「パックマン」「スペースインベーダー」の生みの親が明かす、ビデオゲーム黎明期の真実日々是遊戯

12月18日、19日に開催された日本デジタルゲーム学会の2010年次大会。初日の18日には、遠藤雅伸氏がモデレータを務める基調講演「日本ビデオゲームの黎明」が人気を集めました。

» 2010年12月21日 23時44分 公開
[池谷勇人,ITmedia]

なぜゲームには「ゲームオーバー」が生まれたのか?

今回のモデレーターを務めた遠藤雅伸氏。「ゼビウス」の生みの親としても有名

 デジタルゲームについての学術的研究を目的とし、2006年の設立以降様々な活動・研究を続けている「日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)」。その2010年次大会が去る12月18日、19日の2日間、江東区の芝浦工業大学芝浦キャンパスにて開催されました。

 数あるプログラムの中でもやはり注目を集めたのは、日本デジタルゲーム学会理事であり、「ゼビウス」の生みの親としても知られる遠藤雅伸氏がモデレータを務めた初日の基調講演。「日本ビデオゲームの黎明」と題した同講演では遠藤氏のほか、「パックマン」の岩谷徹氏、「スペースインベーダー」の西角友宏氏、「ギャラクシアン」の石村繁一氏も登壇し、ビデオゲームという市場・文化がどのようにして生まれ、定着していったかが語られました。

ご存じ「パックマン」の開発者であり、現在は東京工芸大学の教授を務める岩谷徹氏
「スペースインベーダー」の開発者としても知られる、ドリームスの西角友宏氏
バンダイナムコゲームスの石村繁一氏。「ギャラクシアン」などの作品に関わる

 講演の中で特に印象に残ったのが、今となっては貴重な、ビデオゲーム黎明期の話題。石村氏によれば、日本にビデオゲームが入ってきたばかりのころは、いわゆる「エレメカ」と呼ばれる機械式のゲーム機が主流で、まだ技術的にも未成熟だったビデオゲームは、演出でもゲーム性でもエレメカに及ばなかったとのこと。

 その一例として岩谷氏があげたのが、中村製作所(後のナムコ)の「F1」というエレメカ。これは幻灯機を使ったレースゲームの一種で、筐体内部で透明なコース&F1カーの模型が回転しており、それを電球で照らすことで、正面のスクリーンに3Dのコースを映しだすというもの。こう書くとややチープな印象を受けますが、実際に動いている映像が再生されると、会場からはその迫力・スピード感に「おおー!」という驚きの声があがったほどでした。「ビデオゲームがCGなら、エレメカは特撮のようなもの。ありものの技術で、どうすればそれらしく見せられるかを考えていた」と西谷氏は当時を振り返ります。

 また岩谷氏によれば、「F1」では模型と光源とをなるべく近づけて配置することで、なるべくプレイヤーの視点を低くするよう工夫したとのこと。これは視点が路面に近くなるほどスピード感が増すためで、こうしたノウハウは後の「ポールポジション」や「リッジレーサー」にも受け継がれているそうです。

「昭和30年ごろのナムコ(中村製作所)では、1回5円で遊べる子供用の木馬をデパートの屋上に置いたりしていた。これもある意味ではバーチャルリアリティですよね。子供の頭の中では、本物の馬に乗って遊んでいるイメージ。やっていることは現代のゲームと同じなんです」と岩谷氏。ビデオゲームの台頭によって今では下火になってしまったエレメカですが、当時は「エレメカに追いつく」というのがビデオゲームのひとつの目標であり、エレメカ開発によって培われた技術や発想は、現代の現代のゲームにもしっかりと息づいていることがわかります。

岩谷氏が紹介した「F1」。大型スクリーン+筐体という構成は現在のレースゲームに近い
実際にプレイしている様子。3Dのコースがものすごいスピードで流れていく
実は筐体内部に透明なミニチュアのコースがあり、それを電球でスクリーンに投影している

デパートのゲームコーナーなどに置かれた「木馬」。当時のJRの初乗りも5円だったとか
黒板を使って「スカイファイター」の構造を説明する西角氏
岩谷氏も「サブマリン」の構造を解説。どれだけアナログな技術で作られていたかがわかる

 一方、エレメカからビデオゲームへと時代が移り変わっていくにつれ、ゲームのスタイルも大きく変わっていきました。岩谷氏によれば、当時のエレメカは1プレイ30円が基本で、そもそも「100円玉を入れるという発想がなかった」のだそう。またゲームの腕前にかかわらず、一定時間プレイすると自動的にゲームが終了するものが多かったとのことです。

 これに対し、ビデオゲームは当時から1プレイ100円が主流。その結果、100円という料金でも納得してもらえるようにと、プレイ時間は長くなり、ゲーム展開もよりドラマチックなものへと進化していきます。プレイ時間については、制限時間を廃し、ゲームオーバーを設けることで、上手な人はより長くプレイできるよう変更。またゲーム展開についても、例えば中盤にボスを配置し、それを乗り越えるともっと長く遊べる――といった具合に、進み具合に応じて変化をつけるようになっていった。これは、言い換えればゲームに「物語」が生まれた瞬間と言ってもいいかもしれません。

 今となっては「ゲームオーバー」や「物語」のないゲームなど考えられませんが、これらの要素が生まれるきっかけが、「1プレイ100円」というビデオゲームの料金設定にあった――というのは興味深い発見でした。

初期のゲームはCPUを使わず、論理回路だけで構成されていたというから驚き
「ブロック崩し」の元になったという「クリーンスイープ」

 そのほか講演では、生みの親である西角氏から「スペースインベーダー」の開発秘話が明かされたり、当時のゲームセンターと、それをとりまく社会背景などについて議論が交わされたりといった場面も。当時のゲーム業界の中心人物たちならではの熱のこもった対談に、会場からはしばしば感嘆の声があがっていました。

 「スペースインベーダー」のヒットから今年で32年目。来場者の中には、実際にこうした「エレメカ」で遊んだことはないという人も多く、こうした黎明期のエピソードが、今となっては非常に貴重なものになりつつあるということを改めて感じさせられました。こうした「ゲームの歴史」をまとめて、後生に伝えていくのも日本デジタルゲーム学会の重要な役割と言えるかもしれません。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

先週の総合アクセスTOP10
  1. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  2. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  3. 安達祐実、成人した娘とのレアな2ショット披露 「ママには見えない!」「とても似ててびっくり」と驚きの声
  4. 兄が10歳下の妹に無償の愛を注ぎ続けて2年後…… ママも驚きの光景に「尊すぎてコメントが浮かばねぇ」「最高のにいに」
  5. “これが普通だと思っていた柴犬のお風呂の入れ方が特殊すぎた” 予想外の体勢に「今まで観てきた入浴法で1番かわいい」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評
  8. お花見でも大活躍する「2杯のドリンクを片手で持つ方法」 目からウロコの裏技に「えぇーーすごーーい」「やってみます!」
  9. 弟から出産祝いをもらったら…… 爆笑の悲劇に「めっちゃおもろ可愛いんだけどw」「笑いこらえるの無理でした」
  10. 3カ月の赤ちゃん、パパに“しーっ”とされた反応が「可愛いぁぁぁぁ」と200万再生 無邪気なお返事としぐさから幸せがあふれ出す
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」