メーカーはどこまでレビューに干渉できる? 誰も語らなかった「メーカーチェック」の表と裏とは日々是遊戯

ゲームの記事を載せる際、避けては通れないのが「メーカーチェック」。でもこれってホントに必要なの?

» 2011年10月05日 08時23分 公開
[池谷勇人,ITmedia]

メーカーチェックのメリット、デメリット

 メーカーチェックは是か非か――。去る10月1日に行われた、日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)による第4回研究会「メディアの変遷とゲーム会社の対応」の中で、そんな興味深いパネルディスカッションが開かれました。

画像 左奥から、山本直人氏(元ファミマガ編集長)、岡本基氏(エンタースフィア)、黒川文雄氏(NHN Japan)、熊谷一幸氏(グラスホッパー・マニファクチュア)、鴫原盛之氏(フリーライター)

 通常、メディアがゲームの記事を載せる場合、掲載前に一度、ゲームメーカーに内容をチェックしてもらうというのが一種の慣例となっています。しかし、メディアが紙からWebへと変わっていくなか、果たしてこのやり方は本当に正しいのか? フリーライター・コンテンツ文化史学会会員の鴫原盛之氏は、メーカーチェックに時間がかかることで、情報の速報性が失われてしまうという問題点を挙げています。

「Webメディアにとっては情報の早さが非常に重要。メーカーチェックに時間を取られているうちに、読者の興味が薄れてしまうということもままあります」(鴫原氏)

 また鴫原氏は、もうひとつの問題点として、ジャーナリズムの発展をメーカーチェックが阻害している側面もあると指摘します。

「以前ある雑誌の攻略記事で、何千回と繰り返しプレイして編みだした攻略パターンに、『この方法は推奨したくないから』という理由でNGを出されたことがあります。メーカーチェックが不要とは言わないが、攻略やレビュー記事までチェックするのはどうか。仮にレビュアーが開発者の想定していない解釈をしていたとしても、人によって感じ方が違うのは当たり前。手厳しい表現をすべて削ってしまったのでは、なぜそうなったのかを考え、伸びる機会を開発者から奪ってしまう。何よりコアなユーザーはちゃんと見抜いています」(鴫原氏)

 こうした慣習はいつごろ、どのようにして生まれたのか? パネリストの一人であり、元「ファミリーコンピュータマガジン」編集長の山本直人氏によると、「ファミマガ」の創刊当時にはそうした慣習はなかったそうです。

「任天堂はもともとアーケードゲーム出身で、一度発売されたゲームはお客さんのものなので自由にしていい、という考え方だった。個別にチェックを求められるようになったのは、PCゲーム系メーカーの参入が増えてから。また攻略本がブームになり、参入する出版社が一気に増えたことも、メーカーチェックが広がるようになった理由のひとつです」(山本氏)

 また山本氏は、ゲーム内容の複雑化もメーカーチェックが増えた一因だとしています。「今のゲームは内容が複雑で、メーカーからデータをもらわないと記事や公略本の作成が難しい。メーカーが協力している以上、記事をチェックするのは当然だし、メディア側もノーとは言えない」(山本氏)。

 一方で、メーカー側はこうした慣習についてどのように捉えているのか? 過去にはヒューマン、エレクトロニック・アーツなどで広報を務め、現在はグラスホッパー・マニファクチュアに在籍する熊谷一幸氏は、メーカーチェックについて次のように意見を述べています。

「間違った情報でユーザーを混乱させないためにも、やはりチェックはいただけた方がありがたい。難しいのはレビュー記事などの場合ですね。広報担当としては、そのまま載せるべきという思いと、それをクリエイターが見たときにどう感じるだろうか、という思いの板挟みに合うことがしばしばあります。こうした記事をどう捉えるかは人それぞれで、『しょうがないよね、次でがんばろう』で済む人もいますが、中には打たれ弱い人も当然いる。限られた戻し期間の中で、いかに両者の間を取り持つかというのも広報の難しいところです」(熊谷氏)

 こうして双方の意見を聞くと、メーカーチェックには良い面と悪い面の両方が混在していることが分かります。より正確な情報を掲載するためにはやはりチェックは必須でしょうし、かといって行きすぎたチェックは言論の自由を奪うことにもなりかねない。単純に不要か、必要かの二元論で語れないのもこの問題の難しいところですが、山本氏は以前に比べ、現在はメーカーがメディアの記事内容に干渉しすぎているのではとの懸念を示しています。

「昔はいい意味で垣根がなかったが、今は悪い意味で垣根がない。メーカーはアセット素材を渡して、メディアはそれを元に記事を書くだけ。攻略記事にしても、『ここはこう攻略してください』とか、プレイヤーの遊び方や、個人個人の意見にまで突っ込みを入れてくるようなことは昔はなかった」(山本氏)

 一方、立場こそ違うものの、これについてはパネリストの黒川文雄氏(セガ時代には敏腕広報として活躍。現在はNHN Japanに在籍)も山本氏と同じような意見を述べています。

「リリースをただ出しただけのような記事では読者の心は動かせないし、それではユーザーの個人サイトやブログに負けてしまうのは当たり前。彼らは商売でやっていない分、メディアが書かないようなスゴいことを書いてくる。リリース丸写しでは業界誌になってしまうし、それでは雑誌もゲームも売れるわけがない」(黒川氏)

 個人的には、メディア側の人間の一人として、やはり最後の山本氏、黒川氏の言葉が重く響きました。確かに、現在のゲーム紹介記事の多くは、メーカー側から提供されたリリース・素材をそのまま写したようなものが多く、どこを見ても内容的には似たり寄ったりです。かといって、書ける内容は厳しくチェックされており、リリース資料にないことまで書けばたちまちNGになってしまう。結局、より速くてより刺激的な記事(正確性はさておき)を求める読者は個人メディアへと流れていく、というジレンマは日々感じていました。

 もちろんメーカーチェック自体には良い面もあり、一概になくせばいいというものでもありません。パネルディスカッションの中でも明確な「どうすべき」という答えには至りませんでしたが、それでも公の場で問題提起をしたという点については評価されるべきでしょう。今回のファシリテーターを務めた鴫原氏によれば、DiGRAでは今後もゲームメディアをテーマにした研究会を計画中とのことです。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2404/25/news016.jpg 「電車の中で見ちゃダメ」「笑ったww」 実家からLINE「子ヤギがすばしっこくて捕まらない」→送られてきた衝撃姿が320万表示!
  2. /nl/articles/2404/23/news090.jpg 誰も教えてくれなかった“裁縫の裏ワザ”が目からウロコ 200万再生のライフハックに「画期的」と称賛【海外】
  3. /nl/articles/2404/21/news011.jpg 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  4. /nl/articles/2404/25/news043.jpg 娘の給食の献立表を見たら…… 正体不明の“謎の料理名”が「これはわからんw」と話題に その意外な正体に納得!
  5. /nl/articles/2404/25/news129.jpg プロ野球チップスでまた“不良品”流出 伊藤大海「176m」表記に続き…… カルビー謝罪「深くお詫び」
  6. /nl/articles/2404/24/news018.jpg 1年半ケージに引きこもっていたシャーシャー猫が、ある夜布団に入ってきて…… 感涙の行動に「まるで別猫」「こんな日が来るなんて」
  7. /nl/articles/2404/24/news017.jpg メルカリで300円の紙モノセットを買ってみたら…… 出品者のあたたかな心遣いに「利益は考えていないんでしょうね」「見ててわくわくします」
  8. /nl/articles/2404/23/news185.jpg 子どもに高級キーボードのパーツを捨てられた → 公式の“先読みしすぎた対応”が話題「そういうこともあろうかと」
  9. /nl/articles/2401/18/news015.jpg 巨大深海魚のぶっとい毒針に刺され5時間後、体がとんでもないことに…… 衝撃の経過報告に「死なないで」
  10. /nl/articles/2404/22/news124.jpg ダイソー「マルチ万能ほうき」が家事ラクの救世主 名前負け知らずの便利さに「これやばっ!!」「220円に驚き」の声
先週の総合アクセスTOP10
  1. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  2. 富山県警のX投稿に登場の女性白バイ隊員に過去一注目集まる「可愛い過ぎて、取締り情報が入ってこない」
  3. 2カ月赤ちゃん、おばあちゃんに少々強引な寝かしつけをされると…… コントのようなオチに「爆笑!」「可愛すぎて無事昇天」
  4. 異世界転生したローソン出現 ラスボスに挑む前のショップみたいで「合成かと思った」「日本にあるんだ」
  5. 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
  6. 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  7. 1歳赤ちゃん、寝る時間に現れないと思ったら…… 思わぬお仲間連れとご紹介が「めっちゃくちゃ可愛い」と220万再生
  8. 業務スーパーで買ったアサリに豆乳を与えて育てたら…… 数日後の摩訶不思議な変化に「面白い」「ちゃんと豆乳を食べてた?」
  9. 祖母から継いだ築80年の古家で「謎の箱」を発見→開けてみると…… 驚きの中身に「うわー!スゴッ」「かなり高価だと思いますよ!」
  10. 「ゆるキャン△」のイメージビジュアルそのまま? 工事の看板イラストが登場キャラにしか見えない 工事担当者「狙いました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」