「痛みを感じる光だけが君を救う光になる」
イラストレーター・ふせでぃと小説家・鏡征爾による現代を生きる女の子を描くイラスト小説。ふせでぃが描く“現代の等身大の女の子”と鏡征爾の少女的な感性かつ繊細な文体が誰かの心に寄り添いますように。
過去はかえられる。
深く反省すること。
深く後悔すること。
激しく傷ついたこと。
激しく傷つけたこと。
誰かに焦がれたこと。
焦がれた想いが実ったこと。
初めて体温を手にいれた瞬間の幸福と、
憧れが終わってしまった喪失感。
憧れが遠ざかり、どんどん手に入らなくなり、
それでもなお、憧れを求めずにはいられない残尿感。
幸福のあとに残るのは虚しさだ。
希望のかわりに得られるのは絶望だ。
理想と現実の差は激しい。
求めれば求めるほど苦しい。
それでもきみは今日まで、
この令和の日まで生き残った。
日常を嫌悪し、
比較ばかりの集団にうんざりし、
不透明な未来に不安を抱え、自分の現在地が、
幼い日に思い描いた未来とあまりに異なる現実に、
なぜもっとあのときがんばれなかったのかと、
過去を悔やみながらも、生き残った。
傷ついても生き抜くきみの魂は美しい。
きみは世界を変える力をもっている。
世界は過去と現在と未来の集合だ。
時間は過去から現在に向かって流れるのではない。
時間は未来から現在に向かって流れる。
未来が、現実をつくる。
最新の脳科学によれば、
現実は、過去の記憶の集合で成り立っているという。
傷ついた過去を、悔やむことはせずに、
それを糧にすれば、世界の見え方をかえられる。
現実をかえられる。
過去をかえられる。
きみは自分で自分を否定する精神の自傷行為をやめられる。
共感なんてどうでもいい。
他人の理解なんてどうでもいい。
いいねの数もフォロワーの優劣もどうでもいい。
クラスメイトの目も仕事の叱責も弄ばれた恋愛もどうでもいい。
きみはどれだけの暗闇のなかでも、
光を見つけられる存在だ。
目をふさいでも、まどろみのなかでまたたく残像のように、
光を見てしまう。きみは光を求めてしまう。
きみは、まだ、光に向かって手をのばしている。
きみは、また、光に向かって手をのばしている。
きみは、ただ、光に向かって手をのばしている。
それが点滅する幻想だとしてもかまわない。
それが幻滅する現実だとしてもかまわない。
それが現実を悪化させる未来だとしてもかまわない。
痛みを感じる光だけが、君を救う光になる。
@nakamura_sekai
痛みを感じる光だけが、君を救う光になる。
0:38 - 2019年5月20日
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――私は、画面に映るそのツイートを見て、
しばらくのあいだ、動けなかった。
最初にその存在を知ったのは、受験を控えた高3の始め。
17歳の春。
そのときはまだ君が、
すぐ近くにいるなんて、しらなかった。
1. 始まりは恋愛から。とある少女の実話からのログアウト
寂しさには周波数がある。
ケータイの電波は時々それをキャッチする。
点滅する光が合図を教えてくれる。
「からだを売れ」「金を払え」「私をみろ」「18禁サイトをクリックしろ」
そんな低俗な広告であふれてる。
そして、そんな広告のどれに反応してしまうかで、
そのときの自分の精神状態がわかってしまう。
オーディションに落ちた帰り、私は泣きながら歩いていた。
やりたいことが見つけられない私は、
承認されることに、唯一の活路をみいだしていた。
クラスのカーストも中の下。場合によっては下位かもしれない。
自分が不細工だってわかってる。
だけど、昨今の有名人は顔じゃない。
「会いに行けるアイドル」なんて言葉があるように、
「クラスで三番目くらいに可愛い身近な子」を求めてます、
なんて募集広告があるように、
わりと誰にでもチャンスはある。
(だけど、やはり無理なものは無理なんだよなあ)
わかっていても、苦しい。
私たちはたぶん、他人から否定されることになれていない最初の世代だ。
雨の日で、制服は濡れるし、靴下には水が入り込んで気持ち悪い。
もうやけになって、適当に声をかけてきた男についていこうかとすら思っていた時だった。
▼からだを売れ。時給2万
そんな広告が目に入った。
私はすぐさまケータイを取り出し、茶髪のアイコンに電話をかけた。
通話にでない。
きっと他の女とカラオケにでもいっているんだろう。
「私、いまからからだ売るから」
そんなメッセージだけラインに残して、店の前で立ち止まる。
もう一度ケータイをチェック、既読になって返事がない。
もともと、そのクラスメイトとは利用し合うだけの関係だった。
――当時を振り返って、考える。
人間が落ちるときは一瞬だ。
だが浮上するのは難しい。
同時に、恋に落ちるときも一瞬だ。
だが、一度失恋したら浮上するのは難しい。
ああ、いまから見知らぬ男に犯される。
ああ、いまからとんでもないことをされてしまう。
でも、そのかわりに、お金が稼げる。
二重にだってできるし、
ヒアルロン酸で涙袋だってつくれるし、
スタバの新作を前にして財布を気にすることもない。
(まあ、そんな勇気なんてないんですけど)
店の前で立ち尽くしながら、ケータイに映る自分の顔を見て、
足元を見た。野良猫が可愛かった。
『パシャリ』
インスタに投稿して、通りに出た。
意気地のない自分を、身近な野良猫のせいにした。
2. 嫌いは好きの裏返し
色素の薄い髪。
透きとおるような白い肌。
気だるげな瞳。少しだけ不良っぽい、けど清潔感のある制服。
思春期みたいにハスキーな声。
中性的な容姿の彼は、クラスの女子のあいだで、密かな人気者だった。
成績優秀容姿端麗。
学年でも一度もトップから陥落したことがない。
高額な学費で知られる私たちの私立の学校で、
親が実業家で、豪邸に住んでいるという噂もある。
神様は不公平だ。
スクール・カーストの最上位に君臨する存在と、
添い寝程度の小遣いビジネスにも乗りだせない、母子家庭の私。
だから、そんな彼が、私は大嫌いだった。
どうすれば可愛くなれるか。
彼を見る度に、鏡を見るように考えてしまうから。
(Illustration by ふせでぃ/Novel by 鏡征爾)
痛みを感じる光だけが君を救う光になる
ふせでぃ
イラストレーター・漫画家。
武蔵野美術大学テキスタイルデザイン専攻を卒業。
現代の女の子たちの日常や葛藤を描いた恋愛短編集『君の腕の中は世界一あたたかい場所』(KADOKAWA)は発売即重版が決定。
最新作――『今日が地獄になるかは君次第だけど救ってくれるのも君だから』(KADOKAWA)
鏡征爾
小説家。
『白の断章』が講談社BOX新人賞で初の大賞を受賞。イラストも務める。
ほか『群像』や『ユリイカ』など。東京大学大学院博士課程在籍中。魚座の左利き。
最近の好きはまふまふスタンプと独歩。
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