ゲームの素朴なギモン:なぜ、ジャンプの操作にはジャンプボタンを使うのか?
なんか理由あるの?
左手で移動、右手でジャンプが古来からのゲームのお作法!?
ゲームのコントローラは左手側に方向キーやレバーが、右手側には各種ボタンが配置されているのが昔からのお約束。「スーパーマリオブラザーズ」シリーズのようなアクションゲームにおいては、主人公にジャンプさせるときは多くの場合ジャンプ専用に割り当てられた右手側のボタンを押すようにデザインされています。
と、ここで素朴なギモン。ジャンプ、すなわち上方向へ移動をするときには、なぜ方向キーの上側ではなくボタンでの入力にするのでしょうか? 上に動くのであれば、方向キーを上に入力して操作するほうが自然な気もするのですが、いったいこれはなぜなのでしょうか?



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仮説1:ハシゴの存在がジャンプとボタンの架け橋になった
ジャンプのテクニックを要求されるアクションゲームとしては、任天堂が1981年に発売したアーケードゲームの「ドンキーコング」がもっとも古い部類に入るでしょう。本作は4方向レバーとボタン1個を使用して主人公のマリオを操作し、タルや火の玉などの障害物が接近してきたときはジャンプで跳び越えるかハシゴを昇ってかわさなくはいけません。障害物を避けるときにジャンプをする場合はボタンを押し、ハシゴを昇る場合にはハシゴに重なった状態でレバーの上を入力することが必要です。
もし仮にハシゴの移動がレバーではなく、ボタン入力になっていたとしたらどうでしょうか? ジャンプボタンとハシゴのボタンが2個並んでいると、プレイヤーが慌ててタルを跳び越えようと思ったときに間違えてハシゴ用ボタンを押してミスをする可能性が生じてしまうでしょう。しかし、ハシゴ移動がレバー操作になっていればその心配はありませんし、万が一プレイヤーがミスをしても「あ、今はジャンプのタイミングが悪かったからやられたんだな。」と瞬時に納得できるハズです。
また、ハシゴ移動もジャンプもレバーの上方向で行う仕組みになっていた場合はどうでしょうか。左右に移動しながら、タルが転がってきたタイミングでその都度レバーを上側に切り返すようになると左手が四六時中とても忙しくなり、逆に右手は何もすることがないので何だか落ち着かない気がしませんか? さらにハシゴと重なった地点で上に入力をしたときは、ジャンプをするのかそれともハシゴにつかまるのか、どちらのアクションになるのかが分かりにくいのでプレイヤーは困ってしまいます。
よって、ジャンプのアクションはボタンに割り当てたほうがスムーズかつ快適に操作できることになります。そして、その後押しをしたキーマン的存在は人間のキャラクターではなく実はハシゴだったというワケですね。
仮説2:アクションアドベンチャーゲームの普及による影響
マップを上から俯瞰(ふかん)した画面構成になっているアクション、あるいはアクションアドベンチャーゲームにおいても、主人公のキャラクターにジャンプをさせるときはボタンで行うのが普通です。もしジャンプの操作が方向キーの上になっていたとしたら、プレイヤーは上方向に移動する場合はどうすればいいのかが瞬時にイメージできません。ジャンプが方向キーの上で、上方向への移動は上移動専用のボタンで操作するなどという操作デザインになっていたら、その不自然さのあまり頭が混乱しそうですね(笑)。
よって、ゲームの開発スタッフは必然的に上への移動は方向キー、ジャンプはボタンでというデザインをすることになり、またプレイヤー側も類似ジャンルのゲームを繰り返し遊んでいるうちに、「ボタンはジャンプでするものだ。」という一種の文法が自然と定着して現在に至っているのでは、と思われます。


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考察:ジャンプの操作が上入力のゲームには驚くべきヒミツが!?
では、方向キーやレバーの上方向でジャンプをするゲームは昔から全然存在しなかったかというと、けっしてそんなことはありません。
以下のプレイ動画に収録した「ドラゴンバスター」「ソロモンの鍵」「大乱闘スマッシュブラザーズX」がその一例で、いずれもレバーまたは方向キーを上に入力するとキャラクターがジャンプする操作デザインになっています。
と、ここでひとつの興味深い事実があります。冒頭でご紹介した「ドンキーコング」や「スペランカー」は主人公が高い所から落ちると即ミスとなるのに対して、これらのゲームはいずれも高い所から飛び降りただけではミスにならないということです。
動画に収録した3作品は、ジャンプよりもボタンをタイミングよく押したり連打することで敵を倒したり、先へ進むための道を切り開くことでプレイヤーが快感を覚えるゲームです。よって、ジャンプを方向キーに割り当てることで右手は攻撃による爽快感を得るアクションに専念することが可能となり、同時に使用するボタンの数を少なくして操作をよりシンプルでわかりやすくする狙いがあると言えそうです。
逆に「ドンキーコング」や「スペランカー」は、ジャンプのタイミングをひとつ間違えただけでミスとなるスリリングな場面が出てくるところにゲームの面白さがあります。なお、「魔界村」の主人公は高い所から落ちただけでは死にませんが、画面外に落下すると即ミスになるシーンがたびたび登場しますので、やはりジャンプという行為には高いリスクがともなうゲームになっているので、ジャンプはボタンで操作するようになっているのでしょう。
ちなみに、皇學館大学教授の小孫康平氏の著書「ビデオゲームに関する心理学的研究」(風間書房)によると、プレイヤーは下に落ちそうになると無意識にジャンプボタンよりも先に上を押したり、ジャンプ中に土管を跳び越えられそうにないと思ったときにも同様に上を入力したりボタンと上方向を同時に押す人が多かったという実験結果が得られたのだそうです。ジャンプという単純な動作の中にも、いざ調べてみると実はとても奥の深い世界がそこにはあったのですね……。
また、ゲームにおけるUI(ユーザーインターフェース)デザインの考え方については、筆者も執筆の協力をさせていただいた「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)にも詳しく載っていますので、もしご興味のある方はぜひこれらの本をお読みになってはいかがでしょうか?
著者プロフィール
鴫原 盛之 Morihiro Shigihara
1993年よりゲーム雑誌および攻略本などでライター活動を開始。その後、某メーカーでのグッズ・店舗開発や携帯コンテンツの営業、ゲームセンター店長などの職を経て、2004年よりフリーに。現在は各種雑誌やWebサイトでの執筆をはじめ、某アーケードゲームの開発なども手掛ける。著書は「ファミダス ファミコン裏技編」(マイクロマガジン社)、「ゲーム職人第1集 だから日本のゲームは面白い」(同)の他、共著によるゲーム攻略本・関連書籍を多数執筆。近刊は共著「デジタルゲームの教科書 知っておくべきゲーム業界最新トレンド」(ソフトバンククリエイティブ)がある。
Twitterは「@m_shigihara」です。
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