山×荒牧監督の「ULTRAMAN」「攻殻機動隊 SAC_2045」では、シーズン1から音楽を手掛けてきた2人。監督もコンビ、音楽もコンビ、「ULTRAMAN」について言えば原作漫画も清水栄一×下口智裕コンビによるもの。「ULTRAMAN」FINALシーズンの配信を記念し、アニメ「ULTRAMAN」の音楽制作、そして神山×荒牧監督との仕事という観点からお話を聞きました。

戸田信子×陣内一真 戸田信子×陣内一真に聞く「ULTRAMAN」FINALシーズン。「今日はいつも仕事しているときの作業着で来ちゃいました」(戸田さん)

フォーカスしたのは「かっこいいみんなのウルトラマン」をいかにドラマチックに壊すか

―― シーズン1から数えると関わりは5年ほどになりますね。FINALシーズンは、特に終盤の激浪の展開に音楽をどう沿わせるか苦労もあったように思いました。FINALシーズンの音作りで印象深いエピソードがあれば教えていただけますか。

戸田 進次郎の成長物語という軸に加えて、ウルトラマンの存在や正義について問題提起がなされているのがFINALシーズン。不穏な展開を予期させる“ダークさ”を作ることが音楽の1つのテーマでした。

 今までは、「かっこいいみんなのウルトラマン」が音楽もアイコニックのように使われてきました。変身があり、アクションがありという流れをいかにドラマチックに壊すか、にフォーカスしたのがFINALシリーズでした。

「ULTRAMAN」FINALシーズン

―― FINALシーズン固有のオーダーは何かありましたか?

戸田 これまでは、どちらかというとテンションを上げるために音楽が用いられていましたが、FINALシーズンは、進次郎の思いやウルトラマンという存在は何なのかといった物語にフォーカスすることが求められました。これまでのモチーフや敵の楽曲も含め、心に沿う楽曲をあらためて作りましたね。

陣内 そういう意味では、ドラマ曲が多かったです。今までのモチーフも生かしつつ、成長したキャラクターたちの未来を感じるようなドラマ曲のあてどころが多かったので。

 順当に(音楽を)付けると進次郎がどんどん悪者に見えてしまうような展開に対し、音楽の付け方としては、進次郎の味方をしている、観客がまだそういうふうに見ているようなものにしてくださいと監督がおっしゃったことがありました。いつの間にか進次郎側の気持ちになっているような視点の持たせ方はチャレンジでした。

戸田 でも、やっぱり最終話ですよ。音楽の付け方も最終話に向けて全てを調整したくらいでしたから。一番劇的なシーンにしたいけれど、ウルトラマン全員で立ち向かっても倒せないような敵との戦いが続く。ホップステップ型に展開する物語なら、どこかにテンションの落としどころがあるものですが、最終話はズトンと上がって、その状態が維持される。あの展開をどう見せるのが正解なのかはかなり悩みました。

「ULTRAMAN」FINALシーズン

―― ネタバレにならないよう注意して話しますが、最終話で、進次郎にとって重要なシーンがあります。そこで使われている楽曲が音楽的な伏線回収のようですらありました。

戸田 あのシーンの音楽の案は幾つかあって、まずは無音。静かに聞かせるのも効果的で、演出としてよいなとは思いましたが、進次郎の新しい覚悟が決まっていくシーンのせりふには音楽が絶対ほしかったんです。この物語に対する私たちの1つの回答として、シーズン1のエピソード1で多分誰も気にしていないであろう回想シーンで使われている楽曲を持ってきました。FINALですが、ここからまた始まるという意味で。

―― 両監督へのインタビューでもあのシーンはかなり思い入れがあったように感じました。音楽的にはシーズン1からの変容はどういったものといえますか?

陣内 ドラマとして必然的に変化が生まれていると思います。

 このシリーズの音楽は、オーケストラと電子音楽の要素を合わせたハイブリッドな作風で構築するところからスタートしました。例えば星人たちの楽曲はだいたい電子音。メロディーを持たないリズム的なテクスチャーなのに対して、ウルトラマンたちの楽曲はしっかりとしたメロディーを持つオーケストラ寄りの音作りが多かったりします。

 FINALシーズンの楽曲は全て感情の方に付ける話になったので、もともとアクションを見せるために作った曲をどう感情的にアレンジしていくかが課題の1つ。加えて、アクションが今までのシーズンで一番多いことも課題でした。ドラマ曲にフォーカスしたものが多く、ダークな音も多かったので、最後の盛り上がりは有機的でないといけないと2人で話していましたね。

「ULTRAMAN」FINALシーズン

戸田 ハイブリッドなスタイルは、キャラクターを表すのに何が必要かを選択した末のことでした。

 オリジナルのウルトラマンには、皆さんが思い描くような楽曲のスタイルがありますよね。シーズン1のときは、そうしたものをどこかに踏襲すべきか、今までのファンをこの新たな作品に連れてくるにはどうしたらよいか音楽側も気を遣った部分があります。そうした試行錯誤の末に、山ほどテーマ曲を作っちゃったんですけども(笑)。

 その中でも「これだ!」というものが決まって、それが楽曲でいうと「ULTRAMAN」。リズミックなモチーフとメインモチーフの両方が聞こえて、男性コーラスによる力強さや、弦が入ってくるけれど金管のメロディーを重ねることでウルトラマンらしいキャラクターにできるといった感触がそこで構築されて、シーズン1の基軸となりました。

―― シーズン1ではセブンやエースの楽曲もキャラクターごとの世界観の中で作ろうとされていた印象です。

戸田 そうですね。シーズン2で東光太郎が登場し、それぞれのキャラクターは別々の楽曲ですが、全員のウルトラマンの曲を並べたときにウルトラ兄弟というか、ワールドの曲だと分かるようにしたいというのがシーズン2からの変化でした。

 先ほど一真くんも言ってくれたように、モチーフを持つ者は、味方またはウルトラマンであること。サウンドデザインなど音の変化で出現したり、アクションが生まれてくるのは敵、と区分けがされたのがシーズン2。FINALシーズンでは、私たちの中で区分けも音楽的な範囲も決まって集中できたので、総決算的に完成させられました。シーズンごとに違う形で成長させていただいたと思います。

「ULTRAMAN」FINALシーズン

―― 物語としては初代ウルトラマンに回帰したというか、つながりが強く感じられるものでした。アニメ「ULTRAMAN」の物語をどう受け止めましたか?

戸田 アニメ「ULTRAMAN」が、と言うよりは、ウルトラマンの普遍的なテーマそのものだと感じます。新時代にバトンを渡した形だと思っているので。今の時代、そのバトンを渡すのはアニメ「ULTRAMAN」だったのかなと。

陣内 ヒーロー感については今戸田さんが話した通り。ウルトラマンになっていく過程の描かれ方で共感を生んだように思います。特に最終話でウルトラマンとしてのヒーロー像があらためて強く打ち出されている。一緒にヒーローになっていくような感覚がありましたね。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/10/news102.jpg 大谷翔平の妻・真美子さん、ZARA「8000円ニット」を着用? 「似合ってる」「シンプルで華やか」
  2. /nl/articles/2412/09/news188.jpg 結婚発表の高畑充希、「いつ恋」共演の有村架純と2ショット “プレートの文字”に注目するファンも「ただただ尊い」
  3. /nl/articles/2412/09/news077.jpg 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  4. /nl/articles/2412/09/news172.jpg 市川團十郎、亡妻・小林麻央さんが着用していた服を長女が着られるようになったと報告「よく似てる」 そっくりな姿を投稿
  5. /nl/articles/2412/10/news163.jpg 「えーー」「衝撃!」「食べれるんですか!?」 大沢たかお、“まさかの食事風景”にファンびっくり 「明日は雪かな」
  6. /nl/articles/2412/09/news049.jpg 道端で凍える野良子猫を保護→病院で安楽死を勧められるも…… 1年後の姿に感動「救ってくれてありがとう」【海外】
  7. /nl/articles/2411/05/news138.jpg 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  8. /nl/articles/2412/09/news063.jpg 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
  9. /nl/articles/2412/10/news160.jpg 「マニアックすぎw」とざわつくも“1分で完売”の最新ガンプラ話題 「この令和の世に??」「珍しいヤツだから普通に欲しい」
  10. /nl/articles/2412/10/news032.jpg 黒留袖をざっくり切って大胆リメイクしたら…… 完成した“普段使いのオシャレアイテム”に「感動しました」「素敵!」
先週の総合アクセスTOP10
  1. イモトアヤコ、購入した“圧倒的人気車”が思わぬ勘違いを招く スーパーで「後ろから警備員さんが」
  2. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  3. パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
  4. 高校生のときに付き合い始めた2人→10年後…… 現在の姿に「めっちゃキュンってした」「まるで映画の世界」と1000万表示突破
  5. 大谷翔平の妻・真美子さん、ZARA「8000円ニット」を着用? 「似合ってる」「シンプルで華やか」
  6. 新幹線で「高級ウイスキー」を注文→“予想外のサイズ”に仰天 「むしろすげえ」「家に飾りたい」 投稿者に感想を聞いた
  7. 高校生時代に父と撮った写真を、29年後に再現したら……再生数1000万回超えの反響 さらに2年後の現在は、投稿者に話を聞いた
  8. 散歩中、急にテンションが下がった柴犬→足元を見てみると…… 「そんなことあります?」まさかの原因が860万表示「かわいそうだけどかわいい」
  9. コメダのテイクアウトで油断して“すさまじい量”になってしまった写真があるある 受け取ったその後はどうなったのか聞いた
  10. 「やめてくれ」 会社で使った“伝言メモ”にクレーム→“思わず二度見”の実物が200万表示 「頭に入ってこない」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」