あなたにも参入可能!? サイドビジネスで始めるキャラクタービジネス 起業編大日本技研に聞く(3/5 ページ)

» 2012年10月25日 10時04分 公開
[種子島健吉,ITmedia]

「TRIGUN」の拳銃が売り上げ2430万円の大ヒット!

―― いわばアイディア製品の「ゴング」が売れたことで、大日本技研のカラーができたわけですね。

田中氏 そうなんです。それで、1/1スケールの射撃可能なガレージキット銃という、ほかでは作っていない独自のものを作っていたおかげで、マンガ「TRIGUN」のファンのかたから「これをぜひ作ってほしい!」とメールをいただきました。同時に原作者の内藤泰弘先生に大日本技研のことを紹介してくれたのですが、それがきっかけで、主人公が持つ拳銃のアニメ版を立体化した「ヴァッシュの銃」を制作することになったんです。これは内藤先生のホームページで紹介していただいたことで、1000丁以上売れました。当時、キットのフレームに1丁ずつ違うシリアルナンバーを刻印するという、内職仕事のように手間のかかる、同業者から「バカなことをやってるねえ」といわれてしまうようなことをしていたんですが、最終的にナンバーは1350になりました。1丁1万8000円のキットでしたから、この1機種だけで2430万円が動いたことになります。

画像 アニメ版「TRIGUN」の「ヴァッシュの銃」。原作者、内藤泰弘先生のホームページで紹介されたことで、販売が1000丁を越えるという、大日本技研はじまって以来の大ヒットとなった

模型好きとは違う新たな顧客層

 銃というと男性向けホビーというイメージですが、ただの実銃ではなくアニメやマンガに登場する銃の場合、女性顧客もけっこういるんです。これはコスプレ需要とキャラ人気からきているのですが、コスプレの小物としてちょっと似ているモデルガンを持つのではなく、作中のものに少しでも近い「本物」を持ちたいという完璧志向であったり、好きなキャラに関するものだったらなんでもコレクションしたいというのが購入動機になるんです。このあたり、模型の世界も多様化してきていると感じます。近年、しきりと発売されている塗装済み完成品フィギュアを好んで購入する層は、明らかにプラモデルが好きな少年とはまた違った顧客層ですよね。組み立てるのが楽しいのではなく、好きなキャラクターやキャラクターにまつわるグッズの立体物に囲まれていたいということでしょう。

 コスプレに話を戻すと、コスプレイヤーのみなさんはイベントなどで情報交換していますから、誰かが1丁持っていると「その銃すごいですね。どこで買えるんですか?」とすぐに口コミで広がるんです。ただし、女性はまずガレージキットを組み立てることはできませんから、イベントなどでそういった銃を持っている男性をみつけて製作依頼することが多い。どういうふうに交渉しているのかまでは知らないのですが、相手がかわいい女の子だとついつい引き受けてしまうんでしょうね。あるイベントに助っ人に来てもらってコスプレで販促してもらっていた男の子が、製作を頼まれたといって5つぐらい組み立て前のキットの箱を積んでいたことがありますよ(笑)。

 ガレージキットを制作、販売していていちばんうれしい瞬間は、やはりちゃんと作ってもらえたときです。その点、コスプレイヤーのみなさんは、イベントでコスプレしつつ組み立てた銃を見せに来てくれることが多いのがうれしいです。やはりキャラクターに愛着があると銃にも愛着があるし、コスプレで使うというはっきりとした目的、必要性があるからでしょう。ガンマニア、模型好きになるとこれが買いすぎて積んでしまって、「10年ぶりに作ろうと思って箱を開けたらパーツが曲がっていました」という笑い話みたいなこともありますし、1998年に買って作りはじめたが完成したのは2012年という、世紀をまたいだ製作報告を受けたこともありますから、なるべく早めに組み立ててもらいたいものです。ただし、そういった「積んででも買う」という模型好きの人が買い控えてしまったら、製品が売れなくなってしまうということですから、それはそれで困るという複雑な心境ではあります。

デジタル化で新たなステージへ

―― コスプレイヤーのみなさんのこだわり、キャラクター愛には計り知れないものがありますよね。しかし、20個販売半分売れ残りという状況から、4桁の売上とは大躍進ですね! いったい、どんなお気持ちでしたか?

田中氏 私の中の造形職人の部分は、ただただ買ってくれたお客様への感謝だったのですが、プロデューサー的な部分は「キャラクタービジネスって、当てたらデカイもんだなあ」と思っていました。ガレージキットは自分で組み立てなければならず、塗装の必要もありますから、それでも良いという「TRIGUN」ファンのごくごく一部のかたが買ってくれただけのはずですが、この売り上げでしたから。

―― なるほど、作り手としては感謝感激しつつも、経営者としては冷静に計算している部分もあったということでしょうか。そのお金がどうなったか、ちょっと気になりますが。

田中氏 おかげさまで、その資金でCADソフトとローランドのMODELA(3D入出力装置)を導入することができ、技研のデジタル化がいっきに進みました。いま制作中の「PDFクラフト スコープドッグ1/1」もCADがなければ制作不可能です。原型制作もMODELA導入以前は、手書きの図からプラバンに写してカッティングしてそれを地層のように重ねて試作パーツを作っていたのですが、明らかにスピードアップしてより精巧なものを作ることができるようになりました。

デジタル化でより早く、より正確に

―― 木を削って試作品を作ることはないのでしょうか? ものによってはそのほうが早い気もするのですが。

田中氏 木材などの部材から削り出しのみで水平な面を作るというのは、かなりの熟練が必要とされる作業です。もし、「幅、深さそれぞれ1ミリメートルの溝を彫刻刀で掘ってください」といわれたらヨレヨレな溝になったり、底面が波打ってしまいませんか? プラ板の重ね貼りなら、1ミリメートル厚のプラ板を、1ミリずらして接着するだけで、正確な溝を作ることができます。作業としては回りくどいかもしれませんが、削り出した後の修正作業を考えると、プラ板を貼り合わせたほうが時間短縮になります。急がば回れですね。

 正確さという部分のほかにも、3Dデータ化の恩恵があります。それは、大きさを自在に変更できるというものです。当初予定していた大きさで実際に試作してみたら、意外に大きくなってしまって取り回しが悪いといったときに、そのまま全体を80%の大きさにするということが容易です。さらに左右対称のものを作ることもできます。造形したことがある人ならば心当たりがあると思うのですが、左右対称まったく同じものというのは意外に難しいのです。

 MODELA導入以前に左右対称のパーツを作るときは片側を製作し、等間隔で碁盤目状に線を描いてからそれを基準に、なるべく同じものを製作していました。これが、片側を作った後、MODELAで3Dデータ化しデータを反転させるだけで対応できるようになったため、より早くより正確なものができるようになりました。

画像 ローランドの3D入出力装置「MODELA MDX-40」。大日本技研ではもはや必需品で、欠かすことができない道具のひとつだそうだ。奥は排気ダクト完備の塗装用ブース

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