もともとハイクオリティーなゲームムービーやミュージックビデオを手掛けるアニメスタジオとして知られていた「神風動画」。近年では「ジョジョの奇妙な冒険」のOP制作を皮切りにテレビアニメでも露出が増え、アニメファンの認知度も高まってきました。
「ジョジョ」以降のTVアニメの仕事では「ガッチャマン クラウズ」OP、「刀剣乱舞 -花丸-」ED、「アイドリッシュセブン」OPなどを継続的に発表しつつ、2017年末には中編映画「COCOLORS (コカラス)」を発表。2018年には初の元請けテレビアニメ「ポプテピピック」を制作し、さらに年内には初長編映画「ニンジャバットマン」の公開も控えているという、いま最も注目を集めるスタジオの1つです。
長尺な作品への挑戦が目立ち始めた同社が次に目指すスタジオ像とはどんなものなのか? 同スタジオの取締役であり、「ジョジョ」OPや「ポプテピピック」でアニメーションプロデューサーを務めた佐々木貴之さんと、数々の作品で監督を務め後進クリエイターを育てる立場でもある水野貴信さんにお話を聞いてきました。
社訓「妥協は死」
――いきなり「妥協は死」と書かれたお茶が出てきて戦々恐々としています。
佐々木:社訓なんです(笑)。10年以上前に社長の水崎が突然「筆ペンはないか」と言って書いたもので。湯のみの字はそのときの文字をスキャンして再現したものなので、ほぼオリジナルですよ。
――神風動画の社訓は以前も耳にしたことがあったので、死屍累々な現場をイメージしていたのですが。社内は意外にもオシャレというか。
佐々木:スタッフの提案で壁には過去弊社で手掛けてきた作品のキャラクターをデコっています。社訓は厳しいですが、平和な会社ですよ。
――公式サイトに「電話の問い合わせは11時〜19時まで」とあります。もしかしてホワイト……?
佐々木:アニメ会社ってつらくて、厳しくて、夜も帰れなくて……というイメージがありますけど、本当にそうしないとアニメって作れないの? という思いで作られた会社なんです。スタッフはそこに賛同して集まっているので、そこは絶対に崩さないようにしようと。
――今日は現場代表として、水野監督にも来ていただきました。
水野:水野です。
――水野さんは現在後進の育成もされているとのことですが。手描きのアニメーターだと「動画」→「原画」→「演出/監督」のようなキャリアの重ね方があると思うのですが、そういった流れは神風動画にもあるんですか?
水野:入社したらまずはそのひとの武器を伸ばしてもらいますが、その後はその人が興味のあることや、好きな方向に進んでもらうようにしていますね。
佐々木:年に4回、個人面談の機会を設けていまして、好きなものや進みたい方向、ハマっているものについてヒアリングしています。あとは本人のスキルが基準値に達していれば、ディレクションも含めて、どんどんチャレンジしてもらってます。
水野:例えば若い人向けの作品は若い人がディレクターをやったほうが、より視聴者の心に刺さると思うんです。最近だと「刀剣乱舞-花丸-」のEDや「アイドリッシュセブン」のOPはどちらも20代の女性ディレクターが担当しています。
――それは若いですね。
佐々木:他社さんだと細かく分業している場合が多いと思うんですが、神風動画ではモデリングをやった人がセットアップをやって(※)、作画をして、そのまま撮影までやって……と、1人がマルチに対応できることが強みだったりもするので。
※「モデリング」はキャラクターなどの形状(モデル)を3D上で作り上げる工程。セットアップはできあがったモデルをアニメーターが操作しやすい仕組みを作る工程のこと。
――手描きのアニメーターも社内にいらっしゃるんですか?
佐々木:作画のアニメーターは3人いますが、作画専門のスタッフではなくて、撮影をやったり、CGをやったりと兼任しています。
――「ポプテピピック」だとフランス人のスタッフが実写で登場しますね。
佐々木:弊社従業員のティボさんですね。本人も「面白そう」ということで、出てくれました。でも原作を渡して「これをやってほしい」と伝えたときは、中指を立てている表紙なので「クビかと思った……」と言ってました(笑)。当時は日本語が全然分からなかったので、原作は1つ1つ翻訳にかけて読んだみたいですよ。
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