平井一夫氏基調講演リポート――原点を見つめ直し、楽しいゲームを提供することが最優先課題:東京ゲームショウ2007(2/2 ページ)
振動機能付きPS3コントローラ「DUALSHOCK 3」が発表される
最後にPS3。まず始めに平井氏は、「残念ながら、全世界で同時発売ができず、一気呵成の立ち上げというわけにもいかなかった。」と語り、当初の予想よりも立ち上げが鈍く推移していることを素直に認めた。そのうえで、「我々はここで今一度PS3を『ゲーム機』であると位置付け、原点を見つめ直し、いかに楽しいゲーム、いかに楽しいインタラクティブエンターテインメントをユーザーの皆様に提供できるかに注力し、ゲーム機として十分に楽しんでいただけるように、PS3ならではのソフトや周辺機器を充実させることを直近の戦略の軸とする。」と、ゲーム機としてのポジションを明確にすると明言。そして、そのために何をすべきなのかが語られた。
平井氏が挙げたポイントは4点。まず「パートナーとの対話を通じてよりよい関係を構築する」という点。ソフトウェア同梱パックのようなパートナーとのコラボレーションで行うマーケティング戦略や、開発環境の充実などが要素となる。このうち開発環境の拡充としては、ワールドワイドスタジオが持つPS3ソフト開発のノウハウの共有、開発者側の意見を吸い上げる機会の用意、開発効率を向上するための施策などが実行されることになるとしている。
次に「タイトルの内部製作の一層の強化」。既にワールドワイドスタジオの設立によってタイトルの内製は強化されてきているが、外部のゲーム開発スタジオを買収するなどしてさらに強化していくとした。その一環として、「モーターストーム」を開発した「evolution studios」およびその子会社の「bigBIG」という2社のゲーム開発スタジオを買収したことが発表された。
3つめに、「半導体のシュリンクや部品点数の削減による積極的なコストダウンの実現」。プラットフォームホルダーとして、ハードウェアのコストダウンはビジネス上非常に重要な戦略であるが、当然PS3についても今後積極的なコストダウンが進められることになる。ただし、コストダウン実現の結果である販売価格の値下げなどについては、今回の基調講演では語られることはなかった。
最後に「ユーザーの要望に真摯に耳を傾け、積極的に応用を検討していく」というもの。このポイントについて平井氏は、「他に勝るとも劣らない、最も重要な要素である」と語っていたが、その成果としてある周辺機器が発表された。それは、PS3用の振動機能付きコントローラ「DUALSHOCK 3」だ。PS3発売以降ユーザーから寄せられていた要望の中で最も多かったのが、PS3用コントローラ「SIXAXIS」への振動機能の搭載だったそうだ。当初技術的に困難であった6軸モーションセンサーと振動機能の同時搭載が技術的に解決されたことで、ユーザーの声に応える形で搭載が実現されたそうだ。DUALSHOCK 3の発売時期は、日本が2007年11月、北米およびヨーロッパが2008年春とされている。
加えて、DUALSHOCK 3対応タイトルも発表されたが、それら対応タイトルはTGSのSCEIブースなどに展示されるとともに、実際にDUALSHOCK 3を利用して体験できるようになっている。TGSに足を運ぶのであれば、各タイトルの試遊だけでなく、DUALSHOCK 3の振動機能がどういったものなのか、という点もじっくり体験してみてもらいたい。さらに、発売済みタイトルについても、ネットワークアップデートによってDUALSHOCK 3に対応していくことになるそうだ。
ネットワーク時代に即した新しいビジネスチャンスを創出する
各プラットフォームの戦略に続き、ネットワーク戦略についても語られた。
現在、プレイステーションプラットフォームのネットワーク戦略における中核的存在である「PLAYSTATION Network」。PS3のネットワークユーザーは270万アカウントを超え、日々増えているが、今後もさらなるコンテンツの充実が不可欠。そう指摘した上で、「グランツーリスモ 5 プロローグ」が、12月13日にディスクメディアだけでなくネットワーク配信でも販売されることが発表された。そして、ネットワーク配信によるクルマ番組「GT.TV」の配信、自動車メーカーによる「オンライン・ディーラー」といった、ゲームの枠組みを超えたライフスタイルの提案を行っていくそうだ。
また、PS3内での仮想空間によるユーザーコミュニティスペースとなる「PLAYSTATION Home」についても、「dress」という新しいサービスの提供も発表された。こちらは、SCEIブースでのデモンストレーションおよびムービーによる紹介が行われるので、取材次第別記事で紹介したいと思う。また、ゲーム内広告やヴァーチャルモールなど、ネットワークの世界に対応した新たなビジネスモデルも模索しているそうで、実際にノンゲーム企業との話し合いなども行っているそうだ。ただし、PLAYSTATION Homeのサービス開始時期が2007年から2008年春へと変更された。これは、さらなるサービス拡充を目指してのことだそうだが、楽しみにしていた人にとってはやや残念な発表であった。
さらに、PLAYSTATION Network上のコンテンツ配信サービス「PLAYSTATION Store」についてのアップデート情報も語られた。その内容は、体験版やムービー、ゲームアーカイブスなどの基本となる配信コンテンツの拡充と、PCからPLAYSTATION Storeへアクセスしコンテンツダウンロードが可能になるというもの。PLAYSTATION StoreのPCへの対応により、PCにPSPをUSB接続し、PC経由でPSPで利用できる様々なコンテンツをダウンロードできるようになった。PLAYSTATION StoreのPCへの対応は、本日9月20日から開始されている。
PS3の圧倒的な処理能力や最先端の技術を活かし新しいエンターテインメントの世界を提供していく
スタンフォード大学が推進している分散コンピューティングプロジェクト「Folding@home」。この演算能力が、先日1ペタFLOPSを超えたと発表されたが、この演算能力の8割はPS3が担っているそうだ。
ネットワークで接続されたPCやPS3のCPUを活用し、膨大な演算能力を得て難病の解明を目指すというプロジェクトだが、接続されているPS3の台数はPCの約1/6ながら、全体の8割の演算能力を実現していることからも、いかにPS3が持つ演算能力が優れているかが分かるだろう。そして、この圧倒的な演算能力こそが、SCEIが目指すリアルタイムインタラクティブエンターテインメントのバックボーンになると平井氏。
また、PS3が搭載するBlu-rayフォーマットも、膨大なデータを記録し、最高の画質・音質を楽しめるHD時代に欠かせないものであるとも指摘。その上で、「コンピュータエンターテインメントの世界は、今後ますますリアルな方向に進んでいくのは間違いなく、PS3は、半導体、フルHD、Blu-rayなどの最先端の技術を活かし、新しいエンターテインメントの世界を提供していきます」と語り、基調講演が締めくくられた。
今回の平井氏の基調講演では、昨年の久夛良木健氏の基調講演のような大きなサプライズはなく、どちらかといえば、現状と将来の展望が淡々と語られたという印象であった。そういった中でも、DUALSHOCK 3の発表やPLAYSTATION StoreのPCへの対応など、ユーザーの要望に応えたり利便性を高める施策も実現されており、PS3の現状についてかなりの危機感を抱き、PS3のさらなる普及に向けて様々な施策を講じようとしていることはしっかり伝わってきた。PLAYSTATION Homeのサービス開始が延期されたことは残念だが、こちらも内容充実を目指しての延期ということなので、前向きに捉えたい。
そして我々ユーザーも、今後の展開をしっかり見守るだけではなく、SCEIに様々な要望をぶつけていくべきだろう。今回の基調講演で語られた内容が確実に実行されていくのであれば、それこそがPS3を発展させる最大の原動力になるのだから。
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