文庫本感覚で楽しめる“ひと癖もふた癖もあるオムニバス小説”「かまいたちの夜2 特別篇」レビュー(2/2 ページ)

» 2006年06月06日 16時03分 公開
[立花裕壱,ITmedia]
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前作でおなじみのレギュラー陣が登場

 かまいたちの夜2のシナリオも簡単に紹介しておこう。各シナリオに入る前の最初の設定は共通している。

 ――ゲーム「かまいたちの夜」に出演したことがきっかけで、大学生の透は原作者の我孫子武丸から、孤島・三日月島にある三日月館へ招待される。三日月館は明治時代、富豪の「岸猿家」が建設した館で、かつて監獄として使われていた。透はガールフレンドの真理を始め、同じくゲームのモデルとなった面々と再会を果たすのだが……。

photo 3DCGで精緻に作られたシルエットのキャラクターが想像力をかき立てる。動く様子はある意味、実写よりもリアルかもしれない

 かまいたちの魅力のひとつは、登場人物にある。グラフィックこそシルエットだが、その個性は強く、キャラがしっかりと立っている。主な顔触れはこんな感じだ。

●矢島透(21歳)
 大学生。いわずと知れたかまいたちシリーズの主人公。ヒロインの真理とは友人以上恋人未満。“この夏、絶対に真理と正式な恋人同士になってやる!”と意気込むものの、とんでもない事件に巻き込まれる。気弱でちょっと煮え切らないが、推理力や洞察力は捨てたものでもない。

●小林真理(21歳)
 ちょっと強気なシリーズのヒロイン。前作では透の大学の同級生だったが、かまいたちの夜2では大学を辞め、透と長いこと離ればなれになっていた。容姿もスタイルも運動神経も抜群。合気道の達人で透よりも強い。

●小林二郎(45歳)
 真理の叔父で前作の舞台だったペンション「シュプール」のオーナー。料理が趣味で、脱サラしてペンションを始めた。かなりの釣り好きであることが判明。今回、妻・今日子さんは留守番とのこと。

●香山誠一(55歳)
 かまいたち随一の名物キャラ。ベタベタの大阪弁を操る、小太りで赤ら顔の会社社長。新妻の夏美と一緒に島にやってきた。前作の奥さん、春子とは“ま、いろいろあったんや。わけは聞かんとってくれ。だははははは”ということらしい。

 そのほか、軽薄な口調のゲームプロデューサー正岡や気むずかしい性格の作曲家・村上といった新たな人物も登場する。館に集められた13人を襲う運命とは?

変幻自在なシナリオを楽しむ

photo 船上では船頭さんからわらべ唄を教わる。事件にも深く関わるわらべ唄は、歌詞がシナリオによって変わるのにも注目だ

 ほとんどのシナリオは三日月島に渡る船から始まる。いったんメインルートをクリアすると、新たな選択肢が出現するといった形式だ。例えば、船頭さんに“我孫子さんってどんな人なんですか?”と聞くと「陰陽篇」、口をつぐんでしまった船頭さんに“気になるなあ”と突っ込むと「底蟲村篇」といった具合にルートは分岐する。いくつかシナリオを紹介していこう。


photo 食堂にメンバーが勢揃い。だが、3人組OLのひとり、亜希の姿が見えない。その理由とは……

●わらべ唄篇
 透と真理が三日月島に呼ばれた8月15日はかまいたちの夜だった。この夜、島一帯では必ず大風が吹く。特に50年に1度吹く暴風は「鎌イタチの風」と呼ばれ、疫病や災いをもたらすといわれる。今年はちょうど50年目。言い伝えの通り、激しい嵐が始まり、やがて客のひとりが無惨な死体で見つかる。それは島に伝わるわらべ唄の見立て殺人なのか……。
  前回はミステリーのお約束、雪の山荘ものだったが、今回もやはりお約束、嵐の孤島もの。剣が植えられた掘、陰鬱な監視塔、監獄さながらの部屋、正体不明の館の主人・我孫子武丸……。殺人事件としての道具立ては万全だ。館の雰囲気に背筋がゾクゾクする。

●陰陽篇
 三日月島に到着した透たち。桟橋付近の海には、九字を書いた人型の紙「比斗紙」が数十枚浮かんでいた。三日月島は陰陽道の古い風習が残る土地柄で、これは50年に1度のかまいたちの夜に行われる行事だったのだ。儀式もむなしく、透たちは陰陽師の怨霊のいけにえとなっていく……。
 伝奇オカルト要素満載のシナリオ。犠牲者の死に様はかなりスプラッタで痛々しい。ほかのシナリオでは派手なイケイケ姉ちゃんだった夏美のオカルト知識にもびっくりさせられる。

●サイキック篇
 “私には特別な力があるの”。死体を見つけた時、真理は透に驚がくの事実を打ち明ける。真理は物に宿る記憶を読み取る超能力「サイコメトリー」の持ち主だったのだ。そして、実は館に集まった人々もみな……。
 ゲーム中で唯一、真理が語り手となるシナリオとなる。ハードな展開とほかのシナリオとのギャップがエキサイティングだ。

●洞窟探検篇
 エーゲ海の「クレタ島」との類似点が指摘される三日月島。岸壁の中腹に開く洞窟は迷宮につながり、奥には宝が隠されているという。透と真理は島に伝わるわらべ唄を頼りに、洞窟を探検する……。
 かまいたちの夜2最大のアドベンチャーが繰り広げられる。島の地下に広がるラビリンスで、暗号解読やパズルなど数々の難問を解いていく。途中、セーブできない場所があるので注意したい。

photo かまいたちの夜といえば“お色気”も大事な要素(?)。シルエットだからこそ、このギリギリの表現が可能なのかもしれない

 ほかにも“シルエットが異様にそそる”と評判のちょっとHな「官能篇」、残酷表現がプレーヤーを震撼させる「惨殺篇」、ギャグが炸裂するショートストーリー「わらび唄篇」など、バラエティ豊かなシナリオが盛りだくさん。ぜひすべてを読んでみてほしい。

そして物語は「かまいたちの夜×3」へ続く

photo かまいたちの夜×3は複数の主人公を切り替えていくスタイルとなる。ひとつの選択が、ほかの主人公に大きな影響を及ぼす。どんな謎が待つのか?

 この夏には「かまいたちの夜×3 三日月島事件の真相」の発売が予定されている。かまいたちの夜×3は再び我孫子氏がメインで筆を執る本格的なミステリーになる模様だ。このPSP版にも予告編が収録されている。

 かまいたち2から1年後の三日月島で新たな密室殺人が起こるという、短いムービーだが“シリーズ完結編”とされる本作が今から待ち遠しいものだ。

かまいたちの夜2 特別篇
対応機種PSP
メーカーセガ
ジャンルサウンドノベル
発売日発売中
価格5040円(税込)
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