キーワードは「デモクライタイズ」――レイ・カーツウェル氏キーノートスピーチGame Developers Conference 2008

米国・サンフランシスコで開催されている開発者向けのカンファレンス「Game Developers Conference 2008」にて開催された基調講演において、ゲームの今後の20年が予想された。

» 2008年02月25日 21時10分 公開
[記野直子,ITmedia]

ゲームの今後20年は?

 サンフランシスコ市内のMoscone Centerで開催していた「Game Developers Conference」(以下、「GDC」)にて現地時間21日(木)、インベンター兼フューチャリストのレイ・カーツウェル氏のキーノートスピーチ(基調講演)が行われた。タイトルは「The Next 20 Years of Gaming」(ゲームの今後20年)。

パラダイム・シフト

 CCDフラットベッド・スキャナー、各フォント光学的文字認識技術、盲者用文章音声読み上げマシーン、テキスト音声シンセサイザー、グランドピアノなどのオーケストラ楽器を完全にシミュレートできるシンセサイザー、そして実用化された多数単語音声認識技術の開発者であるカーツウェル氏は、生涯においてテクノロジートレンドを研究してきており、それには一定の法則があると言い切る。

 カーツウェル氏は、ムーアの法則を持ち出し、その法則の通りコンピュータチップの目覚しい発展がもたらしたコンピュータの高性能化について、「コンピュータや携帯電話などのデバイスは、今後低価格かつ高機能で小型化という目覚しい発展を遂げるでしょう」と語る。25年後にはデバイス群は究極的に小型、高機能化されると予想しているのだ。

 このデバイスにパワーを与えるのは「ソフトウェア」である。ただし、このソフトウェアも、ソフト開発者がデバイスの進化を予期して設計しなければ意味がないとカーツウェル氏。ゲームの設計をするに当たっても同じことで、たった2〜3年後の世界であっても今とはまったくデバイス環境が違っていることを適切に予測すべきであると述べていた。

成功の鍵はタイミング

 カーツウェル氏は、未来は予測可能と断言する。彼の調査統計によると、20世紀は一部戦争等の不確定要素による若干のズレはあったものの、ほぼ予想されたどおりの進化をとげることができたという。

 「成功の鍵は、タイミングです。プロジェクトはそれなりのリソースがあればそれなりの結果が得られるはずで、その確率は95%である。ただし、それらのプロジェクトは95%は失敗に終わる。なぜならタイミングが間違っているからです」(カーツウェル氏)

 もはや進化の予測を無視してはタイミングを捉えられないのだ。

どうなるのか? 未来予測

 これらの進化はコンピュータや情報処理にだけ当てはまるものではなく、健康や薬品に関してもあてはまる。いや、むしろ、20年後には現在ITとみなされていないものが「IT」産業の中心になっていくであろう、とカーツウェル氏は言う。

 2020年代になるとソフトウェアがすべてをアクセラレートいくことになるという。実際に医療の分野においては、このようなテクノロジーが病気を防いだり排除する研究が進んでいて、今後人間の寿命をさらに延ばす方向に動いている。

 ソフトウェアが牽引して、人間の脳に匹敵するところまで到達すると、カーツウェル氏は2029年までには、人間の脳の1000倍に匹敵する演算能力が1000ドルで購入できるようになると予想する。まさに「人工知能」と「知能」が競合する時代が来るのである。そしてバーチャルリアリティは本当のリアリティとの競争になるということであろう。

カーツウェル氏キーノートのまとめ

 昨年のハードメーカー2社(SCE、任天堂)のプラクティカルなキーノートスピーチと比較すると、とてもコンセプチュアルな講演であったと言えよう。実務的な側面だけでなく、大きな枠の中でゲーム業界やゲーム自体を考えようというGDC側の姿勢には頭が下がる思いがした。

 「いわゆる『コンピュータ』はこのままの形では存在しないでしょう。衣服、ベルトバックル、めがねなどの一部になるのです」という、カーツウェル氏の言葉は非常に興味深い。「人間という生き物だけがバイオロジーに制限されるのを拒む種」なのだと。

 確かに1980年代に、この携帯電話の進化を予想していた人とそうでない人では、能動的にソフトウェアを供給することを考えると、準備が違ってくるだろう。そういう意味では現在の状況がステーブルに継続するはずがないことは容易に想像できるが、単なるリニアな未来予測だけでは、ある程度の時間を要するゲーム開発には不足していると考えられる。

 また、同氏は「クリエイティビティのツールはデモクラタイズ(民主化:自由に使用できるように開放されること)されるべき、また、制作や生産に関するツールもデモクラタイズされるべきである」と述べた。前日のマイクロソフトのキーノートと被ると思われるのは私だけだろうか? 今回の「GDC」のキーワードともいうべき「デモクライタイズ」。ソフト供給側にも未来を予測する能力が問われると同時に、デバイス(ハード)側での未来予測能力も今後のゲーム業界の鍵になっていくことを予想させる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2503/18/news071.jpg 息子の小学校卒業で腕を組んだ34歳母→中学校で反抗期を迎えて…… 6年後の姿に反響 「本当に素敵!」「お母さん、変わってない!?」
  2. /nl/articles/2503/20/news115.jpg 「いつの間に……」 大谷翔平、試合後の「ひざの状態」にファンに衝撃 「ボロボロ」「すごさを物語っている」
  3. /nl/articles/2503/20/news026.jpg プロが本気で“アンパンマンの塗り絵”をしたら…… 衝撃の仕上がりが550万再生「凄すぎて笑うしかないw」「チーズが、、、」 話題になった作者に話を聞いた
  4. /nl/articles/2503/19/news126.jpg 「うそでしょ!?」 東京ディズニーランド、“老舗”レストランの閉店を発表 「とうとう来てしまったか」「いやだああああ」と悲しみの声
  5. /nl/articles/2503/19/news030.jpg 19万8000円で購入した超高級魚を、4年間育てたら…… ド肝を抜く“大変化”に「どんどん色が」「すごい」
  6. /nl/articles/2503/20/news046.jpg 【ワークマン】一体なんだこれは…… 衝撃的な“1500円Tシャツ”に反響 「すごく良い」「発想が面白い」
  7. /nl/articles/2503/19/news019.jpg 水族館のイカに“指でハート”をしてみたら… “まさかのお返し”が190万表示「こ、こんなことあるのか」
  8. /nl/articles/2503/20/news112.jpg 「なんでこれ使った」 ドジャース公式が“日本人3選手”の勇姿を投稿→よく見ると…… まさかの「違和感」に「誰かわからんかった」
  9. /nl/articles/2503/20/news009.jpg 「もうこりごりだ〜」 財布に新紙幣を入れたら…… “まさかのビジュアル”に爆笑 「昭和アニメのオチかな?」 投稿者に話を聞いた
  10. /nl/articles/2503/17/news040.jpg 毎日庭に来るインコから、ある日渡された“贈り物”とは…… 「号泣した」まさかの正体に「まるで何かの物語のよう」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 雑草ボーボーの運動場に“180羽のニワトリ”を放ったら…… 次の日、まさかの光景に「感動しました」「すごい食欲」
  2. 40歳・女性YouTuber「18年間、脇毛を処理していない」→“処理しない理由”語る 「脇のみならず……」
  3. 「恩師ビックリするやろなぁ」 中学3年で付き合い始めた“同級生カップル”が10年後…… まさかの現在に反響
  4. 使わない靴下をザクザク切って組み合わせると…… 目からウロコの再利用法が2500万再生「とてもクリエイティブ」【海外】
  5. ペットのカエルを土に埋め、約半年間放置→掘り返してみたら…… 「すげぇ」予想外の結末に「ほんと不思議」
  6. 「絶対当たったわこれ」→「は?」 ガリガリ君の棒に書かれていた“衝撃の文章”に「そうはならんやろ」 投稿者に当時の思いを聞いた
  7. コメダ珈琲店で「軽い食事」を注文 → 出てきた“まさかの実物”に思わず大仰天 「逆詐欺ですね」「軽食という名の主食」
  8. 最恐雑草“ヤブガラシ”根元をハサミでチョキッと切ると…… “驚愕の結末”に「すごい」「知りませんでした」
  9. 「笑い過ぎて涙が」 小学生次男、宿題で先生に不正を疑われる→まさかの原因が530万表示 「じわじわくる」 投稿者に話を聞いた
  10. 大阪梅田駅で撮影された“奇跡のような光景”に「今まで見たことない」「本当に贅沢な眺めだ」 全ホームにマルーンカラーが整列
先月の総合アクセスTOP10
  1. 最初に軽く結ぶだけで…… 2000万再生された“マフラーの巻き方”に反響「これは使える」「素晴らしいアイデア」【海外】
  2. コメダ珈琲店で朝、ミックスサンドとコーヒーを頼んだら…… “とんでもない事態”に爆笑「恐るべし」「コントみたい」
  3. パパに抱っこされる娘、13年後の成人式に同じ場所とポーズで再現したら…… 「お父さん若返った?笑」「時止まってる」2人の姿に驚き
  4. 和菓子屋で、バイトの子に難題“はさみ菊”を切らせてみたら……「将来有望」と大反響 その後どうなった?現在を聞いた
  5. 古いバスタオルをザクザク切って縫い付けると…… 目からウロコの再利用に「すてきなアイデア」【海外】
  6. 「14歳でレコ大受賞」 人気アイドルがセクシー女優に転身した理由明かす 家族、メンバー、ファンの“意外な反応”
  7. 希少性ガンで闘病中だったアイドル、死去 「言葉も発せないほどの痛み」母親が闘病生活を明かす
  8. “きれいな少年”が大人になったら→「なんでそうなったw」姿に驚がく 「イケメンの無駄遣い」「どっちも好きです!笑」
  9. ドブで捕獲したザリガニを“清らかな天然水”で2週間育てたら…… 「こりゃすごい」興味深い結末が195万再生「初めて見た」
  10. 芸能界引退した「ショムニ」主演の江角マキコ、58歳の近影にネット衝撃「エグすぎた」 突然顔出しした娘とのやりとりも話題に