ポケットの中の“太平洋”戦争「太平洋の嵐 〜戦艦大和、暁に出撃す!〜」レビュー(1/2 ページ)

太平洋戦争の戦略級ゲーム、と聞くとそのボリュームに圧倒されて、とても最後まで終わらないと思ってしまう。そんな超重量級ゲームも軽量小型のPSPなら最後までやりぬけるのだ。

» 2008年02月14日 16時40分 公開
[長浜和也,ITmedia]

世界でまれなる太平洋戦争の戦略級ウォーゲーム

PSP版「太平洋の嵐 〜戦艦大和、暁に出撃す!」のオープニング画面。題字は元海軍大佐の源田実氏が揮毫したもの、というのは有名な話
やっぱり主役は「大和」か。収録された約370種の兵器にはそれぞれ3D画像をはじめとする詳細なデータが用意されている(ただ、ウォーゲームにおいて、詳細なデータと“それらしい”戦闘結果は別物であることに注意したい)

 PSP対応ゲームタイトルとしては、ほぼ初めてとなる太平洋戦争の戦略級ウォーゲームが登場した。え、「提督の決断」があるじゃないか、という意見もあるだろうが、“〜決断”は、太平洋戦争という事象を“それらしく”再現するよりも、細かいカタログスペックを実装させたキャラクター(兵器)にフォーカスを当てて、プレイヤーをいかにして楽しませるせるかに重点をおいた、エンターテイメント的な性質を強調したゲームタイトルだとわたしは思う。多少なりともボードウォーゲームの雰囲気と“それらしさ”を備えたPSP向けゲームタイトルとなると、やはり「太平洋の嵐」が初めてとなる。

 PSP向けゲームタイトルのカテゴリーが豊富な米国でも、この種のゲームタイトルは見たことがない。「Steel Horizon」が海戦ゲームとして挙げられるかもしれないが、これは、「提督の決断」のゲームスケールに“奇想天外”なストーリーを組み合わせた、一種独特なゲームになっているという(ゲームを楽しむというよりストーリーを楽しむのがベスト、というレビューも見かける)。そうなると、「太平洋の嵐 〜戦艦大和、暁に出撃す!」(以下、太平洋の嵐)は、世界で唯一のPSP向けの戦略級ウォーゲームということにもなる。

巨大で複雑な「物流システム」が小さなPSPに完全収録

 戦略級太平洋戦争のゲームに興味を持つ、“日本”の“PC”ゲームユーザーにとって、「太平洋の嵐」シリーズは説明するまでもないほどのメジャーな存在だ。1941年12月8日に(日本が米英に宣戦して)始まった太平洋戦争を扱ったこのゲームは、ベースデザインが発表されてから20年以上経つロングセラーで、2007年には最新作となる「太平洋の嵐5」がリリースされている。今回登場したPSP版はこの「太平洋の嵐5」をベースにしている。

用意されているシナリオは、史実、仮想おりまぜて日本側シナリオ17本、連合軍側シナリオ7本がプレイできる
ロジスティックや生産ルールを変更して日本軍を史実以上に有利にする設定も用意されている。この設定で日本軍をありえないぐらい強力にし、連合軍を撃破しつつ米国本土に上陸して「勝った勝った」と喜ぶのは不毛、という考えは、今の時代にそぐわないらしい

 「太平洋の嵐」で求められる勝利条件は、(勝利のレベルの違いはあれど)敵の重要拠点をより多く占領することと、シンプルに設定されている。戦争の過程でそれだけ物的人的に損害を受けていようともそれは考慮されない。しかし、第1作が登場した当初からユーザーにつけられた「輸送ゲー」という“称号”が示すように、ゲームでは、太平洋戦争の重要な要素の1つである「生産と補給」をいかに円滑に実施するかに、ゲーマーの労力のほとんどが費やされる。

 勝利条件として唯一与えられている「重要拠点の占領」を実現するには、そこに陸軍部隊を進出させて敵守備隊を戦闘によって撃滅しなければ(あるいは退けなければ)ならない。陸上戦闘で勝利するには、敵を圧倒する部隊と弾薬を戦場に送り届け、陸上兵力を維持するために部隊規模に見合った食糧を手配する必要がある。

 兵力と物資は生産拠点から敵兵力の妨害を排除しつつ輸送船団や輜重部隊によって輸送することになるが、輸送船団を動かすにも敵の妨害を排除する艦隊や航空隊を動かすにも、燃料(船は重油、飛行機はガソリン)と搭乗員が必要だ。とうぜん、敵を圧倒する規模の兵力(艦船に、戦闘機、爆撃機)も求められる。

 軍隊を動かす燃料や弾薬、艦船や飛行機を生み出す鉄と軽銀(ジュラルミン)は、それぞれ、原料となる原油、鉄鉱石、ボーキサイトを精製して生産する。これら、原料(と製鉄に使う石炭)も産出される拠点から精製する拠点まで輸送しなければならず、さらに、精製された燃料と鉄、軽銀はそれらを消費する拠点(重油は港、ガソリンは航空基地や空母が停泊する港、鉄と軽銀は造船所や飛行機工場がある拠点)まで、これまた輸送することになる。

 ここまで書いている本人も「もう、たくさん」と思っているが、飛行機に乗せる搭乗員も「指導教官」がいる飛行場で育成し、一人前になった搭乗員は乗る飛行機がある航空基地まで「輸送機/飛行艇」で輸送する。搭乗員を育てる指導教官は、4段階設定されている「練度」の最高レベルに達した搭乗員を前線から引き抜いて、新卒搭乗員が訓練している航空基地に赴任させなければならない。

 ここまで読んだ多くのPSPゲーマーがめまいを起こすほどに複雑に思える(ただし、あとから述べるように、チュートリアルを読むと、物資の流れについてはだいぶ整理されるはずだ)「生産、補給、ロジスティック」の関連ルールは、PSP版にも「そっくりそのまま」受け継がれている。PSPの小さな筐体の中でこのような“巨大な物流システム”が動いていることに、筆者はちょっと感動したほどだ。

戦闘シーンの3Dグラフィックスも「太平洋の嵐5」と同じように収録されている。ただ、登場するキャラクターが変わるだけで、シーンごとの背景や動きはすべて同じなので、何度も繰り返されると飽きてくるかもしれない。そういうときは戦闘シーンをスキップする機能を利用するといいだろう

“経験済み”か”未経験”で分かれる評価基準

 「PSP版の『太平洋の嵐』が気になって気になって」というゲーマーの属性は2種類に分けられる。1つは、PC版の「太平洋の嵐」ユーザーがPSP版に興味を持つ「PC版で戦略急ボードウォーゲーム系は経験済み」ゲーマーで、もう1つは、戦略級ウォーゲームに興味を持っているけど、「大戦略には旧海軍が出てこないし、『提督の決断』より“それらしく”なるゲームはないだろうか」という「PCで戦略級ボード系ウォーゲームは未経験」ゲーマーだ。“ギレンの野望”でストラテジーゲームに興味を持ち、「太平洋の嵐」のうわさを聞いて「連合艦隊を動かしてみたいのぅ」と思ったゲーマーもこちらに近い。

 “経験済み”ゲーマーが気になるのは「PSP版とPC版とでどのような違いがあるのか」に集約されるだろうし、“未経験”ゲーマーは(事前に流れている評判などから)「複雑すぎて自分にはプレイできないのではないだろうか」と不安に思っているだろう。特に、“プレイ可能なゲームの複雑さ”の分水嶺は「経験済み」「未経験」で大きく異なってくる。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2502/17/news061.jpg ママが反抗期の娘に作った“おふざけ弁当”がギミックてんこ盛りの怪作で爆笑 娘「教室全員が見に来た」
  2. /nl/articles/2502/18/news140.jpg 職場で21歳上の女性上司に“一目ぼれ”→猛アタックして交際&年齢差を乗り越え結婚 夫妻が波乱語る
  3. /nl/articles/2502/18/news090.jpg 伊勢丹で販売の高級バレンタインチョコに「カビによる汚染」発覚…… 回収・返金へ
  4. /nl/articles/2502/18/news092.jpg 「悲しみに暮れてる」 サイゼリヤがメニュー改定→“定番商品”消滅にショック広がる 「大好きだったのに」
  5. /nl/articles/2502/18/news011.jpg そうはならんやろ! あどけない女の子が約45年後には…… “とんでもないギャップ”に爆笑 「立派に育ってw」
  6. /nl/articles/2502/11/news012.jpg 最初に軽く結ぶだけで…… 2000万再生された“マフラーの巻き方”に反響「これは使える」「素晴らしいアイデア」【海外】
  7. /nl/articles/2502/18/news005.jpg 咳き込んでいたら、愛犬が寄ってきて…… ぽとりと置いたぬいぐるみに「なんて優しい子」と大反響 1年後の現在、飼い主に話を聞いた
  8. /nl/articles/2502/18/news151.jpg 父は時任三郎、母は元モデルの“33歳俳優”が「ダンディー」と話題 海外生まれで大卒後に俳優として活躍中
  9. /nl/articles/2502/18/news014.jpg 不要になったペットボトルに種をまき、3カ月育てたら…… 驚きの成果に「すごっ!」「素晴らしいアイディア」
  10. /nl/articles/2502/18/news047.jpg 母が7歳娘のために“ほぼ100均コーデ”を手作りしたら…… 信じられないクオリティーに驚き「マジすごい」「おしゃれすぎ」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 最初に軽く結ぶだけで…… 2000万再生された“マフラーの巻き方”に反響「これは使える」「素晴らしいアイデア」【海外】
  2. コメダ珈琲店で朝、ミックスサンドとコーヒーを頼んだら…… “とんでもない事態”に爆笑「恐るべし」「コントみたい」
  3. 「14歳でレコ大受賞」 人気アイドルがセクシー女優に転身した理由明かす 家族、メンバー、ファンの“意外な反応”
  4. 雑草ボーボーの荒れ地に“牛3頭”を放牧→2週間後…… まさかの光景に「感動しました」「いい仕事してますねぇ〜!!」
  5. “この子はきっと中型犬サイズ”と思っていたら……たった半年後とんでもない姿に 「笑わせてもらいました」
  6. 年の差21歳で「夫は娘の同級生」 “両親大激怒”で結婚は猛反発されるも……“まさかの行動”で説得
  7. 163センチ、63キロの女性が「武器はメイクしかない」と本気でメイクしたら…… 驚きの仕上がりに「やっば、、」「綺麗って声でた」
  8. サイゼリヤ、メニュー改定で“大人気商品”消える 「ショック」悲しみの声……“代わりの商品”は評価割れる
  9. ママが反抗期の娘に作った“おふざけ弁当”がギミックてんこ盛りの怪作で爆笑 娘「教室全員が見に来た」
  10. 「さすがに無神経な内容」 “暴言受けた”伊藤友里が降板発表→岡田紗佳の直後の投稿に批判の声 Mリーガーも反応
先月の総合アクセスTOP10
  1. ドブで捕獲したザリガニを“清らかな天然水”で2週間育てたら…… 「こりゃすごい」興味深い結末が195万再生「初めて見た」
  2. 「配慮が足りない」 映画の入場特典で「おみくじ」配布→“大凶”も…… 指摘受け配給元謝罪「深くお詫び」
  3. 母「昔は何十人もの男性の誘いを断った」→娘は疑っていたが…… 当時の“モテ必至の姿”が1170万再生「なんてこった!」【海外】
  4. 風呂に入ろうとしたら…… 子どもから“超高難易度ミッション”が課されていた父に笑いと同情 「父さんはどのようにしてこのお風呂に入るのか」
  5. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  6. 市役所で手続き中、急に笑い出した職員→何かと思って横を見たら…… 衝撃の光景が340万表示 飼い主にその後を聞いた
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. DIYで室温が約10℃変わった「トイレの寒さ対策」が310万再生 コスパ最強のアイデアへ「天才!」「これすごくいい」
  9. 「こんなおばあちゃん憧れ」 80代女性が1週間分の晩ご飯を作り置き “まねしたくなるレシピ”に感嘆「同じものを繰り返していたので助かる」
  10. 岡田紗佳、生配信での発言を謝罪 「とても不快」「暴言だと思う」「残念すぎ」と物議