えっ、前2作を買わなくていいんですか?――これ1本で丸ごと楽しめる「かまいたちの夜」決定版:「かまいたちの夜×3 三日月島事件の真相」レビュー:(2/2 ページ)
キャラクターごとの心情描写が見事
プレイを始めてまず感じたのは、香山の性格が乗り移ってくるような心情描写だった。自分が話したいことを話し続け、自分の望んだことを実現するためにわき目も振らない香山。その強引でまっすぐな生き様は、周囲に迷惑をかけながらも、結果的には人をひきつける。あなたの周囲にもいないだろうか? 自分勝手で強引なのだが、どこか憎めない友人が。そんな彼の気持ちに立って見ると、世界はこんなにも違って見えるのかと、少し驚く。特に一生懸命自分のことを話している最中に、そのほかの連中が違うことを話していると、香山と一緒に“聞いとるんか!”と、思わず叫びたくなってしまうのだ。
香山のシナリオを終わらせると、矢島透が主人公になってプレイできるようになる。透で一度エンディングを迎えると、次は久保田俊夫、最後は北野啓子がプレイできる。当然同じ場所で同じように行動しているため、プレーヤーは最低一度は見た内容を、繰り返し見続けることになる。普通に考えればそうなのだが、描写の方法が違うと、同じシーンでもこうも違った見方ができるものか、と正直驚いた。
例えば、透は彼なりに周囲に気を使って話をしているつもりだが、啓子から見るとそんな透は、他人のプライバシーにドカドカと土足で踏み込んでくる、デリカシーのない男に映る。俊夫から見た啓子は、オドオドしていて判断力も鈍いお荷物だが、啓子は言葉にできない分を心の中で毒づいている。本作をプレイすれば、自分は周囲にどう見られているのかが気になってくることは間違いないだろう。
物語はこれからだ……あれっ、どうした?
1年前の事件で亡くなった人たちを、本当の意味で供養しようと集まった面々。しかし透がペンション・シュプールのワインセラーの下に落ちていた鍵を、香山に見せたことで、目的がもうひとつできてしまった。それは、この館のどこかに隠されている、この館の本当の主伊右衛門が隠した財宝探しだ。気味悪がる透を引き連れて、香山は財宝の探索に向かう。しかし地下室を一通り巡ったあと、急転直下の出来事が! 香山が何者かによって殴り殺されてしまうのである。
主人公視点でゲームを遊んでいる時、いきなり死を体験するというのはなかなか新鮮な感覚だ。正直言って、ゲームであることを忘れて、本気でびっくりしてしまった。きっと突然殺された人は、こういう気分なんだろうなと変なところで納得してしまう。
では、殺されてしまった香山の後を継いで、彼の事件を推理するのは? そう、われらが透くんである。彼の名探偵ぶりは「かまいたちの夜2」でも実証済みだ。この先の物語については、ぜひとも本作をプレイして確認してみてほしい。
ファンなら気になるしおりの数
さて、一通りメインシナリオを満喫した人にとって、最も気になるのは、やはり“しおり(シナリオ)”の数であろう。本作で唯一その存在が明らかにされているのは「ピンクのしおり」だ。
内容は当然のようにピンク色に彩られているのだが、CEROレーティングがC(15歳以上対象)ということもあり、さすがに「かまいたちの夜2」ほどの過激さはない。ただ、その代わりというわけではないだろうが、「かまいたちの夜2」をプレイした人へのごほうび的な要素を含んでいる。プレイして確かめて欲しいのだが、“おっ、これは!”とひざをたたいた人は「かまいたちの夜2」を相当やりこんだ証拠だ。
とは言え、シリーズを通してプレイしてきた人なら“これだけで終わるはずがない!”と思うことだろう。そう、きっと、どこかにまだ見ぬ何かが隠れているはず……。ぜひすべてのエンディングを確認して、ペンション・シュプールの面々を、あなたの手で幸せにしてあげてほしい。
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