「実は俺ってゲームがうまくね?」 プレイヤーの学習能力をさり気なく引き出す巧妙な仕掛け

なに? すべて開発者の手のひらで踊っていたとでもいうのか!? 経験値がゲームを面白くする。

» 2012年06月29日 10時50分 公開
[鴫原盛之,ITmedia]
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 アクションあるいはアドベンチャーゲームなどにおいて、作品中に隠された謎を初めて解き明かしたときの快感は格別です。特に、ゲーム中に一切ヒントが表示されない隠しフィーチャーを発見したときには、例えそれが偶然であっても「おお、実は俺ってゲームがうまいかも?」とプレイヤーは極上の快感にひたることができます。

 有名タイトルから例を挙げますと、「スーパーマリオブラザーズ」シリーズでは一見何もなさそうな所にコインボックスが隠されている場所がいくつもあります。その存在はマニュアルにも明記されていませんので、最初に発見するときは超能力者でもない限りは偶然に頼らざるをえません。

 以下の写真は、取ると主人公マリオのストックが1人増える1UPキノコをワールド2-1で発見したときの様子です。キノコはマリオが普通にジャンプするだけでは絶対に叩くことができない高い位置にあるブロックに隠されているため、まず最初に足場となるための隠しブロックを見つけ出すことが必要です。

 ここでは敵のノコノコが2匹出現するのでプレイヤーは逃げ場を確保しようと反射的にジャンプ、すなわち上に逃げたい気持ちが働きやすくなるので、プレイヤーが偶然隠しブロックを発見できる確率が必然的に高まります。さらに、ノコノコを避けようとする過程でブロックを足場にも利用できることを自然と覚える可能性も高くなり、同時に「何でこんな所にブロックを隠れているんだろう?」「隠しブロックに乗れば頭上のブロックも叩けるから試してみるか!」などと思いつき、見事1UPキノコの大発見へとつながるワケです。

画像画像 「スーパーマリオブラザーズ」のワールド2-1。隠しブロックを土台にして1UPキノコが出せることを発見したときは実に嬉しくなります
(C)1985 Nintendo

 一度隠しブロックの存在および足場に利用できることを覚えると、以後いろいろな場面で応用することができます。以下の写真は、ワールド8-1にある隠しブロックの真上にコインボックスが隠されている場面ですが、ワールド2-1の雰囲気と何となく似ていますよね? つまり、ワールド2-1で1UPキノコの出し方を会得したプレイヤーであれば、「ひょっとして、ここにも何かあるのでは?」という一種の勘が働き、初めてゲームに触れたプレイヤーに比べて隠しブロックを発見する確率が飛躍的に高まることになります。

 また、本作ではワールド1-4とワールド6-4の後半にある隠しブロックの配置がまったく同じパターンになっています。ワールド1-4で隠しブロックを一度発見したプレイヤーであれば、やはりワールドで6-4でいかにも殺風景なマップを見た瞬間、「アレッ、ここって以前クリアしたステージにソックリだ!」と瞬時に気が付き、隠しブロックの存在を予感することができるのです。

 このような隠しフィーチャーを見つけることで、プレイヤーは誰しもが「俺ってスゲー!」と鼻高々な気分になりますが、実はこのようなシチュエーションはあらかじめ開発者がプレイヤーにゲームが上達するためのヒントを与えるべく、見事なまでにち密に計算して作られたものだったんですね!

画像画像 ワールド8-1の中盤。2-1で1UPキノコを発見したした人であれば、隠しブロックがあるのではと瞬時にヒラメいたのでは?

画像画像 ワールド1-4の隠しブロックの存在を知っていれば、ワールド6-4に初めて訪れたときでも隠しブロックの発見が容易になるハズ

 「スーパーマリオ」と同様に、プレイヤーの学習効果を高めてくれる隠しフィーチャーを取り入れた例としては、1986年にハドソンが発売したファミリーコンピュータ用ソフトの「高橋名人の冒険島」があります。

 本作では特定の地点でジャンプすると隠しアイテムの入ったタマゴが出現するので、これを発見したプレイヤーはゲームをより有利に進めることができます。隠しタマゴはマニュアルにもゲーム画面内にもその在りかが一切明記されていませんので、初めのうちは誰でも偶然でしか見つけられないでしょう。しかし、実はある特徴に気が付くことで隠しタマゴを次々と発見できるようになります。

 その特徴とは、本作では主人公が武器を空撃ちすると通常は地面に当たってから消えるのに対して、隠しタマゴのある位置に武器が触れるとその地点で消えるようになっていること。これにさえ気づければ、以後行く先々のステージでも隠しタマゴを発見できる確率が格段にアップし、プレイヤーに対してさらにゲームがうまくなった気にさせてくれるのです。

 なお、本作のような隠しアイテムのある位置に武器が当たると消えるというアイデアは、同じハドソンのファミコンソフト「ドラえもん」や「スターソルジャー」をはじめ、他のメーカーおよびタイトルにも数多く見ることができます。

 つまり、一度この仕組みを覚えてしまえば以後あらゆるゲームにおいて応用が利くのです。みなさんもゲームの上手なプレイヤーがあっという間に謎を解明したり攻略するのを見て驚いた経験がきっとあるかと思います。ゲームの上手な人がすぐに攻略パターンを編み出せるのは、実はこのような成功体験を何度も繰り返すことで勘を養い、攻略法の引き出しをたくさん持っているからだったんですね!

(C)1986 HUDSON SOFT

 筆者は昨年に「スーパーマリオ3Dランド」の攻略本を執筆する仕事をしたのですが、攻略パターンの作成中は初めてプレイしたステージであっても、「ここには何かある!」と突然ヒラメくことが度々ありました。手前味噌な物言いで恐縮ですが、こういう勘が働くのも過去のシリーズ作品や類似ジャンルのゲームを今までにいろいろプレイした経験があったからでしょう。ファミリーコンピュータ時代に学んだことが、今でも大いに役立っているなと改めて痛感した次第です。

 また、このようなゲームにおける学習効果は現在流行のソーシャルゲームにおいても同じことが言えるのではないでしょうか。例えば、カードを集めてプレイヤー同士で対戦するカードゲームでは特定の種類のもの同士を組み合わせることで特殊な効果が発生する、いわゆるコンボシステムを取り入れた作品がたくさんあります。何かのゲームでコンボを一度発生させた経験をしていれば、後でシリーズの続編や同じジャンルの別作品をプレイするときにも「もしかしたら?」という勘が自然と働き、よりスムーズにゲームの攻略が進められるようになるハズです。

 なお、当コラムで取り上げた隠しフィーチャーの例は秀和システムの書籍「ニンテンドーDSが売れる理由」でも詳しく解説されていますので、もし興味のある方はぜひこちらもお読みになられてはいかがでしょうか?

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