日本初、遊郭専門の本屋さん「カストリ書房」が吉原にオープン 利用者の6割は若い女性、その理由は?
あの「突撃一番」のレプリカが付録で付いた書籍なども販売。
今も男性を楽しませる吉原歓楽街の玄関「吉原大門跡」のすぐそばに、日本初の遊郭・赤線関連の専門書店「カストリ書房」が誕生し、話題を集めています。
店主の渡辺豪さんはもともとIT企業に勤務していたものの、遊郭の魅力に開眼し、遊郭・赤線らがあった跡を1人で300カ所も周ったそう。その趣味が高じて、遊郭関係の書籍の復刊などを行う「カストリ出版」を立ち上げ。これまでネット販売などを行っていましたが、その実店舗として9月からオープンしたのがこのお店です。
ところで、そもそも「遊郭・赤線の本」ってどんなもの? そこで渡辺さんに代表的な1冊を教えていただきました。
「まずは『全国女性街ガイド』ですね。売春防止法で赤線が廃止されるわずか3年前にできたものなので、日本の300ほどの赤線地帯の、最後の姿が記録されています」(渡辺さん)
こういった本を求めて来るお客さんは女性の方が6割で、しかも20〜30代が多いそう。
「この間はご両親と一緒に、中3の女の子が来てくれました。しかも『行きたい!』とご両親を連れて。少ないお小遣いの中で、本を買ってくれました。遊郭の研究にも興味を持っているようで、将来が楽しみですね。また、マンガを描いている方が参考書籍を探して、ご来店されたこともありました」(渡辺さん)
さらに地方からもよくお客さんが来ており、北海道・四国・九州・大阪・京都など、全国から集まるそう。
「書籍を復刊する基準は、まず国会図書館や大学図書館にもないような本です。あるものを作っても仕方がないので。また道程調査にも役立つものを選んでいます」(渡辺さん)
サブカルの聖地と言われる中野・高円寺では無く、吉原という場所だから人が来てくれると、この地を選んだそうです。
歓楽街である吉原は、近くにドヤ街として有名な場所などもあり、「治安が悪い」イメージがありますが、吉原に2年住んでいたこともあった渡辺さんに言わせるとそれは誤解だと言います。
「むしろ治安は良い方だと思います。駅やコンビニにたむろしている若者なども居ない。警察の目もあるから、ソープ街は24時になったらきっかり閉まる。老人が多い街で、日雇い労働者も減ってきているので、街は落ち着いています。しかも家賃が相場の3割ほど安く、交通の便や生活にも不自由はしませんよ」(渡辺さん)
渡辺さんは、遊郭文化には「ドロドロとした美しさ」を感じているそう。
「人間の欲求の中で、最も強いものが『性欲』と『金銭欲』であり、『1円でも高く女性たちを売り出したい』として生まれてくる着物などの遊郭文化のデザインは、機能美が追求され、結果的にとても美しく見えるんです。それは『アートのためのアート』より美しいと思います」(渡辺さん)
さらに、映画などの遊郭の世界では、江戸時代の花魁などのキレイなイメージがピックアップされることが多いものの、もっと見るべきものがあると言います。
「一番遊郭が多く、栄えていたのは明治の終わり〜昭和の最初ぐらいですが、まだあまり見直されていません。印刷技術も発達した時期なので、まだまだ手付かずの文献なども残っている。そこを突き詰めて、紹介していきたいですね」(渡辺さん)
渡辺さんに教えて頂いた、さらなる注目すべき本が「渡辺寛 赤線全集」。赤線ライターの渡辺寛氏が雑誌を寄稿したものを集成して作った本ですが、彼の消息がどうしても分からず、やっとのことで家族へのインタビューに成功して驚いたといいます。
彼は後に川崎千春という京成電鉄の社長に見出され、オリエンタルランド社で東京ディズニーランドを作る際に、アメリカ使節団となるなど活躍していたことが分かったそう。元々の分野を超えた活躍は「何かを突き詰めようとする進取の精神が受け入れられた結果では」と、渡辺さんは話しています。
また、旧日本陸軍が得ていたつかの間の安らぎの実情を書いた「陸軍と性病」には、カストリ書房限定の付録として、あの「突撃一番」(旧大日本帝国陸軍で使用されていた避妊具)のレプリカが付いてきます(デザインと中の紙は当時と同じで、コンドーム自体は現代のもの)。
この他にも、政府非公認の売春窟の記録が収録された「内務省流出資料」の復刻本、「阿部定の戸籍」を掲載した本、「三島由紀夫が街娼を迎えて行った座談会」が載った本などの掘り出し物がザクザクとあるそうです。
「復刻したい本はいくらでもあり、ネタには困りません。活字系の書籍だけでは無く、資料としても価値のある戦後の売春街のイラストもの、映像記録、さらには赤線を歌った歌謡曲なども復刻していきたいです」(渡辺さん)
なお11月中旬には遊郭関係本の著者によるトークイベントが予定されていて、書籍の即売会も同時に行われるそうです。
「性」の世界を探求できる画期的な書店。手に入れた本をお供に、吉原の散策に出てみるのも一興ですね。
(辰井裕紀)
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