真田の名の下に死するのみ―― 槇えびし「朱黒の仁」が描き出す「武人・真田幸村」最期の生き様:虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第61回
今回は大河ドラマ「真田丸」にちなんで、槇えびし先生のマンガ「朱黒の仁」を紹介します。
ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。「SMAP解散説」のとばっちりを受けた虚構新聞の社主UKです。
「若者のテレビ離れ」が叫ばれて久しい昨今ですが、テレビが解散説を正式に伝えるまで、その真偽が確定されないあたり、テレビの信頼性はまだまだネットより強いのだなと思った次第です。
さて、若者でもないのに、近ごろテレビ離れを起こしている社主ですが、今月から始まった大河ドラマ「真田丸」は、久々に最後まで見る気になっている番組です。今これを書いている最中も、社主室のテレビには第2回が映し出されています。で、やっぱり草刈正雄最高やな、と(連載第48回参照)。
「真田丸」を見ようと思ったのは、まず脚本・三谷幸喜ということもありますが、歴史に疎い社主には珍しく、主人公・真田幸村(ドラマ中では「真田信繁」)を少しばかり知っていたから。やはりその劇的な生涯を知っている人物のドラマは見てみたくなるもので、「次の大河は真田幸村」と発表があったとき、「真田幸村、知ってる! 吉田松陰の妹は全然知らなかったけど!」と、テレビの前ではしゃいだのも懐かしい思い出です。
大河の主人公を聞いても「誰?」と首を傾げることも多い社主が、なぜ真田幸村を知っていたか。
それは、今回紹介する槇えびし先生のマンガ「朱黒の仁」(全3巻/朝日新聞出版)を読んでいたからに他なりません。「真田丸」制作発表より2年も早い、2012年に第1巻(新装版は2014年)が発売された後、掲載誌を「Nemuki+」に移し、今月完結巻となる第3巻が発売されました。
真田の名の下に死する覚悟
「真田丸」は、戦国乱世、草刈正雄演じる幸村の父・真田昌幸が非常にいい味を出しているところから始まりますが、本作「朱黒の仁」の開幕は、そこからずっと時代が下り、関ケ原の合戦を経て、江戸幕府が開いた後の慶長19年(1614年)。関ケ原で西軍に付いて敗れ、以来長きにわたって九度山での蟄居(ちっきょ)を命ぜられている幸村のもとに、徳川方と一戦交える豊臣秀頼への加勢を求める密使が来訪します。
「私には何も無い 父の威光の下に生き 兄の情けで長らえる」
秀頼への忠義、そして真田の名の下に死する覚悟を決めた幸村は、牢人としての父しか知らない長男・大助と家族を連れ、大坂入城を決心します。
こうしてのちに「大坂の陣」と呼ばれる戦いの幕が切って落とされるのです。
さて、これ以降の事実関係については、史実が示す通りなので、あえて説明する必要はないでしょう。ただ、読者の中には「大河のタイトルにもなってる『真田丸』はどこで出てくるの?」という点は興味あるかもしれません。
実を言うと、真田丸の戦いは本作第1巻の後半で描かれ、そこで終わります。そういう意味では、本作での真田丸の扱いは、幸村の活躍を描いた大坂の陣全体の1エピソードであり、全体を概観すれば、むしろ真田丸以降こそが本作の焦点とも言えるかもしれません。
幸村、その壮絶な「死に様」
では、「真田丸以降」のドラマとは何か。ひとつは、槇先生自身が書いておられるように「幸村の死に様」です。
真田丸の解体後、武力と和議とを巧みに使い分ける徳川方の謀略によって、次第に切り崩されていく豊臣軍。戦況が絶望へと傾いていく中、ともに戦ってきた後藤又兵衛ら個性豊かな人物も次々と倒れてゆきます。
そして、最後に残された勝機として、ただひたすら家康の首だけを狙い、本陣に奇襲をかけた幸村自身が見せる、壮絶な死に様。そのラストシーンは、まるで幸村の魂が絵やセリフに乗り移ったかのようで、完全に引き込まれてしまいました。普段はスタイリッシュでドライな印象が強い槇先生の画風だけに、そのインパクトはなおさら。この入魂のラストはぜひ実際に見てみてほしいです。
また、もうひとつの見どころは、幸村とその長男・大助の親子愛。忠義を尽くす武人としての父・幸村とともに、初陣・真田丸の戦いを経て、自分もまた父の志を受け継ぐ武人へと成長していく大助は、その死に様も含め、本作において幸村と並ぶもう一人の主人公と言っても過言ではありません。
父と同じく、最後まで忠義を貫き通した大助は15歳の若さでこの世を去ります。毎日飽きもせず「クロノ・トリガー」ばかり20周もプレイしていた当時15歳の自分に、この本を20周読ませてやりたい。
歴史マンガに苦手意識がある人にこそ
小学生の頃、図書室で読んだ歴史学習マンガが、あくびが出るほどつまらなかったせいか、マンガをがっつり読むようになってからも長らく、社主は歴史マンガには手をつけませんでした。実のところ、今も苦手意識は強いです。
これは自身の経験も踏まえてのことですが、「時代背景を知らないと楽しめないのでは……」「登場人物が多くて、わけが分からなくなるのでは……」「聞いたことのない言葉がたくさん出てくるのでは……」という不安が、歴史ものを読むうえで最大のハードルになっているのではないでしょうか。その気持ち、とてもよく分かります。
しかしもしそうならば、いや、そういう敬遠がちな人にこそ、「朱黒の仁」を手に取っていただきたいのです。一度読み出せば、あとは問答無用でその作品世界に引き込まれてしまうので、時代背景も人物関係も聞いたことない言葉も、スッと自然に頭の中に入ってきてしまいます。これは冲方丁先生の時代小説「天地明察」のコミカライズ(講談社/全9巻)も手掛けた、槇先生の手腕によるところが非常に大きいです。
敗軍の武将である真田幸村の活躍が、400年後の今日まで語り継がれているのは、江戸以来その史実を元にした講談や小説が「真田もの」として、庶民に親しまれてきたからだと言います。本作もまた、これら作品と同様、問答無用の魅力で現代の我々を惹きつけてやみません。
今書店に行くと、どこを見ても「真田丸」関連本が山積みになっていて、何を読んでいいものか分かりませんが、偶然とは言え、最初に触れた「真田もの」が本作だったことは、何よりラッキーな出会いでした。マンガ運だけは恵まれてるんですよ、マンガ運だけは……。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
関連記事
- 虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第60回:今年もやります! 「このマンガがすごい!」にランクインしなかったけどすごい!2016
毎年恒例「このマンガがすごい!」に選ばれなかった作品の中から、虚構新聞社主・UKがオススメする作品ベスト10を発表します! - 虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第59回:1つの恋を男性視点と女性視点で 異色の2誌同時連載にも注目「古都こと―ユキチのこと―/―チヒロのこと―」
秋田書店と双葉社で2誌同時連載! 今回は前代未聞の交差型ラブストーリー「古都こと」を紹介します。 - 虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第58回:過激じゃなくて「歌劇」です 明日のトップスターを夢見る少女たちの物語「かげきしょうじょ!!」
今回は白泉社「MELODY」にて連載中、斉木久美子先生の学園作品「かげきしょうじょ!!」を紹介します。 - 虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第57回:ボクは、なぜボクなんだ? 「神のみ」作者が描く、異色の“哲学”マンガ「ねじの人々」
今回は裏サンデーで連載中、若木民喜先生の「ねじの人々」を紹介します。 - 虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第56回:で、デカい……(目が) 前人未到の「単眼」人外マンガ「ヒトミ先生の保健室」の魅力
食わず嫌い、良くない! - 虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第55回:ITmediaの人気連載が電子書籍に 山田胡瓜「バイナリ畑でつかまえて」は上質なSFショートショートの味わい
ずっと書籍化を待っていた「バイナリ畑」がついに電子書籍に! - 虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第54回:手に負えないからこそ救ってあげたい 「おはよう、いばら姫」のヒロイン・志津は残念かわいい
社主が愛してやまない「残念美人」シリーズ、今回は森野萌「おはよう、いばら姫」を紹介します。 - 虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第53回:もしもゲーマーが不条理世界に迷い込んだら……? 「ゲーマーあるある」満載の脱出ミステリー「百万畳ラビリンス」
第53回は、たかみち先生の「百万畳ラビリンス」をご紹介。ゲーム好きなら思わず「あるある!」と納得してしまう、ちょっと変わった脱出モノです。 - 虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第52回:プロレス、おもしろそうやん……! プロレス弱者にも伝わるプロレス愛 「俺のプロレスネタ、誰も食いつかないんだが。」
今回は「くらげバンチ」にて連載中、さかなこうじ先生のプロレスファンコメディ「俺のプロレスネタ、誰も食いつかないんだが。」を紹介します。 - 虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第51回:部活動に打ち込むということ、何かに一生懸命になるということ――「その娘、武蔵」田中相先生インタビュー
前回に続いて、今回もインタビュー企画です。「千年万年りんごの子」でも紹介した、田中相先生にお会いしてきました!
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
「クレオパトラみたい」と言われ傷ついた55歳女性→カット&パーマで大変身! 「本当にびっくり」「素敵なマダムに」
-
伝説の不倫ドラマ「金曜日の妻たちへ」放送から41年、キャストの現在→75歳近影が「とても見えません」と話題
-
余りがちなクリアファイル、“じゃないほう”の使い方で食器棚がまさかのスッキリ 「目からウロコ」「思いつかなかった!」と反響
-
七五三で刀を持っていた少年→20年後には…… “まさかの進化”に「好きなもの突き進んでかっこいい!」
-
野良猫が窓越しに「保護してください」と圧をかけ続け…… ひしひし感じる強い意志と表情に「かわいすぎるw」「視線がすごい」
-
「あのお客さんに幸あれっ!」 小銭の出し方が完璧な“神客”にレジ店員感激 会計がスムーズになる配慮が参考になる
-
「こういうの好き」 割れたコップの破片を並べたら…… “まさかの発想”で息を飲むアート作品に 「すごいセンス良い」「前向きな考え」
-
50代女性「モンチッチみたいにしてほしい」→美容師がプロのワザを見せ…… 別人級の変身に「めっちゃお洒落」「すごい!」
-
「これが免許証の写真???」 コスプレイヤーが公開した“信じられない”免許証が話題 コスプレ姿との比較に「両方とも可愛いすぎる」
-
大型犬が18年間、ドアを開け続けた結果……そうはならんやろな驚きの末路に「どうしたらこんな風になるのよ」の声
- ネットで大絶賛「ブラウニー」にカビ発生 業務スーパーに7万箱出荷…… 運営会社が謝罪
- 「全く動けません」清水良太郎がフェスで救急搬送 事故動画で原因が明らかに「独りパイルドライバー」「これは本当に危ない!!」
- トラックがあおり運転し車線をふさいで停車…… SNSで拡散の動画、運転手の所属会社が謝罪
- 「ヤヴァすぎる!!」黒木啓司、超高級外車の納車を報告 新車価格は5000万円超 2023年にはフェラーリを2台購入
- そうはならんやろ “ドクロの絵”を芸術的に描いたら…… “まさかのオチ”に「傑作」の声【海外】
- 「ウソだろ?」 ハードオフに3万円で売っていた“衝撃の商品”に思わず二度見 「ヤバいことになってる」
- 「結局こういう弁当が一番旨い」 夫が妻に作った弁当に「最強すぎる!」「絶対美味しいビジュアル」
- “メンバー全員の契約違反”をライブ後に発表 異例の脱退騒動背景を公式が釈明「繋がり行為などではなく」
- 「言われる感覚全く分からない」 宮崎麗果、“第5子抱いた服装”に非難飛び……夫・黒木啓司は「俺が言われてるのかな?」
- 大沢たかお、広大プールを独り泳ぐ“バキバキ姿”が絵になり過ぎ 盛り上がる筋肉の上半身に「50代とは思えない」「彫刻みたい」
- “緑の枝付きどんぐり”をうっかり持ち帰ると、ある日…… とんでもない目にあう前に注意「危ないところだった」
- 「しまむら」に行った58歳父→買ってきたTシャツが“まさかのデザイン”で3万いいね! 「同じ年だから気持ちわかる」「欲しい!」
- 友人に「100円でもいらない」と酷評されたビーズ作家、再会して言われたのは…… 批判を糧にした作品が「もはや芸術品」と490万再生
- 高校3年生で出会った2人が、15年後…… 世界中が感動した姿に「泣いてしまった」「幸せを分けてくださりありがとう」【タイ】
- 「ま、まじか!!」 68歳島田紳助、驚きの最新姿 上地雄輔が2ショット公開 「確実に若返ってる」とネット衝撃
- 荒れ放題の庭を、3年間ひたすら草刈りし続けたら…… 感動のビフォーアフターに「劇的に変わってる」「素晴らしい」
- 食べた桃の種を土に植え、4年育てたら…… 想像を超える成長→果実を大収穫する様子に「感動しました」「素晴らしい記録」
- 「天才!」 人気料理研究家による“目玉焼きの作り方”が目からウロコ 今すぐ試したいライフハックに「初めて知りました!」
- 「エグいもん売られてた」 ホビーオフに1万1000円で売られていた“まさかの商品”に「めちゃくちゃ欲しい」
- 義母「お米を送りました」→思わず二度見な“手紙”に11万いいね 「憧れる」「こういう大人になりたい」と感嘆の声