いかに戦ったのか――「米長邦雄永世棋聖 vs. ボンクラーズ プロ棋士対コンピューター 将棋電王戦」を振り返る人間の徹底研究対自然体のコンピューター(2/2 ページ)

» 2012年01月17日 16時48分 公開
[戸村賢一,ITmedia]
前のページへ 1|2       

一瞬のミスを突いたボンクラーズが逆転に成功

 「米長先生が厚みを生かし持久戦で勝ちきるか!」、そんな空気が控室に流れた午後3時30分ごろ、激しい局面へ突入することになる。米長永世棋聖が自身の優勢をさらに拡げるために動いた際、80手目の時点(ボンクラーズの6六歩に対して同歩と取った手)で読みの錯覚があり、その後手が進めばほぼ試合終了と考えていたという。

 しかし、実際にはボンクラーズには7七桂→7五歩→6五桂のように桂馬を活用することで7筋を狙う好手があった。「ボンクラーズに7五歩と来られると、これは厳しいです」(船江四段)といった声が控室で出るなか、ボンクラーズはその予想通り89手目に7五歩を着手。そのとき、ボンクラーズの評価関数は一気に400まで急上昇する。

 その後は一方的な展開となり、ボンクラーズの113手目を見て米長永世棋聖が投了。一昨年10月に行われた清水市代女流王将対あから戦に続き、人間側が敗れる結果となった。

 今回の米長永世棋聖の敗北、そして対局内容をもって「コンピューター将棋がプロ棋士レベルに達した」といえるどうかは、(いまだ将棋のなんたるかを知らない)私には到底分からない。しかし、対局後のニコニコ生放送で渡辺明竜王が語ったコメントが、現状をプロ棋士がどう考えているかについて参考になるだろう。

「来年、いよいよ現役棋士が出てくるわけですから、プロとしてはいいわけがきかなくなりますね。普段の対局と同じように作戦などは高いレベルで研究をしていくことになりますが、人間とソフトではかなり違いますので、事前準備にかなり時間は必要になるでしょう。(今、コンピューターと対局したらどうなるか、という質問に対し)ボナンザのときほど楽観はできないですね。普段の大きな将棋を指すのと同じつもりでやってそれでどうか、というところでしょう」(渡辺明竜王)


対局室の近くに設けられた控室では、プロ棋士のほか記者、コンピューター将棋関係者が集まり検討が続けられていた
来年の「電王戦」での対局が決まっている船江恒平四段と将棋好きで知られる活弁士・山崎バニラ氏も控室に。ニコニコ生放送の中継を見ながら局面の検討を行っている
終局後、米長永世棋聖は中村五段を相手に感想戦を行った

原宿のニコニコ本社で開催された大判解説会には多数の観客が訪れ、渡辺明竜王と矢内理絵子女流四段による解説に耳を傾けていた

次回電王戦は5対5の一斉対局に。ドワンゴが主催に名乗りを上げる

 また、今回の対局は、米長会長のプロデューサー能力が高いことを改めて証明したイベントでもあった。日本将棋連盟として、中央公論新社やドワンゴと全面的にタッグを組み、ニコニコ生放送で多数の将棋番組を配信。「将棋といえばニコ生」というイメージを定着させた上で、コンピューター対人間の対局相手に自らを指名したうえで事前番組にも自ら登場し、サービス精神をフルに発揮して棋戦を盛り上げてきた。

 その結果、生中継中にニコニコ生放送を視聴したユーザーだけで34万人に上り、過去の将棋番組としては最高のアクセス数を記録。ドワンゴによると「熱烈なファンを持つアニメ番組を除けば、今回の電王戦はトップクラスアクセス数です」(広報部)とのことで、イベントとしては大成功といえる。

 さらに、この日の対局後には、来年の「第2回電王戦」では現役棋士とコンピューターが5対5で一斉対局を行い、主催社としてドワンゴがすでに名乗りを上げたことも発表された。

 ドワンゴの川上会長は、記者会見で今回の主催を決めた理由として「もちろん(今回の反響は)大きいですが、それだけでなく今後将棋を大いに盛り上げていきたいということで主催を決めた」と語っており、今回の成功が少なからず決定に影響したことを認めている。記者会見で自らの敗戦については悔しさをにじませていた米長会長だが、イベントの成功のみならず次回の対局実現へつなげる結果となり、会長として、プロデューサーとして多いに実力を発揮したといえるだろう。

 なお、次回のコンピューター対人間の対局「電王戦」については、今後関係者で協議のうえで詳細を含めて発表される予定とのことである。果たして、次に米長会長が繰り出す一手はどのようなものか、人間と現役棋士がどのような戦いを繰り広げるのか、まだまだ対コンピューター戦についての興味は尽きない。


対局後の記者会見に臨む米長会長。敗れた悔しさをにじませながらも、プロ棋士らしく冷静かつ淡々と対局を振り返っていた
原宿で大盤解説を行った渡辺明竜王も記者会見に参加。「次回対局するとしたら」との質問に対しては、まだ私の出番ではないという、棋界の一人者らしい回答をしていた
この日、対局開始から終了まで会場に詰めていたドワンゴの川上会長。記者会見では、ドワンゴが次回「電王戦」主催社となることも発表された

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/21/news027.jpg 大きくなったらかっこいいシェパードになると思っていたら…… 予想を上回るビフォーアフターに大反響!→さらに1年半後の今は? 飼い主に聞いた
  2. /nl/articles/2411/20/news049.jpg 高校生の時に出会った2人→つらい闘病生活を経て、10年後…… 山あり谷ありを乗り越えた“現在の姿”が話題
  3. /nl/articles/2411/20/news222.jpg ディズニーシーのお菓子が「異様に美味しい」→実は……“驚愕の事実”に9.6万いいね 「納得した」「これはガチ」
  4. /nl/articles/2411/20/news027.jpg 「こんなことが出来るのか」ハードオフの中古電子辞書Linux化 → “阿部寛のホームページ”にアクセス その表示速度は……「電子辞書にLinuxはロマンある」
  5. /nl/articles/2411/20/news050.jpg プロが教える「PCをオフにする時はシャットダウンとスリープ、どっちがいいの?」 理想の選択肢は意外にも…… 「有益な情報ありがとう」「感動しました
  6. /nl/articles/2411/20/news054.jpg 「防音室を買ったVTuberの末路」 本格的な防音室を導入したら居住空間がとんでもないことになった新人VTuberにその後を聞いた
  7. /nl/articles/2411/21/news083.jpg 間寛平、33年間乗り続ける“希少な国産愛車”を披露 大の車好きで「スカイラインGT-R R34」も所有
  8. /nl/articles/2411/21/news085.jpg 「もしかしてネタバレ?」 “timeleszオーディション”候補者がテレビ局を退社 ディズニーの“船長”としても話題
  9. /nl/articles/2411/18/news107.jpg 走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
  10. /nl/articles/2411/21/news018.jpg グルーミングが出来ない生まれたての子猫、とんでもない体勢になり…… 想像以上のへたくそっぷりに「どこにも届いてないww」「反則級」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた