“よくできたゲーム”と“面白いゲーム”の違いとは?――マリオの父、宮本茂氏の設計哲学(前編)(3/5 ページ)

» 2010年02月10日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

『スーパーマリオブラザーズ』でファミコンが大ブレイク

宮本 それから何作か作って、それを「家庭でも遊びたい」ということでできたのがファミリーコンピュータ(ファミコン)です。ファミコンを売り出して、業務用で売っていた任天堂のゲームをファミコンに移植していく。それから、野球などのファミコン用の新しいゲームも作っていました。

 その後、ファミコンにディスクシステム(参照リンク)というものを付けることになります。(ファミコン用の)カートリッジのメモリが小さくて値段も高いので、ディスクの方がいいということです。

ファミリーコンピュータとディスクシステム(出典:任天堂)

 そうすると、「来年からディスクで作って、カートリッジでは作らないのか」と思って、「じゃあ、カートリッジの最後の記念に何か作ろう」と思って、作り始めたのが『スーパーマリオブラザーズ』(1985年)なんです。このころはまだ自分で絵を描いていて、クッパ(ボスキャラ)は新入社員に描いてもらったのですが、マリオは自分で描いていました。まあ、それで僕らはファミコンは卒業するつもりだったんです。

『スーパーマリオブラザーズ』

 でも、世の中分からないもので、それからファミコンが売れ始めました。それまでおもちゃ業界では、「年末に日本で100万個売る」というのが成功の1つの指標でした。ファミコンは『スーパーマリオブラザーズ』が出る前の3年間ほどで、毎年100万台以上を売っていましたからもう大成功している。マスコミは「そろそろファミコンは終焉か」と言っている時代です。僕らもそれに乗せられて、「ディスクシステムが出るので、そろそろファミコンは最後かな」と思っていました。

 そこで、『スーパーマリオブラザーズ』が出ると、今振り返ればそこから初めてファミコンがはやったということになります。それまではごく一部のおもちゃ好きの人が買っていた機械だったのですが、『スーパーマリオブラザーズ』が出て、初めて世の中全体がビデオゲームをするようになりました。『スペースインベーダー』以来、久しぶりにゲームをするようになった。

 このタイミングで日本では『ドラゴンクエスト』(現スクウェア・エニックスのエニックス、1986年)が発売されて、大ブレイクするわけです。ただこの時はまだ日本だけのブームなので、それから海外に出て行きました。

クリエイター30代限界説に挑戦

宮本 スーパーファミコンの『スーパーマリオワールド』(1990年)のころになると、1人で全部作るのは無理になっていて、「何本か同時に作らないとダメ」ということになってきたので、自分で“プロデューサー”と名乗るようになりました。会社の役職には部長、課長、係長しかなくて、ディレクターもプロデューサーもないので、名刺にそれを書いたら、「人事部的にこれは困ります」と怒られたりした時代があったのですが(笑)、プロデューサーとして大勢のディレクターに仕事をしてもらって全体の品質をまとめるようになりました。

『スーパーマリオワールド』

 糸井重里さんと『MOTHER』(1989年)を作ったり、『ふぁみこんむかし話 新・鬼ヶ島』(1987年)というアドベンチャーゲームを作ったりしているうちに40歳になりました。クリエイター30代限界説みたいなものがあったりして、40歳でプロデューサーをやっていると、「そろそろ現場はやばいかな」「自分で全部ものを考えてまとめるという根気がなくなってるんやないか」と思うようになります。

 (ディレクターをやっていなかった期間は)30年の中ではそれほど長くないのですが、僕の中ではものすごく長い時間でした。そこで、NINTENDO64(参照リンク)というハード用のゲームを作る時、「1回ディレクターに戻ろう」と思って、頑張ってディレクターをやりました。大変でした。昼間は会社のほかの作品のプロデュースの仕事をして、夜にはディレクターとして仕様書を書いて、朝にプログラマーの席の上に置いて帰るというのを続けました。

 ただ、できたんですね。これができたことで、すごく自分の中で自信になりました。41歳の時ですが「まだまだ現役でやれるやないか」と感じた思い出の仕事です。そこで作った『スーパーマリオ64』(1996年)が世界中のゲームデザイナーにインパクトを与えて、3Dアクションの基本になったと言われます。

『スーパーマリオ64』

 『スターフォックス64』(1997年)は僕は任天堂の中にいながらナムコ(現バンダイナムコゲームス)ファンで、「ナムコに行きたかったなあ。ナムコのデザインかっこいいよな。資料を使わしてくれるしなあ」と思いながら作った作品です。

 『ギャラクシアン』(ナムコ、1979年)のようなシューティングゲームは、本当は誰でも遊べるんですね。ところが、シューティングゲームがどんどん難しいものになっていったので、「誰でも遊べる3Dシューティングゲームを作ろう」ということで『スターフォックス64』を作りました。また、石原恒和(現株式会社ポケモン社長)さんと一緒に作った『ポケットモンスター』を3Dで動かそうということで、『ポケモンスタジアム』(1998年)を作りました。

 海外で一番任天堂の評価を上げたのが、『ゼルダの伝説 時のオカリナ』(1998年)だと思います。ここからどっと海外に出て行くのですが、任天堂の広報が僕をクリエイターとしてPRしてくれたりしました。海外ではそれまで、任天堂は米国や欧州の会社と思っている人が多かったんですね。ビデオゲームの代名詞として“nintendo”と言っていたりしていたのですが、「日本の会社だったのか」「日本人が作っているのか」とやっとみんなが気が付き出します。

『スターフォックス64』(左)、『ゼルダの伝説 時のオカリナ』(右)

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