13年続いた「カラスヤサトシ」ついに完結 「変わり者」から「非モテの星」そして「裏切り者」へ…… 13年の歩みを振り返る
「虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第68回」は、カラスヤサトシ先生の「カラスヤサトシ」を紹介します。
ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。
先日関西ローカルのニュース番組の企画で京都のお寺に連れていかれ、そこの住職から「嘘ばかりついていると地獄に落ちる」と宣告されました。マンガ紹介という善行を積んで日頃の行いをチャラにしていきたい所存です。
さて、今回は「月刊アフタヌーン」(講談社)から、カラスヤサトシ先生の4コマエッセイ「カラスヤサトシ」(全9巻)をご紹介。すでに30冊を超える著書を上梓してきた売れっ子のマンガ家さんなので、ご存知の方も多いでしょう。そのブレイクのきっかけともなった本作ですが、今年その13年間にわたる連載を終了。個人的にいろいろな面で影響を受けた思い出深い作品でもあるので、今回はその軌跡とともに紹介したいと思います。
「こんなにナチュラルな変わり者がいるのか……!」という衝撃
エッセイマンガと言えば、作者が日々の生活で気付いたちょっとしたこと、おかしなことを綴(つづ)っていくものですが、2003年に始まった本作「カラスヤサトシ」の場合、気付く気付かない以前にカラスヤ氏が送る日常生活そのものが何より衝撃的でした。
三十路の大人が怪人ガシャポンを改造して作ったオリジナル怪人のプロレスごっこに没頭し、南京玉すだれの独自技を研究し、開け放したアパート1階の窓から誰もいない庭に向かってドライブスルーごっこをする日常。しかも本人は、そんな奇妙な生活を当たり前であるかのごとく描いている。
「世の中にはこんなにナチュラルな変わり者がいるのか……!」という驚きは、ガラパゴス島で独自進化を遂げた生き物を発見したダーウィンのようでもありました。また、当時の社主は他に何もやることがないあまり、舌が皮膚のようにカサカサに乾燥するまでずっと口を開けっぱなしにしているような時期でもあったので、同じモラトリアム仲間を見つけたような安心感も覚えました。
パトカーが通りがかったら犬の遠吠えをまねて吠えるなど、積み重なるカラスヤ氏の「奇行」の数々。その上、作中では「すべり芸」まで披露していることもあって、お世辞にも氏からはモテオーラが感じられません。しかも担当編集・T田氏が付けた会心のキャッチコピー「キモカッコワルい」が、味方を後方から銃で撃つかのごとき決定打となり、人気を得るにつれ氏は「変わり者」から「非モテの星」へとクラスチェンジを果たしました。
エッセイだけでなく、体を張ったルポマンガも手掛けるようになり、さらには上京してからの売れない青年時代を描いた自伝「おのぼり物語」(竹書房)は映画化。当時氏の勢いは本当にすさまじく、新刊をチェックしながら「またカラスヤさんの本出るの?」と思ってしまうほど。しかしこうして露出が増えたにもかかわらず、相変わらず妄想と奇行を続ける氏の姿に、「さすが俺たちのカラスヤ!」と、勝手ながらにさらなる共感を抱いたものでした。
「非モテの先達」から「裏切り者」へ
非モテの先達としてカラスヤ氏と共に歩んでいこうと決心した社主ですが、そこに大事件が発生します。それは忘れもしない2011年11月3日のこと。ニュースサイトで見た「カラスヤサトシ電撃結婚!」のしらせ。ディスプレイに向かって「えええええええええええ!!!!」と叫ばずにはいられませんでした。これまで全くモテないエピソードばかり描いてきた氏が、10歳年下の女性と結婚! しかも奥さんは妊娠中!! 正直に言って、当時は祝福するよりまず「裏 切 ら れ た !」という思いの方が強かったです(結婚に至る詳しい経緯は「結婚しないと思ってた オタクがDQNな恋をした!」(秋田書店)に収録)。
キモカッコワルい「非モテの星」から「一児のパパ」へと、さらにクラスチェンジを遂げたカラスヤ氏。単行本では7巻以降、夫婦の掛け合いや育児といった妻子を交えたエピソードが増えていきます。エッセイの方向性もここでひとつの転機を迎えて今に至りますが、9巻でも外出先で聞いたサックスのメロディがおならの音に似ている気がして、自分のおならを録音した音声と聴き比べるあたり、根っこの部分は相変わらずのようにも見えます。
「空回りしている自分を隠さない」というカッコよさ
非モテ話や育児話は他社の作品でも読むことができますが、この「カラスヤサトシ」だけしか読めないエピソードの代表格は、何と言っても氏に「キモカッコワルい」を見出した担当編集・T田氏とのやり取りでしょう。
マンガ家と編集者と言えば、二人三脚で作品を磨いていく関係というイメージがありますが、この2人は連載前に大ゲンカしたこともあり、開始時から確執を抱えていました。その一端は2人の信頼関係について語り合った、1巻巻末の「カラスヤ×T田対談」からもうかがえます。
カラスヤ:
信頼はまったくしてません。この人ホント言うことがころころ変わるし。権力に弱いし。
T田:
私は信頼してますよ。締め切りもきちんと守るし、漫画にかける情熱も人一倍あるし。
カラスヤ:
当然です。
T田:
でも面白くないんですよね。
カラスヤ:
あなたよりは面白いですよ。
特に初期は「何でこの2人でマンガ作ってるの?」と思うようなやり取りが結構描かれているのですが、それすらも「T田ネタ」という本作の定番として読者を楽しませるところまで昇華されているあたり、これもまたマンガ家と編集者のひとつのあり方なのかもしれません。
最後にもう一点見どころを挙げておきます。それは「カラスヤサトシ」という人物の偽らなさです。喜怒哀楽を包み隠さず、本音で語る。関西で言うところの「イキる」「ええかっこしい」な俗っぽいところを見せても、それが空回りしている自分を隠さない。
批評にありがちな「近ごろは丸くなってつまらなくなった」批判に対しても、年収ゼロ円だった過去を思い出しながら
「仕事はもらえるだけバンバン入れる!/昔の狂気がなくなった!? いらんわそんなもん!!」
「俺の夢は でっかい御殿に住んで……/ぜんぜんおもんないマンガ描いて暮らすことじゃーーーー!!」
と、ここまで堂々と言ってのける。器が小さいと言われようが、食っていくためには金が要る――。そういうことを偽らずに描ききってしまうところが、カラスヤ作品の素晴らしさでもあります。
まるでドキュメンタリーを見ているようだった13年間
確実な仕事の当てもなく上京してきた一人のマンガ青年が、本作をきっかけに知名度を伸ばし、今では30冊を超える単行本を出す知名度のマンガ家にまでなった13年間。「非モテの星」から「一児のパパ」へとクラスチェンジを果たしたこの13年間は、まるでドキュメンタリー番組を見ているかのようで、その軌跡をリアルタイムで見守ることができたのは、社主のマンガ生活の中でも貴重な経験でした。
そして今ならこう言えます。「キモカッコワルい」のではない、「ダサカッコいい」のだと!
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
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