いかに戦ったのか――「米長邦雄永世棋聖 vs. ボンクラーズ プロ棋士対コンピューター 将棋電王戦」を振り返る:人間の徹底研究対自然体のコンピューター(2/2 ページ)
一瞬のミスを突いたボンクラーズが逆転に成功
「米長先生が厚みを生かし持久戦で勝ちきるか!」、そんな空気が控室に流れた午後3時30分ごろ、激しい局面へ突入することになる。米長永世棋聖が自身の優勢をさらに拡げるために動いた際、80手目の時点(ボンクラーズの6六歩に対して同歩と取った手)で読みの錯覚があり、その後手が進めばほぼ試合終了と考えていたという。
しかし、実際にはボンクラーズには7七桂→7五歩→6五桂のように桂馬を活用することで7筋を狙う好手があった。「ボンクラーズに7五歩と来られると、これは厳しいです」(船江四段)といった声が控室で出るなか、ボンクラーズはその予想通り89手目に7五歩を着手。そのとき、ボンクラーズの評価関数は一気に400まで急上昇する。
その後は一方的な展開となり、ボンクラーズの113手目を見て米長永世棋聖が投了。一昨年10月に行われた清水市代女流王将対あから戦に続き、人間側が敗れる結果となった。
今回の米長永世棋聖の敗北、そして対局内容をもって「コンピューター将棋がプロ棋士レベルに達した」といえるどうかは、(いまだ将棋のなんたるかを知らない)私には到底分からない。しかし、対局後のニコニコ生放送で渡辺明竜王が語ったコメントが、現状をプロ棋士がどう考えているかについて参考になるだろう。
「来年、いよいよ現役棋士が出てくるわけですから、プロとしてはいいわけがきかなくなりますね。普段の対局と同じように作戦などは高いレベルで研究をしていくことになりますが、人間とソフトではかなり違いますので、事前準備にかなり時間は必要になるでしょう。(今、コンピューターと対局したらどうなるか、という質問に対し)ボナンザのときほど楽観はできないですね。普段の大きな将棋を指すのと同じつもりでやってそれでどうか、というところでしょう」(渡辺明竜王)
次回電王戦は5対5の一斉対局に。ドワンゴが主催に名乗りを上げる
また、今回の対局は、米長会長のプロデューサー能力が高いことを改めて証明したイベントでもあった。日本将棋連盟として、中央公論新社やドワンゴと全面的にタッグを組み、ニコニコ生放送で多数の将棋番組を配信。「将棋といえばニコ生」というイメージを定着させた上で、コンピューター対人間の対局相手に自らを指名したうえで事前番組にも自ら登場し、サービス精神をフルに発揮して棋戦を盛り上げてきた。
その結果、生中継中にニコニコ生放送を視聴したユーザーだけで34万人に上り、過去の将棋番組としては最高のアクセス数を記録。ドワンゴによると「熱烈なファンを持つアニメ番組を除けば、今回の電王戦はトップクラスアクセス数です」(広報部)とのことで、イベントとしては大成功といえる。
さらに、この日の対局後には、来年の「第2回電王戦」では現役棋士とコンピューターが5対5で一斉対局を行い、主催社としてドワンゴがすでに名乗りを上げたことも発表された。
ドワンゴの川上会長は、記者会見で今回の主催を決めた理由として「もちろん(今回の反響は)大きいですが、それだけでなく今後将棋を大いに盛り上げていきたいということで主催を決めた」と語っており、今回の成功が少なからず決定に影響したことを認めている。記者会見で自らの敗戦については悔しさをにじませていた米長会長だが、イベントの成功のみならず次回の対局実現へつなげる結果となり、会長として、プロデューサーとして多いに実力を発揮したといえるだろう。
なお、次回のコンピューター対人間の対局「電王戦」については、今後関係者で協議のうえで詳細を含めて発表される予定とのことである。果たして、次に米長会長が繰り出す一手はどのようなものか、人間と現役棋士がどのような戦いを繰り広げるのか、まだまだ対コンピューター戦についての興味は尽きない。
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