気が付けば、裸 人智を超えた不器用男子高生の生活を描く「高倉くんには難しい」が笑いと勇気を与えてくれた:ねとらぼレビュー
「不器用で……加減が分からなくて……(泣きながら一本背負い)」
世の中には、「不器用」な人がいます。針に糸が通せない、卵がうまく割れない、箸で豆がつまめない――などがあると思いますが、では不器用さが人智を超えるほどに達してしまった人はどうなってしまうのでしょうか。
秋田書店の月刊ミステリーボニータとWebコミックサイトチャンピオンクロスで連載中の漫画「高倉くんには難しい」(原作:一條マサヒデ/作画:サブリック)は、そんな圧倒的な不器用さをもつ男子高生「高倉健(たかくらたける)」くんの学校生活を描いた作品。「一体この歳までどうやって生きてきたんだ」と感じずにはいられない、周囲を巻き込み過ぎな彼の生き様を見てみましょう。
不器用エピソード1:虹色黒板アート自己紹介
高倉くんの不器用ぶりは、登校初日の朝から全クラスメートが体験することになります。同作のヒロイン「綿貫幸子(わたぬきさちこ)」の自己紹介中に教室の戸をぶち破りながら登場(初日から遅刻)した彼は、「不器用でうまく開けられなくて……」と信じられない理由を口にします。
さらにそのまま自己紹介をすることになり自分の名前を黒板に書こうとしますが、チョークを圧倒的不器用さでボキボキに粉砕。ついには教室にある全てのチョークを使いものにならなくしてしまうと、チョークの破片を大量に鷲づかみにして黒板に押し付け始め……。
気が付けば、黒板アートのように大きな文字で、カラフルに「高倉健」の文字が描かれていました。なんという不器用さ。なんだか逆に器用な気もしてきますが、このような「不器用過ぎて一周した器用な芸当」は、この後も度々飛び出します。
不器用エピソード2:気が付けば、裸
毎回教室の戸を壊す訳にはいかないため、綿貫さんの教えに従い普通に入ろうとする高倉くん。しかし、ちょっとしか開いていないところに無理やり入ろうとし、制服を破壊。教室に入ると裸になっていました。なぜこんなことに。
あまりの出来事に先生から「……手品か、高倉」と問われた高倉くんは、「綿貫さんに教わりました」と回答。説明も不器用でした。綿貫さんが誤解されるぅ!
熱い男、高倉
あまりのイカれた不器用ぶりに、クラスメートから避けられ始める高倉くん。そんななか、とうとう決定的なやらかしをしてしまいます。
入学早々に行われた学力診断テスト中、シャーペンをカチカチし続けるわ、消しゴムを大量に破壊するわ、シャーペンのしんをばらまくわ、テスト用紙をビリビリにするわでクラメートの注意力をかき乱してしまう高倉くん。しまいにロケット鉛筆のしんを本当にロケットのように打ち上げてしまい、テストどころの騒ぎではない事態にしてしまいました。
これにはクラスメートたちもさすがに我慢の限界に到達。皆を代表して、菅原文大(すがわらふみひろ)くんが「学校を辞めてくれないか」と直訴してきます。
しかし高倉くん自身も、周囲に迷惑を掛けていたことを気にしていました。菅原くんの襟首をつかみ「いいかげんに……良い加減にしたいよ俺だって!」「でも不器用で……加減が分からなくて」と泣き崩れてしまいます。泣き崩れながら、力加減を間違えて菅原くんに一本背負いをキメます。やめろ。
ただ不器用なだけで、高倉くん自身は真面目過ぎるほどの男。自分の不器用さを自覚し、少しでも自分でできることは自分でやろうとする、努力家でもあります。その努力が仇になっているのは置いといて、本当に素直で心がきれいであることは間違いありません。
そしてその思いは、少しずつ周囲に伝わっていくことになります。
知れ渡る高倉の名
思いをぶつけたことで学校を辞めずに済んだ高倉くんは、その後もさまざまな不器用で周囲を巻き込みます。相変わらずクラスメートからは厳しい目を向けられながらも徐々に受け入れられていき、また不思議な魅力を感じだす者も現れ始めました。
食事が下手過ぎるので「誰かが食べさせてあげれば」と提案が出れば女子たちはドキドキしながら“はいあーん”してあげたり(不器用過ぎてのど奥まで身を乗り出してしまい失敗)、「耳掃除がへたなのでふさがってる」といえば女子たちが目の色を変えて耳かきを取り出します。
また、1巻の最後である8話では、その暴れっぷりから良くも悪くも校内の有名人になっている様子。周囲の人々は高倉くんをいろいろと手伝ってあげているようで、どうにか学校生活を送れている様子がうかがえます。
ギャグ漫画であるにもかかわらず、高倉くんの素直さと、だんだんと変わっていくクラスメートたちの様子の変化に、謎の感動を覚えました。笑いのなかに混じる、青春ドラマも同作の魅力の1つかと思います。
針に糸が通せなくても、卵がうまく割れなくても、箸で豆がつまめなくてもいいじゃない。不器用な人だって、生きていけるんだ。読めば読むほど、そう感じさせてくれるはずです。
「高倉くんには難しい」は、現在1巻が発売中。
不器用エピソード3:謝罪スープレックス
最後に、筆者が作中で一番好きな不器用シーンをご紹介いたします。
「学校を辞めてくれないか」と言われた翌日、反省した菅原くんが謝罪しに来ます。頭を下げる菅原くんに高倉くんは「俺が不器用なのが悪いんだ、頭上げて……」と抱き起こそうとしますが、距離感を誤り菅原くんの下がった頭にまたがってしまいました。
そのままグルリと2人で縦回転し、最終的に高倉くんがパイルドライバーのようなスープレックスをキメる形に。その姿勢のまま両足で菅原くんの首を固め、2人は言葉をかわします。
高倉くん「頭を下げさせるなんて……男として屈辱的な思いをさせ胸が締め付けられて心苦しいよ……」
菅原くん「……今現在……人として屈辱的な格好で首が締め付けられて苦しいよ……」
登場する度に高倉くんの不器用パワーに巻き込まれるかわいそうな菅原くん。幸あれ。
(C)一條マサヒデ/サブリック(月刊ミステリーボニータ)
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映画本編では詳しく描かれなかったシーンがここに。
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