大 できるだけ現実に沿ってやってますけど、どうしても見落としは発生しますよね。そのへんは素直に受け入れてます。自分は1時間に1回、一日に24回以上エゴサするんですけど、ツッコミがあったらむしろこっちが参考にしてやろうと思ってますね。
江島 でも、描き始める前は「すごくツッコミが来そうだな……」と思っていたんですけど、実際始まってみたら長年格ゲーをやってきている人ほど温かく見守ってくれているなと思いましたね。
大 ほんと、それはありますね。
江島 「ストV」始めたてのころ、掲示板のキャミィスレッドで質問したことがあるんです。「この状況でこうするとこうなっちゃうんですけど、どうしたら良いですか?」って。そしたら、今思うと的外れな回答をなぜか強めに叩きつけてくる人もいたんですけど、実力者と思しき人ほど優しく的確に教えてくれたんですよね。
大 プロゲーマーのような実力者って、本当に紳士ですよね。人格的にもそうなんでしょうけど、格闘ゲームへの向き合い方も。結局熱量で駆け上がってきた人たちなので、熱量を持って上手くなりたいと思っている人に対しては、真剣に受け答えしてくれる。格ゲーマーって人間性はクz………良い性格をしてらっしゃる方が多いですけど、そういうところは絶対に裏切ってこないですね。
「人間の屑になりますわ」
――(笑)
江島 各ゲーマーのツッコミという意味でいうと、「漫画はまず漫画として面白いことが一番大事」だと思うんですよ。多くの格ゲーマーを唸らせる内容を描くことはめちゃくちゃ頑張れば可能だとは思うんですけど、そこが第一目標になってしまうとなにかを見失うというか、シンプルにつまらなくなるという確信があったんですね。そうすると「格ゲーマーは納得しました、でも連載終わりました」になっちゃう。正直、格ゲーマーに納得してもらいたい気持ちは狂おしいほどあるんですけど、それは「面白い漫画にする」ことに比べるといくつも先のハードルですね。
ただ一方で、ブームが去っていた時代にも「流行なんか知るか」って感じで格ゲーをやり続けた人たちがいたからこそ今の格ゲーシーンがあるわけで、そこに後乗りしてきた私が「格ゲーマーがどう思うかは関係ない」って方向に行き過ぎるのも、それはそれで違うなという気持ちもあります。
大 そうですね。格ゲーマーという人間の魅力ってやっぱり「熱さ」だと思うんで、そのへんのバランスは大事ですよね。
――好きなプロゲーマーとかはいるんですか?
大 『ゲーミングお嬢様』がバズったきっかけになったのが、「ストーム久保」さんと「キチパーム」さんの2人がリツイートしてくれたからみたいなんですよね。それがきっかけで今もその2人のファンです。
――……一応聞きますけど投げキャラ嫌い(※)なんですよね?
※「キチパーム」「ストーム久保」両名とも投げキャラを得意とすることで有名。
大 もちろん。投げキャラとの対戦は人生の時間の無駄使いです。
江島 私はキャミィを使うのでキャミィ使いのプレイヤーの動画をよく見るんですけど、好きなプレイヤーはと聞かれたら……やっぱりウメハラさん。
大 やっぱりそうなりますよね。あの人、配信も面白いんですよ。あんなに面白いおじさんいないってくらい(笑)。
江島 私、梅原さんのことを「慶應丸の内シティキャンパス講演」で知ったんですよ。その中で「ゲームに飽きてしまう」という人への答えとして、「ゲームに飽きたんじゃない。成長しないことに飽きたんだ」という有名な言葉が出てくるんです。私も漫画を描く上で同じようなことを感じていたんですけど、それをきっちり言語化して具体的に説明していて感動しちゃって、それを5回、10回、20回と繰り返し聞いてました。
それで、ウメハラさんの本を全部読んだんですけど、そこで「これで分かった気になって良いのか?」「いや、違う!」と思って「ストV」を買ったんですよね。
――格ゲーを始めるきっかけがまずウメハラさんだったと。
江島 言動が本当に「主人公」って感じなんですよね。もちろん言うだけなら誰でもできるんですけど、ちゃんと結果も示してくれる。
私、「格ゲー」っていう非公開リストがあるんですけど(笑)、ときどさんに7-0で負けた(※)ときに「ウメハラ終わったな」って感じで言われてて私も落ち込んでたんです。でも、そこからのフェニックスっぷりがヤバくて、その後のCPTオンライン(※)で優勝したじゃないですか。それがもう漫画だったんですよ。「この人はこういう逆境を何度も覆してきたんだな」って。
※ときどさんに7-0で負けた:2020年春に行われた「TOPANGAチャンピオンシップ(第1期)」で、ウメハラ選手はときど選手と決勝リーグで激突。過去の戦績などからウメハラ選手の勝利が予想されていたが、まさかのストレート負けを喫し話題を呼んだ。
※CPTオンライン:CAPCOMがオンライン上で行った大会。例年世界各地で行われていた大会をオンラインに移行させたもので、優勝したウメハラ選手は公式世界大会「CAPCOM CUP 2020」への出場権を獲得した。(しかし、後に「CAPCOM CUP 2020」は中止に)。
――『ゲーミングお嬢様』『対ありでした。』ともに相手を罵るシーンがありますが気をつけていることはありますか? 今の時代だと、そういった部分も怖いんじゃないかと思うんですが。
大 当たり前ですけど、人種的な部分に触れるのは絶対ダメで、外見的な部分に触れるのも好ましくない。あとは、言い返せないものはNGで、やるんだったら絶対に言い返せることを言うってことですかね。煽るんだったら、絶対に面白くしないといけない。
江島 『対ありでした。』はどうでしょうね……。1話は明確にそういうシーンがありますけど、他はそんなに無いと思うんですよね。しかも、1話に関しては“勝ち確煽り食らった相手を、逆に2タテして倒した後”なのであんな感じになるんじゃないかと思うんですよね。……っていうか、あれは私が実際に思ったことなので。
大 (笑)
江島 あれをオフ対戦やゲームセンターで対戦相手が近くにいる中でやったらやばい人ですけど、ネット対戦で相手に届かないところで口に出したって形ですからね。しかも先にこっちが煽られた状況から逆転勝ちしたという喜びの表現なので、アリじゃないかなって。
印象的な場面なので「『対ありでした。』のあのコマだけ見たことある」って人は結構いるみたいで、誤った認識をされていそうなのでこれは言っておきたかったです(笑)。
――せっかくの機会ですので、お二人からなにか質問があればそちらも聞いていきたいのですが……江島先生はいかがですか。
江島 大@naniさんは、「格ゲーマーの発言まとめ」がバズったのをきっかけに漫画を描いたそうですが、もともと漫画は描きたかったんですか? 他の表現方法もある中で、わりとためらいなく漫画に行ったのかなという印象があって。
大 そうですね。なんとなく漫画が描きたいなって思ってました。でも漫画を描くって凄まじいパワーが必要ですし、絵が下手なので戦えないと自分の中で言い訳をしていたんです。
もともと、「格ゲー勢の発言まとめ」も全て漫画を描くためにネタとしてストックしていたものだったんです。それでバズったので決心がついたという感じですね。
――あの時点ですでに漫画化を意識していたわけですね。では、大@nani先生から江島先生に聞いてみたいことはありますか?
大 そうですね……アニメ化の話が来たときはどんな感じだったんですか?
江島 私、目標があったんですよ。商業連載は『対ありでした。』が3つ目なんですけど、最初の目標は「世に出ること」、次は「世間に認知されること」、そして『対ありでした。』は「売れたい。あわよくばアニメ化したい」と思ってたんです。だからうれしかったですね。2巻の段階でその話が来るとは思わなかったんですけど。
――『対ありでした。』のアニメが始まったら、格ゲー人口が増えるかもしれませんね。
大 そうですね。自分も『ゲーミングお嬢様』を見て格ゲーを始めたという人がいたら本当にうれしいんで、『対ありでした。』に便乗してアニメ化を狙いたいと思います(笑)。
(C)江島絵理/KADOKAWA
(C)大@nani ・ 吉緒もこもこ丸まさお/集英社
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