インタビュー
» 2017年09月23日 12時00分 公開

ハリウッド監督・紀里谷和明2万字インタビュー×東大作家・鏡征爾:禁断の解禁 ここにあなたの悩みをひもとく全てがある<後編>(2/2 ページ)

[鏡征爾,ねとらぼ]
前のページへ 1|2       

X ロジカルとイロジカルの狭間で

須田:そのー、もうまさにその通りで、僕も個人的には自分わりと衝動的な方だと思っているので、そのー、すごく仰る通りだなと思ったんですけど、そこで、いま映画つくるときに、ロジカルな部分も当然あるっておっしゃいましたよね。そのバランスってどういう風にとってるのかなってことがちょっと気になります。

紀里谷和明 鏡征爾 須田

紀里谷:そこに方程式はないと思う。そこはもうなんか自分の感覚で。これ。まあ単純な話だよ。「ラスト・ナイツ」という映画をつくりたいと。極めて情緒的なものだよ、これは。

 「つくりたい!」「じゃあどうすんの?」そこから始まるわけだ。あとはもう、お金が必要だとか人手が足りないとか問題は大量にある。

 でも、その「つくりたい」って衝動を忘れないってことだよね。

 それを人間は忘れちゃうんだ。どんどんどんどん変形していってしまうんだよ。そうして最初に思い描いていたものとまったく違うものになってしまう。

 「じゃあそもそもなんでこんなことやり始めたの?」となる。

 良い例が車のモーターショー。プロトタイプが出てくるだろう? 超絶かっこいいプロトタイプが出てくる。それをじゃあつくりましょうとなったときに、「いや、ここのとこをもうちょっとコスト削減してこれにしてもらえませんか」「いやエンジニアがこれは無理だからここはこうしてくれといっています」といった風に、どんどんどんどん変えていくとまったく似つきもしないものが出来上がっちゃって、「じゃあこれはそもそも何だったんですか?」となる。それは、それだけは、俺は絶対に嫌なんだ。

 それを必死になってやったのがスティーブ・ジョブズ。とにかく戦って戦って戦って、オリジナルのまま出そうとしたわけじゃないか。

XI 東大生を代表する質問

K(東大文学部4年):僕が一つ気になったのは、なんでこんなに、僕らみたいな若い世代の子たち含めて、まわりの人たちが、まあ何かロジカルに生きないと、そのエベレストに登るんならヘリコプター使わなくちゃいけないよね。って思っちゃってるのか。それは何でだとお考えですか?

紀里谷:時代が楽な方にシフトしたからだ。俺は日本の高度成長期というものが好きなんだよ。本田宗一郎という人がいて。無駄に速いバイクをつくったとかさ。何でもいいじゃない。ソニーとかさ。トランジスタ・ラジオつくるんですとか。ウォークマンつくるんだとかさ。これと同じことだよ。とにかく「欲しい!」「それやりたい!」「つくりたい!」というさ。

 そこからみんなが一生懸命やって、戦って戦って戦って、そうやって不可能を可能にしていく瞬間、物事を成し遂げていく行程がある。

 成し遂げるまで全員帰れない。寝れない。

 きみ(須田に向かって)「下町ロケット」って見た?

須田:はい。

紀里谷:あれと同じだよ。夢があって、それをやるんだという、ある種幼稚な話だよ。しかしながらそれが成功してしまったら、巨大な富がそこに存在している。そうしてそれを守る方にまわっちゃったんだよ。新しい富をつくりだす方ではなく、守る方に。防御する方に。出来上がったものをディフェンスする側にまわっちゃったんだ。そうするとマインドが変わる。リスクを負わない方がいいでしょうと。富を守る方がいいでしょうと。守る側が守る側を育てるというマインドになってしまう。

 そしてそうした守る側を量産するために、受験戦争がつくりだされる。守る側の人間、ディフェンスの奴を量産する。

 そういう風潮の中で、俺はこれをやると言ったところで、「もう一回世界一のバイクつくるんだ」と言ったところで、「何言っちゃってんの?」と笑われてしまう。そういった感性が大多数になる。俺はそこの部分に関しても冷静に見ているよ。だけどさ、逆に言えば、ただ単にそれだけの話なんだよ。

鏡:それだけだけど、それだけじゃない。

紀里谷:そう。そこできみが、きみたち(東大生3人)が、なぜここに来ているのかということにつながってくる。

 本当にこれでいいんだろうか。

 そんな思いが、心のどこかに情緒的にあるわけだろう? その燻ったものを抱えたまま生きていて本当に幸せなんだろうかという思いがあるわけだろう? もっといえば死ぬ前に心に揺らめく何かがあるのかと言うことだろう?

 全てはロジカルに連なっているんだ。俺は何もかっ飛んだことは言っていないんだ。むしろきみたちがかっ飛んでいるんだよ。なんでそうなってしまったのかというさ。ココイチのカレーがそこにあるのになんでそこに行かないの? そこにあるのになんで手をのばさないの? そこにあるのになんで取りに行かないの?

 俺からするとそう見えてしまうんだ。

XII 死について

K(東大文学部4年):死にたいとき、どう立ち向かっていますか?

紀里谷:死にたいのね。俺にもよくある。では例えば自殺するところを想像してほしい。自殺して、その次の世界があるのかを想像してほしいんだけど、自殺する自分がいるとする。で、もう一つは自然に、病気とか事故とかで死ぬ自分がいるとする。どちらが「終了する感覚」があると思う?

 俺の個人的な感覚では、後者の方が「終了する感覚」「終わる感覚」があるんだ。前者は終わらない。例えばここ(六本木ヒルズの超高層階)から飛び降りるとするだろう。本当にそれで終わるのか? と逆に恐怖を感じる。自分の苦しみが本当にそこで終わるのか。それでいいのかということで、そうなった時にチョイスが2つしかない場合に後者を取るしかない。

 自然に「これは自分の意志ではなかった」という死に方じゃない限りその苦しみは終わらないと思うんだ。「できるだけやった」ということ。例えば今回の話もそうなんだけど、「ラスト・ナイツ」の宣伝で、インタビューを350媒体やった。チラシ配りも俺個人で4万枚やった。人からすると「すごいですね」となるんだけど結果としては惨敗。しかしながら俺は一抹の悔しさもないわけ。映画製作も含めてこの6年間やれることを徹底的に全部やったから。

 でもその間に「何か俺、手抜いてたな。やれることやってなかったな」ということになった場合、苦しみが残る。死後の世界。輪廻(りんね)とかそういうことではない。ここから飛び降りて落ちる瞬間にきみの全ては無くなっているのか。実は無くなっていないのではないか?

 きみの気持ちはよくわかるよ。俺の祖父は自殺しているし、俺自身が抱えているテーマでもある。だがどうしても自殺できないと考えたとき、「なぜなのか」と考えた。そうしたら想像で自殺した未来に行った時に苦しみが終わらなかったんだよね。

K:生きて悔いのないように、ということですか。

紀里谷:それもそうだし、自然に終了させなければならない。だから、つらいんだよ。この世界で生きていくことは。存在の苦しさがそこにある。それはもう、向き合うしかない。他の選択肢はそれを解決しないのだから。だから、死にたいのか苦しみを終わらせたいのか、どっちなの? って話。

K:苦しみを終わらせたいです。

紀里谷:でしょ。そこなんだよ。そこがこの次元というか、この次元の極めて残酷なところなんだよ。向き合うしかないよね。それは。極めて実存的なことなんだよ、俺の言っていることは。みんな死にたいんだよ。それから逃げるから笑っちゃったりするわけで、向き合えばいいんだよその衝動に。

 それをロジカルに考えていこうというメッセージなんだ。俺が言いたいことは。この次元は二元的にしか進まないわけじゃないか。光と影。男と女。全てが分割されるような、二元的なものしか存在し得ないという、極めて悪趣味な次元なんだよ。俺は大嫌いだよ。だけどそこを肯定していかない限り、その苦しみは終わらない。苦しみがあったとしても、それに対して理不尽さを感じなくなっていく。きみの苦しみには理不尽さがあるわけじゃないか。それを終わらせなければいけない。根源的に悩んでいるんだよ、みんな。釈迦(しゃか)やキリストの時代から。それをどうするかというのをロジカルに考えないと到達しない。それを情緒的に解明しようとするからおかしなことになるんだよ。

鏡:どうしてそういうことを考えるようになったんですか。

紀里谷:圧倒的な苦しみがあったからだよ。圧倒的な苦しみがあって、どのようにしてその苦しみから逃れられるかってことだよ。それはもう、向き合うしかないよね。頭抱えて、「これどうするの」「これどうやって向き合っていくの」、ってとこでしかないんだよね。そこの真剣さだよ。

鏡:一番悩んだのはいつですか。

紀里谷:それはもうずっと悩んでる。でも考えて考えて考えていって、そうしたらだいぶ軽減されていくよ。やるせなさがなくなるから。やるせない頭痛なわけでしょ、それは。そこに理由が見つかれば、軽減されて、向き合っていけるよ。ゼロになることはないだろうけどさ。そこの真剣さなんだよ。だから俺は苦しむということに徹底的に向き合ってきた。そりゃ、何度も逃げようとしたよ。でも逃げようとしたら追い付いてくるんだから。

紀里谷和明 鏡征爾

対談小説へ続く


作者プロフィール

鏡征爾:小説家。東京大学大学院博士課程在籍。

『白の断章』講談社BOX新人賞で初の大賞を受賞。

『少女ドグマ』第2回カクヨム小説コンテスト読者投票1位(ジャンル別)。他『ロデオボーイの憂鬱』(『群像』)など。

― 花無心招蝶蝶無心尋花 花開時蝶来蝶来時花開 ―

最新作―― https://kakuyomu.jp/users/kagamisa/works

Twitter:@kagamisa_yousei


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10

  1. /nl/articles/2208/09/news176.jpg ダレノガレ明美、韓国でお気に入りのホクロを“ゴミ”だと除去されてしまう 「ドS Dr. ありがとう!」
  2. /nl/articles/2208/10/news118.jpg 堂々としすぎ! 浜崎あゆみ、大阪市街を普通にランニング ファンと出くわし「暑さでとんでもない顔してたと思います」
  3. /nl/articles/2208/10/news174.jpg 坂上忍、余命数カ月の“13男”・平塚コウタに「奇跡」 転移した腫瘍消失で喜びあらわ 「先生もビックリしてて」
  4. /nl/articles/2208/09/news033.jpg 大型犬の大好きなぬいぐるみを洗濯→心配そうに見守っていたが…… 再会したときのとびきりの笑顔にグッと来る 【米】
  5. /nl/articles/2208/10/news172.jpg 朝日奈央が結婚、お相手との肩組み2ショット公開 「これから家族として、沢山の景色を一緒に見にいける事がとっても楽しみ」
  6. /nl/articles/1809/19/news114.jpg 人気女優の顔じゃない! 川口春奈、ほぼ瀕死のグロッキー状態に心配の声「完全に目がいってます」
  7. /nl/articles/2208/10/news017.jpg 柴犬姉妹の“あご乗せ”3連チャン! 顔をぎゅうっとくっつけるかわいさに「ずっと見ていたい」「癒やされる」の声
  8. /nl/articles/2208/03/news169.jpg 「『リケジョ』って呼ぶのはやめてください」 高校生4人が性差別の改善を訴える動画制作 ジェンダーに関心を持った理由を聞いた
  9. /nl/articles/2208/09/news026.jpg 子猫の様子がおかしい→動物病院へ行こうと思ったら…… 子猫ならではの結末に「成長している証」「スッキリしたね」
  10. /nl/articles/2208/09/news101.jpg 川口春奈、トガッてた19歳時の“ガニ股イキりショット”を公開し反響 「野生の春奈ちゃん」「牙を剥く若かりし頃のはーちゃん」

先週の総合アクセスTOP10

  1. 競技中とのギャップ! 高梨沙羅、キャミソール私服でみせた大胆“美背中”に反響 「背中ガッポリ」「魅惑の黒トップス」
  2. かわいい妹すぎ! 北川景子、義姉・影木栄貴の結婚で“お姉ちゃん愛”が爆発する 「姉がどこか遠くへ行ってしまう」
  3. 泣いていた赤ちゃんが笑い声に、様子を見に行くと柴犬が…… 優しくあやす姿に「最高の育児パートナー」の声
  4. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  5. 「若い君にはこの絵の作者の考えなんて分からない」→「それ俺の絵」 ギャラリーで知らないおじさんから謎の説教を受けた作者に話を聞いた
  6. 木下優樹菜、元夫・フジモン&娘たちとディズニーシーを満喫 長女の10歳バースデーを祝福
  7. 黒柴の子犬が成長したら…… 頭だけ赤色に変化した驚きのビフォーアフターに「こんなことあるんですね」「レアでかわいい」の声
  8. 子「ごめん、もう仕事できない」→母「はぁい了解っっ」 退職を明るく認めた家族のLINEが優しい
  9. スタバの新作が王蟲っぽくてファンザワつく 「怖すぎる」「キショいから買いたくなった」
  10. カナダ留学中の光浦靖子、おしゃれヘアのソロショットに反響 「お元気そうでなにより」「別人のよう」

先月の総合アクセスTOP10

  1. 安倍元首相、銃で撃たれて意識不明か 事件時のものとみられる映像投稿される
  2. 野口五郎、20歳迎えた娘と誕生日デート 家族同然の西城秀樹さん長女も加わり「楽しい時間でした!」
  3. 「大阪王将」店舗にナメクジやゴキブリが発生? 元従業員の“告発”が衝撃与える 大阪王将「事実関係を調査中」
  4. この画像の中に「さかな」が隠れています 猫に見つからないように必死! 分かるとスッキリする隠し絵クイズに挑戦しよう 【お昼寝編】
  5. ダルビッシュ有&聖子、ドレスアップした夫婦ショットに反響 「ハリウッド俳優やん」「輝いてます」
  6. 「auの信頼度爆上がり」通信障害でも社長の“有能さ”に驚く声多数 一方で「まだ圏外だぞ…」など報告続く
  7. スシロー、“ビール半額”で今度は「ジョッキが小さい」との報告? 運営元「内容量に差異はない」と否定
  8. スシロー「何杯飲んでもビール半額」開始前にPOP掲示 → 注文したら全額請求 投稿者「態度に納得いかなかった」 運営元が謝罪
  9. TKO木下、海外旅行先で総額270万円のスリ被害に エルメスの財布奪われた“瞬間映像”も公開「くっそ〜……」
  10. パパが好きすぎて、畑仕事中も離れない元保護子猫 お外にドキドキしながら背中に乗って応援する姿があいらしい