13年続いた「カラスヤサトシ」ついに完結 「変わり者」から「非モテの星」そして「裏切り者」へ…… 13年の歩みを振り返る

「虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第68回」は、カラスヤサトシ先生の「カラスヤサトシ」を紹介します。

» 2016年05月20日 11時00分 公開
[虚構新聞・社主UKねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。

 先日関西ローカルのニュース番組の企画で京都のお寺に連れていかれ、そこの住職から「嘘ばかりついていると地獄に落ちる」と宣告されました。マンガ紹介という善行を積んで日頃の行いをチャラにしていきたい所存です。



 さて、今回は「月刊アフタヌーン」(講談社)から、カラスヤサトシ先生の4コマエッセイ「カラスヤサトシ」(全9巻)をご紹介。すでに30冊を超える著書を上梓してきた売れっ子のマンガ家さんなので、ご存知の方も多いでしょう。そのブレイクのきっかけともなった本作ですが、今年その13年間にわたる連載を終了。個人的にいろいろな面で影響を受けた思い出深い作品でもあるので、今回はその軌跡とともに紹介したいと思います。


画像 「カラスヤサトシ」(全9巻)→試し読み


「こんなにナチュラルな変わり者がいるのか……!」という衝撃

 エッセイマンガと言えば、作者が日々の生活で気付いたちょっとしたこと、おかしなことを綴(つづ)っていくものですが、2003年に始まった本作「カラスヤサトシ」の場合、気付く気付かない以前にカラスヤ氏が送る日常生活そのものが何より衝撃的でした。

 三十路の大人が怪人ガシャポンを改造して作ったオリジナル怪人のプロレスごっこに没頭し、南京玉すだれの独自技を研究し、開け放したアパート1階の窓から誰もいない庭に向かってドライブスルーごっこをする日常。しかも本人は、そんな奇妙な生活を当たり前であるかのごとく描いている。


画像 全てはここから始まった……「カラスヤサトシ」第1巻

 「世の中にはこんなにナチュラルな変わり者がいるのか……!」という驚きは、ガラパゴス島で独自進化を遂げた生き物を発見したダーウィンのようでもありました。また、当時の社主は他に何もやることがないあまり、舌が皮膚のようにカサカサに乾燥するまでずっと口を開けっぱなしにしているような時期でもあったので、同じモラトリアム仲間を見つけたような安心感も覚えました。

 パトカーが通りがかったら犬の遠吠えをまねて吠えるなど、積み重なるカラスヤ氏の「奇行」の数々。その上、作中では「すべり芸」まで披露していることもあって、お世辞にも氏からはモテオーラが感じられません。しかも担当編集・T田氏が付けた会心のキャッチコピー「キモカッコワルい」が、味方を後方から銃で撃つかのごとき決定打となり、人気を得るにつれ氏は「変わり者」から「非モテの星」へとクラスチェンジを果たしました。

 エッセイだけでなく、体を張ったルポマンガも手掛けるようになり、さらには上京してからの売れない青年時代を描いた自伝「おのぼり物語」(竹書房)は映画化。当時氏の勢いは本当にすさまじく、新刊をチェックしながら「またカラスヤさんの本出るの?」と思ってしまうほど。しかしこうして露出が増えたにもかかわらず、相変わらず妄想と奇行を続ける氏の姿に、「さすが俺たちのカラスヤ!」と、勝手ながらにさらなる共感を抱いたものでした。


画像 「おのぼり物語」(竹書房)→試し読み


「非モテの先達」から「裏切り者」へ

 非モテの先達としてカラスヤ氏と共に歩んでいこうと決心した社主ですが、そこに大事件が発生します。それは忘れもしない2011年11月3日のこと。ニュースサイトで見た「カラスヤサトシ電撃結婚!」のしらせ。ディスプレイに向かって「えええええええええええ!!!!」と叫ばずにはいられませんでした。これまで全くモテないエピソードばかり描いてきた氏が、10歳年下の女性と結婚! しかも奥さんは妊娠中!! 正直に言って、当時は祝福するよりまず「裏 切 ら れ た !」という思いの方が強かったです(結婚に至る詳しい経緯は「結婚しないと思ってた オタクがDQNな恋をした!」(秋田書店)に収録)。


画像 「結婚しないと思ってた」(秋田書店)→試し読み

 キモカッコワルい「非モテの星」から「一児のパパ」へと、さらにクラスチェンジを遂げたカラスヤ氏。単行本では7巻以降、夫婦の掛け合いや育児といった妻子を交えたエピソードが増えていきます。エッセイの方向性もここでひとつの転機を迎えて今に至りますが、9巻でも外出先で聞いたサックスのメロディがおならの音に似ている気がして、自分のおならを録音した音声と聴き比べるあたり、根っこの部分は相変わらずのようにも見えます。



「空回りしている自分を隠さない」というカッコよさ

 非モテ話や育児話は他社の作品でも読むことができますが、この「カラスヤサトシ」だけしか読めないエピソードの代表格は、何と言っても氏に「キモカッコワルい」を見出した担当編集・T田氏とのやり取りでしょう。


画像 「カラスヤサトシ」と言えばT田氏(モアイ連載「毎日カラスヤサトシ」サイトより)

 マンガ家と編集者と言えば、二人三脚で作品を磨いていく関係というイメージがありますが、この2人は連載前に大ゲンカしたこともあり、開始時から確執を抱えていました。その一端は2人の信頼関係について語り合った、1巻巻末の「カラスヤ×T田対談」からもうかがえます。

カラスヤ:
 信頼はまったくしてません。この人ホント言うことがころころ変わるし。権力に弱いし。

T田:
 私は信頼してますよ。締め切りもきちんと守るし、漫画にかける情熱も人一倍あるし。

カラスヤ:
 当然です。

T田:
 でも面白くないんですよね。

カラスヤ:
 あなたよりは面白いですよ。


 特に初期は「何でこの2人でマンガ作ってるの?」と思うようなやり取りが結構描かれているのですが、それすらも「T田ネタ」という本作の定番として読者を楽しませるところまで昇華されているあたり、これもまたマンガ家と編集者のひとつのあり方なのかもしれません。

 最後にもう一点見どころを挙げておきます。それは「カラスヤサトシ」という人物の偽らなさです。喜怒哀楽を包み隠さず、本音で語る。関西で言うところの「イキる」「ええかっこしい」な俗っぽいところを見せても、それが空回りしている自分を隠さない。

 批評にありがちな「近ごろは丸くなってつまらなくなった」批判に対しても、年収ゼロ円だった過去を思い出しながら

「仕事はもらえるだけバンバン入れる!昔の狂気がなくなった!? いらんわそんなもん!!」

「俺の夢は でっかい御殿に住んで……ぜんぜんおもんないマンガ描いて暮らすことじゃーーーー!!」

 と、ここまで堂々と言ってのける。器が小さいと言われようが、食っていくためには金が要る――。そういうことを偽らずに描ききってしまうところが、カラスヤ作品の素晴らしさでもあります。



まるでドキュメンタリーを見ているようだった13年間

 確実な仕事の当てもなく上京してきた一人のマンガ青年が、本作をきっかけに知名度を伸ばし、今では30冊を超える単行本を出す知名度のマンガ家にまでなった13年間。「非モテの星」から「一児のパパ」へとクラスチェンジを果たしたこの13年間は、まるでドキュメンタリー番組を見ているかのようで、その軌跡をリアルタイムで見守ることができたのは、社主のマンガ生活の中でも貴重な経験でした。

 そして今ならこう言えます。「キモカッコワルい」のではない、「ダサカッコいい」のだと!

 今回も最後までお読みくださりありがとうございました。



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2504/24/news063.jpg 食パンの留め具、捨てないで! ペタっと貼るだけで…… 目からウロコの“活用法”が100万再生「天才」「絶対試す」【海外】
  2. /nl/articles/2504/17/news162.jpg 築53年家賃4万円・何てことない団地のドアを開けると…… まさかの空間出現に驚きの声「素敵」「ここまでお洒落に」
  3. /nl/articles/2504/22/news021.jpg 自販機に“1000円”を入れたら……? 出てきた“とんでもないお釣り”にお口あんぐり「こんなん初めて見た」
  4. /nl/articles/2504/24/news043.jpg 「久々の大ヒット」 ワークマンの暑さ対策最強“2900円アウター”に絶賛の声 「マジで涼しい」「夏はこのウェア一択」
  5. /nl/articles/2504/23/news183.jpg 園遊会のお土産「1個800円超えの和菓子」が話題に ほどよい甘さが特徴【天皇皇后両陛下主催】
  6. /nl/articles/2504/24/news104.jpg 「え?」「マジか」 サイゼリヤ、“人気メニュー”の消滅に悲しみの声 「安泰だとおもってたのに」
  7. /nl/articles/2504/24/news149.jpg マクドナルド、突然“最強のアイテム”を発表→いきなりの凶行に「なんでそういうことするんw」「欲しすぎる」 “元祖”も反応
  8. /nl/articles/2504/23/news038.jpg 先祖の残した箱を開けたら“謎の絵”が出てきて…… 不明な正体に「教えてツイッターランドの人」→「激アツ」「なんか既視感」と890万表示
  9. /nl/articles/2504/24/news156.jpg 「もはや別物」 人気ブランドの“復刻アパレル”が話題も…… 「全然違う」「なんで」複雑な受け止め広がる
  10. /nl/articles/2504/23/news011.jpg ティッシュの空箱に、クリアファイルを貼るだけで→この発想はなかった! 便利でかわいいアイテムに反響
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「成長したらそのうち襲ってくる」と言われたワニ、16年後……→ 280万回再生を突破した驚きの姿に「初めて見た」の声
  2. 【大阪万博】皇后さま、帽子から靴までブルーとピンク 天皇陛下のネクタイと“連日おそろいコーデ”
  3. 飲み終えた“コーヒーかす”→捨てずに石と混ぜると、1カ月後…… 「感動」目からウロコの裏ワザに「やってみよう」
  4. 人里離れた山にカメラを設置→1週間後…… 「なんで?」映っていた“意外すぎる住人”に「笑った」「実在していたのか!」
  5. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  6. 「ウソだ…」「言葉が出ない」 幼少期から絵を描き続けた少年→15年後…… 大人になって描いた絵が100万再生【海外】
  7. 湘南の砂浜に打ちあがった“超危険生物”を飼育したら…… 貴重な姿に「初めて見ました」「かっこいい」と大反響→2年後の現在について話を聞いた
  8. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」話題になった飼い主に聞いた
  9. 万博「ミャクミャク」記念500円硬貨、金融機関での「品切れ」&高額転売相次ぐ…… 5倍以上の金額で出品される事態に
  10. マクドナルド、次回ハッピーセットコラボに「争奪戦すごそう」 品切れや転売の懸念も「1個でいいから欲しい」「たくさん作って」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 【べらぼう】“問題のシーン”、「子供に見せられない」 身体張った27歳俳優へ「演技やばくない?」
  2. 「恩師ビックリするやろなぁ」 中学3年で付き合い始めた“同級生カップル”が10年後…… まさかの現在に反響
  3. 「本当に迷惑」 宅急便の「不在連絡票」と酷似のチラシが物議…… ヤマト運輸「配布中止申し入れ」
  4. 「うそでしょ!?」 東京ディズニーランド、“老舗”レストランの閉店を発表 「とうとう来てしまったか」「いやだああああ」と悲しみの声
  5. 雑草ボーボーの運動場に“180羽のニワトリ”を放ったら…… 次の日、まさかの光景に「感動しました」「すごい食欲」
  6. 40歳・女性YouTuber「18年間、脇毛を処理していない」→“処理しない理由”語る 「脇のみならず……」
  7. コメダ珈琲店で朝、ミックスサンドとコーヒーを頼んだら…… “とんでもない事態”に爆笑「恐るべし」「コントみたい」
  8. 息子の小学校卒業で腕を組んだ34歳母→中学校で反抗期を迎えて…… 6年後の姿に反響 「本当に素敵!」「お母さん、変わってない!?」
  9. Koki,、豪邸すぎる“木村家の一室”がウソみたいな広さ! 共演者も間違えてしまうほどの空間にスタジオビックリ「コレ自宅!?」「ちょっと見せて」
  10. 使わない靴下をザクザク切って組み合わせると…… 目からウロコの再利用法が2500万再生「とてもクリエイティブ」【海外】