“美”を念頭に置いて製作している――「ヘブンリーソード」開発者インタビュー東京ゲームショウ2006

リアルタイムに形態が変わる剣“ヘブンリーソード”を操る女性が主人公のアクションアドベンチャー「Heavenly Sword 〜ヘブンリーソード〜」。開発元である「Ninja Theory」のスタッフに、現在の製作状況を聞いた。

» 2006年09月24日 06時34分 公開
[平澤寿康,ITmedia]

 「Heavenly Sword 〜ヘブンリーソード〜」(以下、ヘブンリーソード)は、東洋的な雰囲気を漂わせる女性が主人公のアクションアドベンチャーだ。“ヘブンリーソード”とは、ある一族に伝わる神秘の剣のこと。その一族には次のような言い伝えがあった――「ある日一族に男の子が授かる。その男の子は“ヘブンリーソード”を操り一族を約束の地へと導く」。

 しかし、その言い伝えの日に生まれたのは男の子ではなく女の子であった。それが主人公である。言い伝えを信じていた一族は、その女の子を一族を破滅させる存在であるとして忌み嫌ったのだった。その彼女が23歳に成長した頃、世界はKINGとその軍勢によって制圧され、彼女の一族もKING軍に次々に殺されていった。その中で彼女は一族を救い、また殺された一族の恨みを晴らすため、“ヘブンリーソード”を手に取りKINGに向かっていく。これが「ヘブンリーソード」の大きなストーリーである。

KING肖像画

 この「ヘブンリーソード」を製作するにあたって特に注意している部分は“美”だそうだ。主人公の女性は、とても美しくエレガントに仕上がっている。また、戦闘シーンは非常にパワフルな雰囲気だが、その中にも美しさがある。例えば、「ヘブンリーソード」の特徴のひとつに“魅せるアクション”という部分がある。特定のコマンド入力で発せられるアクションは、発生時にカメラが引き、ムービーシーンであるかのような演出となる。その時のキャラクターの動きも、しなやかさの中にも力強さを感じさせる、非常に細やかなモーション付けがなされている。これも、美しさを引き出すための演出のひとつというわけだ。


今回公開されたスクリーンショット。今までは闘技場のもののみが公開されていたが、広いフィールドでの戦闘もある様子

 美しさという点では、キャラクターの衣服や武器などの細かな部分の描写もポイントだ。リアルな布の質感を表現した衣服、鈍い光を発する武器など、どれもPS3の処理能力があってこそ再現できている部分。それは、光や影などの描写についても同様だ。とにかく、どのシーンにおいても、美しさ、エレガントさ、力強さを表現するという点に力を入れているそうである。

 ところで、「ヘブンリーソード」は格闘系のアクション性を重視するタイトルでありながら、主人公が女性であるという特徴がある。そして、この特徴があるからこそ、「ヘブンリーソード」というタイトルが成り立っていると考えているそうだ。

「ヘブンリーソード」開発を統括している、Ninja Theoryのニーナ・クリステンセン氏。女性的な観点から、「ヘブンリーソード」における”美”を追求している

 「ヘブンリーソード」の物語は、基本的には非常に重厚であり、内容的にもパワフルな面が前面に押し出されている。しかし、その中に美しさを表現するには、主人公となるキャラクターを女性にした方が有利となる。また、ストーリー展開の根底は復讐劇であり、どちらかというと暗くなりがちだが、主人公が女性であるからこそ、救いのある展開に導きやすくなる。加えて、キャラクターへの感情移入度も、女性キャラクターの方が高めやすい。つまり、「ヘブンリーソード」の主人公が女性であるという部分は必然だったのである。「彼女を今後のゲームシーンでの象徴に育て上げたい」とは、開発担当であるニーナ・クリステンセン氏の言葉だが、それだけ思い入れの強いキャラクターなのだろう。

映画「HERO」に大きな影響を受けている

 「ヘブンリーソード」は、中世ヨーロッパ的な雰囲気だけでなく、どことなく東洋的なな雰囲気も兼ね備えている。これは、開発スタッフが、映画「HERO」に強いインスピレーションを受けたからだそうだ。

 HEROは、秦の時代の中国を舞台とする、香港・中国合作の武侠映画で、剣術を中心とした爽快なアクションシーンに加え、色彩美豊かな映像表現などが大きな話題となった。確かに「ヘブンリーソード」の映像を見ると、登場する様々なキャラクターや、そのキャラクターが身にまとっている衣装、登場する風景など、様々な点でHEROを彷彿とさせる雰囲気が感じ取れる。そして、グラフィック面での色づかいや光・影の取り入れ方などは、まさしくHEROそのものと言っていいかもしれない。

 また、“ヘブンリーソード”を駆使するアクション部分は、このゲームのもっとも重要な要素であり、ここもHEROの影響が大きく見え隠れする部分である。

東京ゲームショウ会場ではE3の時同様に闘技場での戦闘が体験できた。スクリーンショットは鎖剣を振り回している様子

 主人公が操る“ヘブンリーソード”は、複数の形態に瞬時に切り替えられるようになっており、その場の状況に応じて形態を切り替えつつプレイすることになる。用意されている形態は「2刀流」、「鎖剣」、「大剣」の3つ。2刀流は、威力は低いが素早い攻撃が可能な、通常攻撃パターン。また、鎖剣は、鎖でつながれた剣を振り回して離れた位置の敵を攻撃する場合などに利用する。さらに大剣は、接近戦で敵に大ダメージを与えたい場合などに利用する。これら3形態はプレイ時に瞬時に切り替えられるだけでなく、簡単なボタン操作で扱えるため、プレーヤーはそれぞれの形態を気持ちよく操れるようになっている。戦闘時のアクション部分の気持ちよさは、まさにHEROで表現されている爽快かつパワフルな剣術シーンを彷彿とさせるものだ。

 こういったHEROに影響された部分に加え、スタッフそれぞれが興味を持っている要素を取り入れていったことによって、ヨーロッパ的な雰囲気の中にも東洋的な雰囲気を感じさせる「ヘブンリーソード」独特の世界観が生まれたというわけである。

 東京ゲームショウ2006でプレイアブル展示されていた「ヘブンリーソード」は、基本的にはE3 2006で展示されていたプレイアブルデモと内容はほとんど変わらないものであった。とはいえ、PS3の能力をベースとしたHDクオリティのグラフィックや、主人公のしなやかかつパワフルな動作、特定の技を出すと専用の演出に切り替わる点など、今回のインタビューで聞けた“美”を追求しているという部分は、プレイしていて十分に伝わってくる。

「ヘブンリーソード」の開発を行っているNinja Theoryのスタッフ。グラフィックエンジンは独自のものを利用しているそうで、更なるクオリティアップを目指しているそうだ

 発売時期は2007年春が予定されているが、現時点では細かなストーリー展開も固まっていないようで、まだまだ開発途上のようである。また、基本的にはシングルプレイに特化されており、現時点ではネットワーク関連の機能についてもまったくの未定だそうだ。しかし、爽快なアクション性と“美”の融合は、まさしく次世代レベルのクオリティがすでに実現されている。とにかく、登場が待ち遠しい期待作であることは間違いないだろう。

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