これぞ「真剣」! 超高解像度の日本刀ドキュメンタリー「4K Katana Project」撮影現場レポ
銘は「温故創新」、故きを温ねて新しきを「創る」。
ひとかたまりの鋼が、ひと振りの日本刀となるまで、全工程に完全密着した超高解像度ドキュメンタリー「4K Katana Project(関連記事)」がクランクアップ。最後の撮影となった「真剣」の物撮り現場に潜入しました。
都内の撮影スタジオに、企画を着想し推進したホリプロの金井塚元さん、監督の佐藤俊広さんをはじめ、刀匠・吉原義一さん、研師・臼木良彦さん、白銀師(ハバキ師)・宮本恒之さんら、この新たな名刀を生み出した名職人が結集し、撮影が始まります。
まずは、本物の天然の「玉鋼(たまはがね)」(日本刀の材料)から撮影を開始。ひとかたまりで約1キロ、ずっしりと重く、ゴツゴツとした天然の岩肌の中に、青や赤の宝石のような美しい色彩が散りばめられた、きわめて希少な鋼。このサイズの玉鋼3〜4個で、やっとひと振りの日本刀が作れます。
次に、白銀師(ハバキ師)・宮本恒之さん作の「ハバキ」(刀身の手元にはめる金具)の撮影に続きます。
銅の本体も、その上に被せる金も、同様に家紋を彫る繊細な職人技が光ります。
研師・臼木良彦さん愛用の「内曇(うちぐもり)砥石」も撮影。刀の仕上げに用いられるこの天然の砥石も、お金では買えないくらい、きわめて希少なものとなっているそうです。
天然の素材のため内部に不純物があり、これを削っているうちにだんだん小さくなってしまいますが、これほど良質なものはほとんど入手できません。臼木さんは、「良い砥石を見極めるのも職人の仕事。長年の修業を要します。砥石をなめて、舌触りの感触で判断することもあります」と、道具を選ぶ難しさ、楽しさを語ってくれました。
そしていよいよ日本刀の登場。刀匠・吉原義一さんの立ち合いのもと、細心の注意を払いながら、刀身と鞘が撮影台にセットされました。
美術館でショーケースに入ったものしか見たことのない目には、本物の日本刀は、生きているような圧倒的な存在感を放っていました。
まるでCG画像のように正確無比な機能美にもかかわらず、どこか人肌の温もりのような有機的な美しさを感じさせます。
焼入れの技術によって生ずる「刃文」と、鋼の地の部分が変化した「映り」は特に見事で、「逆さ富士に雲がかかっているよう」(宮本さん)。「刃文」だけでなく、「映り」を実現できる人はほとんどいないそうです。
さらに吉原さんは、「鉄の硬さ、石の硬さが違うためか、時間が経つにつれて変わってくる」ことを「映りが生きる」と表現。刀が生きているような印象は、そんなところにもあるのかもしれません。
この美しい刀に、刀匠は「温故創新」の銘を与えました。すなわち「故きを温ねて新しきを創る」。
「温故知新」の精神にもとづき、昔の刀を再現することにとどまらず、古いものからより良い新しいものを創っていく、という職人の心意気が込められています。
日本中の最高峰の刀職人の技と歴史、情熱の結晶というべきこの刀は、値段がつけられないほどの価値ある宝。刀匠・吉原さんの所蔵となり、6月には日本美術刀剣保存協会主催の新作名刀展に出品される予定です。
着想から3年、撮影に2年をかけた「4K Katana Project」のゴールを前に、企画を推進したホリプロの金井塚さんが、プロジェクトの意義を語ってくれました。
―― 日本刀の全工程を4Kで撮影しようという着想は、どのように得られたのですか?
金井塚 仕事で海外に行くと、模造刀を手にポーズを決めるコスプレイヤーを目にしたり、実は海外の人々のほうが日本文化に詳しいのでは、と考えさせられる機会が多く、自分も勉強しようと思っていたところ、偶然日本刀の特集番組を見て、これほどの美術品は4Kで撮りたい! という着想から始まりました。日本美術刀剣保存協会から刀匠・吉原さんを紹介してもらい、会社に企画書を出した時点から足掛け3年になります。監督の佐藤さんと2人、日本全国に散らばった職人を訪ね歩き、地酒を酌み交わしながらの撮影は、会社に帰るのが嫌になるほど楽しく、勉強になることばかりでした。
―― 何に一番苦労しましたか? 会社で企画書を通すのは難しかったのでは?
金井塚 ホリプロはアイドルのプロモーターというイメージがありますが、文化的に残すべきものに力を入れる方針です。日本の文化だからといって、固い内容にするのではなく、若い世代に目を向けてもらいたい。劇場用映画1本分の製作費をかけた、エンターテイメントとして質の高い映像で、かつライトな内容にする。苦労といえば、4K撮影でかさばる大容量のデータ保存のために、数えたくないくらいのハードディスクが溜まっていることくらいですが、ライフワークと言える作品、ぜひ期待してもらいたいですね。
臼木さんの優秀なお弟子さんで、紅一点の研師・神山貴恵さんは、「縁あって研師の修業を始めて8年、10年目からやっとスタートという長い道ですが、やりがいがあります。刀職人だけでなく、道具を作る職人、鋼や砥石などの材料自体も、このままでは枯渇してしまいます。世界遺産として保護すべきかけがえのない文化として、日本刀への関心を深めてもらえれば」と、プロジェクトの影響力に期待しています。
「4K Katana Project」は今後編集作業に入り、今年の夏から海外や日本国内でテレビ放映、さらにDVDなどパッケージ販売される予定。現代最高峰の日本刀職人の仕事と作品を、超高解像度技術で記録し、かつライトに仕上げた映像、まさに「温故創新」の画期的な試みとして期待が膨らみますね。
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