4月から大学での講義もスタートする「シリアスゲーム」って知ってますか?ゲームとアカデミーの素敵なカンケイ(第3回)(1/4 ページ)

ゲームを学術的に捉えて研究を行うさまざまな人たちをフォーカスして、その内容や将来についてお話を伺う当連載。今回は「社会の諸領域の問題を解決するゲーム」について研究を行うシリアスゲームジャパンの藤本徹氏をフォーカス。

» 2009年03月04日 19時12分 公開
[松井悠,ITmedia]

 不定期連載となっている「ゲームとアカデミーの素敵なカンケイ」、今回は昨今日本でも話題になり始めている「シリアスゲーム」について活動を行っているシリアスゲームジャパン代表の藤本徹氏(以下、敬称略)にフォーカスを当てる。

 教育、eラーニングの観点からデジタルゲームをどのように活用するのか、09年4月から東京工芸大学 芸術学部 アニメーション学科 ゲームコースでスタートする「シリアスゲーム論」はどういった授業になるのかなど、「ゲームと教育」についてお話をうかがった。

 藤本氏は過去にも本誌で「CEDEC 2005リポート:“ゲームは有害だ”と言うだけでは社会的にも停滞感が生まれてしまう」などに登場していただいている。当記事を読む前に、そちらもご一読をオススメしたい。また、「平成19年度 シリアスゲームの現状調査報告書(財団法人デジタルコンテンツ協会)」においても、シリアスゲームについて詳述されているので、興味を持った方はそちらもどうぞ。

 なお、当インタビューは、2月19日に行われた日本イーラーニングコンソシアム主催「eラーニング・ニューテクノロジーセミナー」後に行われた。

プロフィール

藤本 徹

1973年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。教育関連企業などの勤務を経て、ペンシルバニア州立大学大学院博士課程に進む。教授システム学の観点から,デジタルゲームを利用した教育・学習の研究に従事。シリアスゲームジャパンの代表として日本でのシリアスゲーム普及に取り組む。著書に「シリアスゲーム 教育・社会に役立つデジタルゲーム」、訳書に「テレビゲーム教育論−ママ!ジャマしないでよ 勉強してるんだから(マーク・プレンスキー著)」がある。また、今年4月にシリアスゲーム三部作の最終刊となる訳書「デジタルゲーム学習−シリアスゲーム導入・実践ガイド(マーク・プレンスキー著)」が発刊予定。


社会の諸領域の問題を解決する「シリアスゲーム」

――  もうすでに、何度も何度も聞かれている質問で、答えるのも面倒かと思いますが、まずは最初に「シリアスゲームとは何か?」というところからお話下さいますでしょうか。

藤本 基本的な定義は先の講演にも出ていた「社会的な諸領域において、問題解決のために利用あるいは開発するデジタルゲーム」です。社会の諸領域とは、ヘルスケア、軍事関係、企業内教育、学校教育、あるいは公共政策といったものがあります。また、従来のボードゲームを利用した教育や、色々なビジネスゲームとかありますが、デジタルゲームに焦点を当てていることも一つのポイントです。

 また、シリアスゲームの領域について「どこからどこまでがシリアスゲームなのだ?」とよく訪ねられます。従来エンターテイメントとして利用されている「三國志シリーズ」や、「桃太郎電鉄シリーズ」などもシリアスゲームとして捉えるのかという議論もあります。ひとつの区切りとしてあるのは「利用する意図、開発する意図」です。

 意図として娯楽以外の用途で作られた、あるいは娯楽以外の用途として、教育の場で利用されるというところで、そういう利用者の側あるいは開発者の側が娯楽以外の気持ちを持って作っているかというところが、シリアスゲームかどうかという区切るひとつの考え方になります。

―― 藤本さんがシリアスゲームに携わるようになってから、すでに5年が経過しようとしていますが、どういった経緯でシリアスゲームの研究をはじめることになったのですか?

藤本 私は、もともと教育工学というか、インストラクションデザインやeラーニングのコンテンツを開発する側の研究をしていました。その分野の研究をするためにアメリカのペンシルバニア州立大学へ留学して2年ほどたったときに「ゲームを教育や社会的な目的で利用する」という取り組みを行っている人達が活動をしているのを知りました。それが「シリアスゲームイニシアチブ」と呼ばれている人達で、彼らは2004年のGDC(Game Developers Conference:開発者のみを対象とした世界最大のゲーム産業イベント)で「シリアスゲームサミット」を開催しました。その時に私も参加したのですが「じゃあ日本でもこういう活動を普及させていく取り組みがあってもいいよね、日本用のWebサイトを立ち上げて活動しようか」ということで、シリアスゲームイニシアチブプロデューサーのベン・ソーヤー氏と話をしてスタートしました。

―― 最初にシリアスゲームという概念に触れた時のファーストインプレッションはどのようなものでしたか?

藤本 私が最初にゲームについて「これは色々なことができるのではないか?」と思ったのがリアルタイムストラテジーの「Age of Empires II」を初めてプレイした時なんです。あれは非常に複雑なことを高速に同時処理していかなければならないゲームなのですが、ゲーム中に用意されているチュートリアルが段階的に簡単なことから徐々に複雑なことを学べるようにうまくデザインされています。そういうところで「こういう学習方法が従来のeラーニングとは違った形で取り入れられたら面白いだろうな」と思っていたのがペンシルバニア州立大学へ留学する前の話ですね。その頃はシリアスゲームというのは全然知りませんでした。

 その後、シリアスゲームのコミュニティで、すでにゲームを教育に利用するという取り組みをやっている人たちがいると知って、それで非常にワクワクして。「では一緒にやりましょう!」と。日本だとなかなかそういう仲間が見つからないのですが、アメリカでは、もうそういう人たちがいて、更に大規模な形で活動していることに非常に驚きました。

―― シリアスゲームジャパンを立ち上げたのが2004年の5月から、ということですが、その頃、日本の人にはシリアスゲームがどういう風に受け取られていたのでしょうか。

藤本 私が2004年のGDCで行われたシリアスゲームサミットに出席したときに……GDCは結構日本の開発者がいらっしゃるのですが、そのサミットの会場には全然日本人がいなくて、唯一日本から来たライターさんが「どんなものなのか、少し覗きに来てるんですよ」と言ってすぐに帰ってしまいました(笑)。

 日本で注目されるきっかけになったのは2004年の12月頃、東京大学の馬場章先生のグループがゲーム研究プロジェクトという、DiGRA(日本デジタルゲーム学会)の活動の前身となる研究会をやられていました。そこの月例研究会に呼んでいただいてIGDA(国際ゲーム開発者協会)日本の新清士代表と馬場先生がシリアスゲーム普及のきっかけを作っていった。そこから、だんだん日本でもゲーム情報系の雑誌とかWebサイトで取り上げていただくようになりました。

同日行われたセミナーの風景。シリアスゲームについて興味をもっている参加者からの質問が相次いだ
藤本氏が研究を行う「デジタルネイティブ」についての一こま。教育界からの参加者が多く見受けられた
       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/21/news027.jpg 大きくなったらかっこいいシェパードになると思っていたら…… 予想を上回るビフォーアフターに大反響!→さらに1年半後の今は? 飼い主に聞いた
  2. /nl/articles/2411/20/news049.jpg 高校生の時に出会った2人→つらい闘病生活を経て、10年後…… 山あり谷ありを乗り越えた“現在の姿”が話題
  3. /nl/articles/2411/20/news222.jpg ディズニーシーのお菓子が「異様に美味しい」→実は……“驚愕の事実”に9.6万いいね 「納得した」「これはガチ」
  4. /nl/articles/2411/20/news027.jpg 「こんなことが出来るのか」ハードオフの中古電子辞書Linux化 → “阿部寛のホームページ”にアクセス その表示速度は……「電子辞書にLinuxはロマンある」
  5. /nl/articles/2411/20/news054.jpg 「防音室を買ったVTuberの末路」 本格的な防音室を導入したら居住空間がとんでもないことになった新人VTuberにその後を聞いた
  6. /nl/articles/2411/20/news050.jpg プロが教える「PCをオフにする時はシャットダウンとスリープ、どっちがいいの?」 理想の選択肢は意外にも…… 「有益な情報ありがとう」「感動しました
  7. /nl/articles/2411/21/news083.jpg 間寛平、33年間乗り続ける“希少な国産愛車”を披露 大の車好きで「スカイラインGT-R R34」も所有
  8. /nl/articles/2411/21/news085.jpg 「もしかしてネタバレ?」 “timeleszオーディション”候補者がテレビ局を退社 ディズニーの“船長”としても話題
  9. /nl/articles/2411/18/news107.jpg 走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
  10. /nl/articles/2411/21/news018.jpg グルーミングが出来ない生まれたての子猫、とんでもない体勢になり…… 想像以上のへたくそっぷりに「どこにも届いてないww」「反則級」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた