佐藤健の超絶アクションだけじゃない! 実写版「はたらく細胞」が成功した理由と、意外にダークな注意点(1/2 ページ)
コスプレ感はそもそも問題にならない。
映画「はたらく細胞」が12月13日より公開されている。結論から申し上げれば、漫画の実写映画化の成功をたたき出した例として当面語られ続けるであろう、素晴らしい作品だった。
後述する意外な注意点はあるものの、「やりきったビジュアルとスケール感」「ハマりまくりなキャストと超絶アクション」「映画ならではの再構成」の3点をこれ以上ないほど突き詰めた傑作に仕上がっている。
1:笑いを超えた、感動さえあるビジュアルとスケール感
原作の『はたらく細胞』は、アニメ化もされた言わずとしれたヒット漫画。体内の「赤血球」や「白血球」などを擬人化し、「花粉症」から「ガン」まで、さまざまな細胞との攻防をシュールかつコミカルに描いた作品だ。
漫画の実写映画化で特に批判されやすいことに「コスプレ感」がある。マンガやアニメではデフォルメや極端な表現ができるが、舞台ならともかく実写の映像化作品でそのまま再現してしまうと「現実にはあり得ないよね」と冷めてしまいかねない。
だが、「はたらく細胞」ではその問題は起こり得ない。原作からして、体内が現実から誇張、いやまったく別の世界へと作り替えられているため、そもそも「現実にはあり得ないキャラクターと世界を許容できる土台」があるのだ。
それでも中途半端なアプローチであれば炎上していた可能性もあっただろうが、本作では「ワンダーランド」と銘打たれたことも納得の「実写映画でここまでやりきった」ビジュアルとスケール感が最大の魅力となっている。
「ゴジラ -1.0」などでも知られるスタジオ「白組」によるCGと、総勢約7500名にのぼるエキストラを動員して作り上げた、ファンタジックな世界観やカラフルなたくさんの細胞が働いているシーンはスクリーン映えし、見ているだけで楽しい。
ときには「大便が押し寄せる肛門での激しい攻防」というバカバカしくさえある場面も全力で作り上げている。「どれだけ滑稽に思える場面でも、登場人物はふざけたりはせずに大真面目」というのは、本作の武内英樹監督が過去に実写化した作品「テルマエ・ロマエ」「翔んで埼玉」でも共通しており、そこには笑いを超えた感動さえあるのだ。
2:永野芽郁と佐藤健などのキャストの納得度と、キレキレのアクション
キャスティングもまたこれ以上は望めないと思うほどに豪華かつハマり役だ。中でも「赤血球」役の永野芽郁はドジでもがんばり続ける姿を心から応援したくなるし、無表情でとっつきにくいようで実は面倒見がいい「白血球(好中球)」役の佐藤健との掛け合いはずっと見ていたくなる。
さらに、生身の人間が演じてこその大きな魅力となっているのがアクションだ。ワイヤーを駆使した壁走りや高速回転のキレや美しさ、ナイフを用いての「近接格闘」に近い俊敏な動きにはほれぼれしてしまう。佐藤自らが、映画「るろうに剣心」でタッグを組んだアクション監督の大内貴仁を呼んだというが、それが作品に見事なアクセントを加えている。
さらに、「マクロファージ」役の松本若菜が巨大な鉈を振り回す様が、直近では「キングダム 大将軍の帰還」の「王騎」役の大沢たかおを連想させる迫力とケレン味があった。そして「最強の敵」役として待ち構えるFukaseが映画「キャラクター」の連続殺人鬼役を発展させた狂気の演技を見せており、佐藤演じる「白血球」との対決や運命の対比も見どころとなっていた。
また、実写化において「血小板ちゃん」が“ちゃんと子ども”であるのも非常に大きい。幼稚園児に見える彼女たちがあつまって「うんしょうんしょ」と「凝固因子」を運んでいたり、「そろーりそろーり」と階段を降りたりと、楽しそうな姿がとってもほほえましい。みんなのまとめ役のマイカ・ピュはもはや天使である。
他にも「キラーT細胞」役の山本耕史と「NK細胞」役の仲里依紗が「筋肉コンビ」かつ犬猿の仲というのも面白い。「ヘルパーT」細胞役の染谷将太が冷静な指揮官に徹していたり、「新米赤血球&先輩赤血球」役の板垣李光人と加藤諒がちょっぴり「BL」チックなやりとりをしていたり、「肝細胞」役の深田恭子の女神のような優しさに癒されたりもできる。
それぞれの「なりきり」ぶりは、原作および俳優ファンにとっても納得だろう。
3:映画オリジナルの「タメになる」要素の拡張も
さらには、映画では「はたらく細胞」シリーズ初の「人間の世界」も描いており、「人間の行いが体内ではこうした変化として表れる」という「連動」があるため、原作で支持された「タメになる」要素が拡張されているのだ。
映画オリジナルとなる、芦田愛菜の「しっかり者の女子高生」と、阿部サダヲの「ちょっとダメな父親」が織りなすドラマは感情移入しやすく、加藤清史郎演じる「憧れの先輩」との関係にもニヤニヤしてしまう。ここは同じく武内英樹監督×徳永友一脚本の「翔んで埼玉」にもあった、とっぴなビジュアルおよび設定の世界との対比となる「現実的な視点」として、映画により入り込みやすくなる効果も生んでいる。
原作を1本の映画にまとめるための取捨選択と再構成も的確であり、さらにスピンオフ作品 『はたらく細胞BLACK』も原作としている点も重要だ。タバコと酒とジャンクフードが大好きで不摂生になっている父親の体内が「ブラック化」して、細胞たちが理不尽な労働をさせられている様から、大人こそが「自分も気をつけよう」と反面教師的な学びを得やすくなっている。
さらに、終盤には伏線もしっかり生かしたドラマチックな展開が用意されている。ホームドラマとしてはベタとも言ってしまえるものだが、やはり「体内との連動」があってこそのタメになる面白さがあるし、そこにはどれほど絶望しても諦めない人間の気高さと、人体のたくましさを再確認できる構造もあるのだ。
「意外にダークでシリアス」な終盤には注意が必要?
注意点をあげるとすれば、G(全年齢)指定で収まる範囲とはいえ、終盤のダークな展開に実写ならではの生々しさがあることと、やや間接的な表現を守りつつもナイフでの殺傷シーンがいくつかあることだろうか。怖さや残酷さは原作にもあった要素であるし、コミカルとシリアスのギャップの大きさも本作の見どころなのだが、楽しく笑える場面のみを期待していた人にとっては、そうした印象に面食らってしまうかもしれない。
最強の敵であるFukaseのサイコパスみのある演技も相まって、未就学児のお子さんには刺激が強すぎないかとも心配してしまうのだが、最近はアニメ「鬼滅の刃」などで残酷描写に対する“免疫”はあるだろうし、しっかり親御さんがそばにいてくれるのなら、それほど身構えなくてもよいのかもしれない。また、漢字混じりの文章がセリフなしで示される場面もあったので、親御さんがその内容を覚えておき、鑑賞後に教えてあげるのもいいだろう。
もちろん、終盤の展開はいたずらに怖いだけでなく、しっかり意図が込められている。田口生己プロデューサーは本作に込めた思いについて「誰もが日々を生きていく中で、辛いことや大変なこともあるはず。世界を見渡せば、戦争が起きていたり、心が痛むような出来事もあります。そういった時にも解決の糸口になるのは、自分は決して一人ではないんだということ。みんなで協力し合っていくことが、平和への道筋になるはず」とも語っており、確かにその通りの志の高さが出来上がった映画、特に終盤の恐怖や絶望の感情をも引き出す描写から感じられたのだ。
つまりは終盤の印象は注意点であると同時に、作り手が現実の世界の残酷さを見据えて作品に昇華させた、美点でもあるのだ。楽しいコメディーパートはもちろん、「意外にダークでシリアス」な終盤、さらには「戦争映画のような重み」を経てこそのラストシーンまで、めいっぱい楽しんでほしい。
(ヒナタカ)
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