毎日違うおふくろの味! 働くのは65歳以上だけの「おばあちゃんの定食屋」に行ってきた
「おかえりなさい」と出迎えてくれるのは、全員65歳以上のおばあちゃん。池袋で大盛況の「おばあちゃんの定食屋」とは。
味が濃く高カロリーな外食、添加物の多いコンビニ弁当、レンジでチンする味気ない冷凍食品……なにかと不健康な食生活を送りがちな昨今。それらの味に慣れてしまっても、ときに「おふくろの味」が懐かしくなることはないだろうか。そんな一般的な家庭のごはんを、65歳以上のおばあちゃんたちが作ってくれる定食屋があると聞いて訪れてみた。
交代で「料理長」を担当 得意なおかずを披露する
今年3月上旬、東京・池袋にオープンした「おばあちゃんの定食屋」。午前11時の開店直後に店へ入ると、おばあちゃんたちが「おかえりなさ〜い」と温かく迎えてくれた。何、この感じ。田舎のおばあちゃんの家に帰ってきた感覚じゃないか。しばらく帰ってないだけに、うれし懐かし感に浸ってしまうよ……。
この店で働くのは全員が65歳以上のおばあちゃん。現在13人のおばあちゃんが“在籍”し、ランチ時には4人で店を切り盛りする。主菜を担当する「料理長」のおばあちゃんを筆頭に、1人が補佐役、2人がホールを担当。その日の主役的存在ともいえる料理長は交代制となっていて、1週間ほど前に自分の作るメニューを確定させる。作るおばあちゃんによって、味が異なっているのはこのためだ。
11時を少し過ぎると、まだランチには早い時間にもかかわらず、客が数分おきに入ってくる。6席のカウンターと14席のテーブル席はすぐにいっぱいになりそう。運営を手伝うフードプランナー和は「お客様の年齢や性別はさまざまですね。日々メニューが違うので、毎日来られる方もいますよ。『今日の魚は俺には合わなかった』などとハッキリ言って帰る方も」と笑う。
おばあちゃんの一挙手一投足に癒される
気になるのは「65歳以上のおばあちゃん限定」のお店を作った理由だ。栄養の偏りがちな外食で食事を済ませることが多く、「おいしいけれど不健康な食生活」だと感じていた運営元のOBAの社長。同じお金を払って外食するなら、本当に温かい料理を食べたい――そんな思いで、地元のお母さんやおばあちゃんを重ねられるような定食屋を開いたという。
現在の65歳はシャキシャキしていて元気で、現役として動ける人が多いことも、65歳以上を雇用した要因だ。長年の間に培った、家庭料理の確かな腕を店で披露して、客から「おいしかった」と言われることで、おばあちゃん自身の活力にもつながる。働いているおばあちゃんも「昔から料理が好きなのでここで働くことにした。若い人と話せるのも楽しい」と笑顔だ。
一方、店を訪れる客は「『いらっしゃいませ』ではなく『おかえりなさい』と『行ってらっしゃい』と言われるのがうれしい」「おばあちゃんが一生懸命働いているのが、かわいらしくて微笑ましい」「毎日来ても飽きないおいしさ」と話す。よそのおばあちゃんの存在がこれほど自分の心を癒してくれるなんて、私も想像していなかったが、都会のオアシスのような空間であることは間違いない。
おばあちゃんの知恵満載! 懐かしい味わいにほろり
さて、そろそろこのあたりで、皆も気になっているであろう「本日の日替わり定食」(780円)をいただくことにしよう。この日の料理長は、みつよおばあちゃん。主菜は「サバの味噌煮」、副菜に「じゃがいものピリ辛シャキシャキ甘酢きんぴら」、小鉢は「ほうれん草の胡麻コーン和え」、汁物は「にゅうめん」、香の物は自家製の「きゅうり、にんじん、かぶのぬか漬け」が出された。
まずはにゅうめんをいただいたところ、やさしい味わいが口の中に広がる。それでいて、お出汁はしっかりした、おいしい汁。硬すぎず柔らかすぎないそうめんも、ちゅるちゅるした舌触りで、汁の味がしみていて素晴らしい。ごはんと、メニューによっては汁物もお代わり自由だそうで、私もおいしさのあまり、後からついお代わりしてしまった。
次に箸をつけたサバは、絶妙な甘辛具合に思わず舌鼓を打ってしまう。みつよおばあちゃんに聞いてみると、味噌を2種類使って、水:酒:みりんを1:1:1で入れているのだとか。「強火にすると魚の身がキュッと縮んじゃうから、ずっと弱火で煮るのよ」と、おばあちゃんの知恵も教わることができた。
シャキッとしたきんぴらも、甘い胡麻コーン和えも、漬物も、料理上手なおばあちゃんの家でいただく日常的な食事を思い出させるものだった。これで780円なんてステキすぎる。ほかの日のメニューも気になってくる、実に上手い仕掛けだと思う。現在は1日75食限定のランチ営業のみで、完売すると閉店となってしまうため、ピークの正午〜午後1時を避けて早めに行くことをおすすめする。
4月8日からはごはんと味噌汁、漬物、高菜、海苔、日替わり小鉢で400円前後の朝定食(オプションで納豆や玉子なども付けられる)、お酒もある夜定食が始まる。朝昼晩の1日体制での営業がスタートするということで、こちらも話題を集めそうだ。なお、今回シャイな方が多く、正面からの写真は遠慮されてしまったが、温かい笑顔で迎えてくれるおばあちゃんたちに会いに、またおいしくて懐かしい味をいただきに、店を訪れてみてはいかが?
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