「すごい切れ味」「SFホラーすぎる作品」と話題 ちゃおコミのディストピア・ホラー漫画『笑顔の世界』、作者と編集者に思いを聞いた(1/2 ページ)

わずか14ページとは思えない読後感。

» 2021年08月30日 12時15分 公開
[十津川あきらねとらぼ]
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 試し読みサイト「ちゃおコミ」で公開された読み切りホラー漫画『笑顔の世界』が、ネット上で「すごい切れ味」「SFホラーすぎる作品」と話題です。徐々に明らかになっていくディストピアの世界観が怖い……!

笑顔の世界 (画像はちゃおコミより引用)

 物語の主人公は飢田リカコ。母親とペットのチー太と暮らす小学5年生です。正義感の強い彼女は、いじめが常態化している学校に嫌気がさしています。

笑顔の世界 (画像はちゃおコミより引用)

 担任の教師にクラスメイトがいじめられていると訴えても、「だっていじめは必要悪だろ?」と開き直られてしまいます。なぜなら、立場の弱い人に発行される「被虐証明書」があれば、どれだけ虐げられても脳が幸福物質を出すようになる手術を受けられ、いじめられる側も笑っていられるのだというのです。

笑顔の世界 (画像はちゃおコミより引用)

 恐怖のあまり学校から逃げ出したリカコ。ふと見渡せば街中にも、「正しくいじめよう」などと不穏なポスターが貼られており、彼女はこの世界の恐ろしさに気付いていくことに……。『笑顔の世界』はこのように、かわいらしい少女漫画のタッチでディストピア・ホラーな世界観を描いており、そのギャップがネット上でも大いに読者をざわつかせました。恐ろしい世界観を支える細部の描写が丁寧なので、読むたびに発見があり、何回でも読み返したくなってしまう中毒性のある作品に仕上がっています。

 この漫画に対してTwitter上では、「たった14Pですごい切れ味だった。…ちゃおってホラー誌とかSF誌とかでした…?」「ちゃおのホラー相変わらずパンチ効いてんな」「ちゃおでこんなSFホラーすぎる作品を拝めるとは…」「ちゃおは昔からホラー大好きじゃないですか!! 私は恐怖!ヒキガエルの呪いが怖すぎて寝られなくなった思い出があります」といったさまざまな感想が寄せられました。話題となった衝撃のラストはぜひ、漫画を読んで確かめてみてください。

笑顔の世界 物語の終盤、リカコの笑顔の先にあるものとは……?(画像はちゃおコミより引用)

 『笑顔の世界』の作者は岬かいりさん。まず岬さんに、本作を描いたきっかけと、今後の展望を聞きました。

――すさまじい世界観のホラー漫画ですが、『笑顔の世界』を描いたきっかけなどはありますか。執筆当時はどんな思いで取り組まれていたのでしょうか?

岬さん:“ちゃおコミでは、ネットの利点を生かして今までちゃおを読まなかった読者にも読んでもらえるような作品を描いてもらいたい”というのが編集部からの要望だったので、ある程度年齢の高い読者にも届くような作品を意識しました。発表後は、たくさんの人に読んでいただけているようでとてもありがたく思っておりますが、ここで作者から内容について事細かに言及するのはやぼかなとも思うので、控えたいというのが本音です。

――岬さんの今後の展望などを教えていただけますと幸いです。

岬さん:自分はホラー専門の作家だとは思っていないので、今まで通りオーソドックスな少女漫画をはじめ、さまざまなジャンルにチャレンジしていきたいです。ちなみに現在は、ちゃおコミ向けにラブコメものを執筆中です。



 岬さんはこれまでにも、ホラー作品に限らずさまざまな作品を公開しており、今後の活躍に期待が高まります。さらに本作の担当編集者に、少女漫画でホラー漫画を扱うことへの思いを聞くと、「子ども向けホラー漫画の意義」から「自身のホラーとの出会い」まで、熱い思いの丈を語ってくれました……!

――ちゃおといえば本作に限らず『恐怖!ヒキガエルの呪い』など、かなり怖いホラー漫画がたびたび登場しているように思います。少女漫画でホラー漫画を扱う際に意識していることなどはありますか。

担当編集:少女漫画だから、というのはあまり意識していないです。読者が感情移入しやすいように、主人公を女の子にすることくらいでしょうか。あと、舞台設定を読者の生活環境にできるだけ近づけるとか。ホラーでは特に主人公への感情移入が重要なので、これはテクニック的な話ですが、できるだけ特徴の無い主人公にするようにしています。主人公のキャラが立ちすぎると、読者にとって主人公は「自分では無い誰か」になってしまい、主人公が味わう恐怖を共感しづらくなるからです。

 「児童向けのホラー漫画」を作ることについては、私は子どもたちにとってホラー漫画が「日本における神様」のような存在になってくれればと考えています。日本では、神様は天罰を与える恐ろしい存在です。「お天道様が見ている」から、私たちは誰も見ていない所であっても悪いことができない。そんな神様が八百万(やおよろず)もいて、私たちの生活を見守っています。トイレにまで神様はいるそうですから、油断も隙もありません。

 一方、児童向けホラー漫画についてですが、子どもというのはまだ現実と非現実の境界が不明瞭で、「通学路に口裂け女がいた!」などと本気で口走るような存在です。そんな子どもたちにとって、ホラー漫画の世界というのは大人のそれよりもリアルであり、そこで感じる恐怖はより深い所に刺さります。そんな子どもたちも、やがて年齢を重ねるうちにホラー漫画を単なるフィクションとして受け止めるようになってしまうのですが、子どもの頃に感じた恐怖心というのは、大人になった後も心の深いところでくすぶり続けます。

 そして大人になったある日、「誰も見てないけど、バチがあたりそうだから悪いことはやめとおこう」と思えたとするならば、その根底には「人智を越えたえたいの知れない何か」に対する畏怖心があるのであり、それが「子どもの頃に読んだホラー漫画体験」であったらいいなと思うのです。私はこれを、「なまはげ理論」と呼んでいます。

 また、今回話題となったようなディストピア・ホラー漫画も、子どもたちのその後の人生を豊かにするきっかけになると考えています。ディストピア・ホラー漫画を読み終えて、「ああ怖かった! でも現実はこんな世界じゃなくて良かった! こんな世の中にならないように、頑張らなくちゃ」と思ってもらえるとするならば、その作品はその後の人生をより豊かにしていく力になると思うからです。これはホラー漫画に限ったことではなく、ディストピア世界が反面教師としてその後の人生をより豊かにするきっかけとなるという物語の構造については、私は保育園在園中に「いやいやえん」を読んで気付きました。

 ただ一方で、ホラー漫画は「劇薬」でもあります。子どもたちにとっては、その読書体験で受けた恐怖心は生涯のトラウマになってしまう可能性があります。用法用量を守って、楽しくホラー漫画を読んでもらえるよう、編集者は心掛けるべきだと思います。



 「ちゃおコミ」は、8月10日にオープンした試し読みサイト。「ちゃお」よりも少し年齢が上の、スマホを持ち始める年頃の読者が自由にまんがを楽しめる場所としてスタートしました。「ちゃお」本誌は小3〜6年生の読者がターゲットですが、「ちゃおコミ」はスマホを持ち始めて「ちゃお」を卒業していく、小学校高学年〜中学生の子たちが愛着を持って読んでくれるまんがサイトになって欲しいとの思いで立ち上げたそうです。さらに、かつて「ちゃお」を愛読していた人たちが、過去のヒット漫画に再会できる場にもなってほしいとのこと。「ちゃお」のさまざまな作品に触れられる場として、今後への期待が高まります。

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