過激じゃなくて「歌劇」です 明日のトップスターを夢見る少女たちの物語「かげきしょうじょ!!」:虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第58回
今回は白泉社「MELODY」にて連載中、斉木久美子先生の学園作品「かげきしょうじょ!!」を紹介します。
ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。
おすすめマンガを紹介していく本連載、今回は久々に女性誌連載作品から新刊を取り上げます。白泉社「MELODY」にて連載中、斉木久美子先生の学園作品「かげきしょうじょ!!」(〜1巻、以下続刊)です。
今月5日に第1巻が発売されたばかりの本作。元々「ジャンプ改」(集英社)で連載していた「かげきしょうじょ!」(全2巻)が掲載誌の休刊に伴って移籍連載したということで、新刊と言っても実質的にはこれが第3巻となります。
「白泉社版からでも楽しめるようになっています」と、斉木先生は書いておられますが、結論から言うと集英社版から読み始めたほうが作品世界がずっと深まっておもしろいので、これから読んでみようという方は3冊まとめて買うことをおすすめします。少し手に入りにくいということも聞いたので、ダッシュで買いに行った方が良いかもしれません。
明日のトップスターを夢見る40人の少女たち
さてこの「かげきしょうじょ!!」、ひらがなタイトルなので「過激」を連想するかもしれませんが、そうではなくて「歌劇」のお話。大正元年設立、難易度は東大に並ぶとも言われる名門・紅華歌劇音楽学校に入学した少女たちが、紅華歌劇団への入団、そして明日のトップスターを夢見て奮闘する学園もので、物語はその創立100年目の春からスタートします。
狭き門をくぐり抜け、紅華歌劇音楽学校の第100期生として入学してきた40人の少女たち。その最下位40位で入学した長身の少女・渡辺さらさ(178cm)が本作の主人公です。
長い手足に星のように輝く瞳(「ように」と言うより、実際目の中に星が見える)、そして天真爛漫(らんまん)とも天然とも言える性格の彼女が、この学校に入ったのは「ベルばら」のオスカル様にあこがれて。亡くなった祖母の夢でもあった紅華への入学を果たした彼女は、文字通り頭ひとつ抜けたその存在感と、入学早々クラスメイトを前に「さらさはトップになりますよ!!」と言ってのける空気を読まない性格のため、学校でも浮いた存在に。
そして本作には主人公がもう1人。それが寮でさらさと同室になったアイドルグループ「JPX48」の元メンバー・「奈良っち」こと奈良田愛。極度の男嫌いのため、ファンとの握手会で相手に「はなしてキモチワルイ…」と言ってしまったことからネットで炎上、そのままJPXを脱退させられた彼女は、男のいない生活を求めて紅華に入学。JPX時代も決して笑わないその不愛想な「塩対応」が一部のファンのハートをがっつりつかんだように、学校でも他人や歌劇団にはほとんど無関心。とにかく男のにおいがしない平穏な将来が彼女の望みでもあります。
そして当然のことながら、全くかみ合わないさらさと愛(と言うより、他人に興味がない愛にとって妙に人懐っこいさらさがウザいという一方的な反感と言った方が正しいのですが……)。まるで反対の性格を持つ2人のヒロインと同級生、先輩といったスターの卵たちが、講師陣と共に定まった未来に向かって進む、音楽学校を舞台に織りなすドラマは、まだ将来が漠然としている普通の少年少女を主人公とした学園マンガとは異なる価値観で動いていて、若くして強い意志を持つことのカッコよさも感じさせます。
また音楽学校という少女だけの世界において同級生や先輩は頼れる友人でもあり、ライバルでもあります。たとえ難関とは言え、紅華に入学したのはあくまでもスタート地点に立ったにすぎず、トップスターの座をめぐる競争はこれから何年にもわたって続くのです。もちろんその学生生活の中には、同じ夢に向かって切磋琢磨する少女たち同士の健全なライバル関係もあれば、女の世界ならではの仄暗い妨害もあるわけで、本作でもその陽陰両方が描かれています。
男に指一本触れられただけで冷や汗をかきながらその場を逃げ出してしまうほど、愛が男嫌いになる原因を描いたエピソードは、それまでの展開から一気にずんと重くのしかかる展開なので、これもぜひ読んでほしいところ。それまでさらさのインパクトに隠れがちだった愛や他の同級生の内面に焦点を当てていて、物語がさらに深みを帯びます。
そしていよいよ物語は「演じること」へ
……という流れから、今回新たにスタートを切ったのが白泉社版「かげきしょうじょ!!」なのです。冒頭「ダッシュしてでも集英社版を買いに行った方が」と書いたのは、まだショートカットだったころの奈良っちが拝めるだけでなく(今はセミロング)、ヒロイン2人が今の関係に至るまでの展開を踏まえたほうが、今回の新展開がより楽しめるようになっているから。やはり「かげきしょうじょ!」という下地を知っているのと知らないのとでは、登場人物一人一人の見え方に大きな違いが出ます。
さて最新刊の今巻では、2人の衝突と和解を経て次第にクラス全体の距離が近づいたこともあり、ストーリーはいよいよ「演じること」に主題が移っていきます。
演技の実戦経験がほとんどない予科生達に課された実技の演目「ロミオとジュリエット」。グループのセリフ合わせで「まさかのへたくそ」が発覚したさらさが、その後2週間という短期間で周りを驚かせるほどに豹変した理由とは――? これまでその恵まれた身体ばかりが目立っていた彼女の新しい一面が明らかになります。冬組のトップスター「白薔薇のプリンス」を通じて挿入的に語られた紅華歌劇団の歴史もこれまた良い話。
われわれ観客側から180度ぐるりと視点を変え、演者の視点から語られる歌劇の世界は普段客席から眺めているだけでは気付かないさまざまなことを教えてくれ、まるで自分も予科生の一人であるかのような気分にもなれます。残念ながら社主は男ですが、いやむしろ男だからこそ、読者女性よりさらに手の届かない遠い世界として、紅華乙女の彼女たちに魅力を感じているようにも思います。
女性の世界を描いた作品を読むたびにいつも感じる「作品世界の草になりたい……」という思いをまた抱きつつ、今日はこれにて筆を置きます。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
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