“よくできたゲーム”と“面白いゲーム”の違いとは?――マリオの父、宮本茂氏の設計哲学(前編)(2/5 ページ)

» 2010年02月10日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

ゲームを作るのは、漫画を描くのに近い

宮本 もともと小学校のころは人形劇の人形を作る人になりたかったので、今日も(文化庁メディア芸術祭受賞作品の)コマ撮りのアニメなんかを見るとドキドキします。中学校の時には漫画家になりたかったので、漫画家さんの原画を見てもドキドキしました。高校に入ってからは工学部に行こうと思って数IIIをとりました。でも、やっぱり美術が好きなので、美大に行こうと思った。分かりやすいですよね、「工学部に行きたくて、美大にも行きたかったら工業デザインしかない」という単純な流れで金沢美術工芸大学に行ったのです。

金沢美術工芸大学公式Webサイト

 金沢美術工芸大学を卒業して、アーティストとして落ちこぼれてたのですが、「何か面白いものを作りたい」とずっと思っていたので、工業デザインを専攻していたことから「遊具やおもちゃを作りたい」と思って任天堂に入りました。

 そのころ、任天堂はヘンな会社だったんですよ(笑)。トランプを作っている、カルタを作っている、花札を作っている、麻雀牌を作っている。それ以外にベビーカーを作っている、光線銃を作っている、ブロック玩具を作っている、ラジコンカーを作っている……。

 その時、僕は「任天堂はトランプでもうけて、そのもうかったお金で好きなことをさせてくれる会社ではないか」と思ったんですね、ちょっと間違って入ったのですが、入ったらトランプはそんなにもうかっていなくて、「自分たちで何かしろ」ということになりました。入社2年目くらいから『スペースインベーダー』が大ヒットしていたので、「おもちゃを作ろうと思っていたけども、ゲームでも作ってみようかな」と思って始めました。

 ゲームを作るのは、漫画を描くのに近いことなんですね。自分でコツコツ描けば後は印刷所がどんどん作ってたくさん売ってくれるということで、「これはいいじゃないか」と思ったのです。工業デザインだと、工場と交渉しながらプラスチックのモデルを作って、とすごく大変なんです。しかし、デジタルデータは漫画と同じように扱えると気付いて、「しばらくやってみよう」と思って始めました。

 ビデオゲームを作るに当たって、ディレクターという肩書きを自分に付けました。自分で絵を描いて、ゲームを考えて、3人ほどのプログラマーに作ってもらう。プログラマーもどんどんアイデアを出してくれます。

 当時は任天堂の中でゲームを作るチームがいくつかあったのですが、だいたい技術者が作るんですね。『スペースインベーダー』(タイトー、1978年)もそうなのですが、プログラムが組めないと作れない。プログラム以前にハードウェアが分からないとダメです。『スペースインベーダー』でも、部品をハンダ付けして得点の仕組みを変えていた時代です。

 それが徐々にプログラムで動くようになっていくのですが、ちょうど『ドンキーコング』(1981年)のころにゲームの基盤ができて、プログラムを変えれば動くという時代になりました。「プログラムを作ればいいんだ。技術者じゃなくてもできるんじゃないか」ということで、「じゃあ、絵を描く人が作っても悪くないんじゃないかな」ということで自分で絵を描いて始めました。

『ドンキーコング』

 なぜそんなチャンスがめぐってきたかというと、技術者が作っていたゲームが大量に売れ残ったんです。ちょうど任天堂が米国進出した時、米国で3000枚の基盤が売れ残っていて、「それを使って売らないとダメ」というのが僕の仕事でした。だから、世の中で言う「手を挙げる人がいない」という仕事ですね。

 でも、幸運だったのは、作った瞬間に海外で売れるということ、そして売れ残っているわけなので自由に伸び伸びとやらせてもらったということです。

 そして、自慢になるのですが(笑)、『ドンキーコング』は6万台売りました。業務用の機械なので、1台50万円とかです。今の売り上げには及ばないですが、6万台売ってほめられたかというと、ゲーム業界のバカなところで、7万台近く作ってしまったんですね(笑)。また売れ残ったというので、ほめられるよりも「次のを作ってくれ」と言われました。

 このころ僕は、若気の至りで「もう出し尽くしたからネタなんかない」とか言っていたんです。そしたら一緒にやっている友達に「そんなことないやん。『ドンキーコング』作る時にもっとスケッチあったやろ。使ってないやつを作ればいいんじゃないか」と言われて、「それもそうやな」と思って『ドンキーコングJR.』(1982年)を作りました。

文化庁メディア芸術祭の会場で展示されていたスケッチ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

先週の総合アクセスTOP10
  1. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  2. 富山県警のX投稿に登場の女性白バイ隊員に過去一注目集まる「可愛い過ぎて、取締り情報が入ってこない」
  3. 2カ月赤ちゃん、おばあちゃんに少々強引な寝かしつけをされると…… コントのようなオチに「爆笑!」「可愛すぎて無事昇天」
  4. 異世界転生したローソン出現 ラスボスに挑む前のショップみたいで「合成かと思った」「日本にあるんだ」
  5. 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
  6. 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  7. 1歳赤ちゃん、寝る時間に現れないと思ったら…… 思わぬお仲間連れとご紹介が「めっちゃくちゃ可愛い」と220万再生
  8. 業務スーパーで買ったアサリに豆乳を与えて育てたら…… 数日後の摩訶不思議な変化に「面白い」「ちゃんと豆乳を食べてた?」
  9. 祖母から継いだ築80年の古家で「謎の箱」を発見→開けてみると…… 驚きの中身に「うわー!スゴッ」「かなり高価だと思いますよ!」
  10. 「妹が入学式に着るワンピース作ってみた!」 こだわり満載のクラシカルな一着に「すごすぎて意味わからない」「涙が出ました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」