目指せスーパーモデル、158センチだけど 『ランウェイで笑って』跳ねっ返り娘・藤戸千雪の戦い:あのキャラに花束を
不遜すぎるヒロイン、モデル街道を突き進む。
パリコレ。モデルを目指す女の子たちの憧れの場所。
出演するのに必要なのは、才能と、努力と、身長。
マンガ『ランウェイで笑って』(猪ノ谷 言葉)より、背が小さいにもかかわらずスーパーモデルを目指す少女・藤戸千雪をご紹介。めちゃくちゃ気が強いヒロインです。
スーパーモデルの必須条件
松岡モナさん(19)は身長180センチ。冨永愛さん(35)は179センチ。9頭身だそうです。日本人のスーパーモデルとして、パリコレやニューヨークコレクションに参加し、ランウェイ(モデルが服やアクセサリーなどのデモンストレーションを行う舞台)を歩いています。
萬波ユカさん(25)は175センチ。福士リナさん(18)は176センチ。杏さん(31)は174センチ。日本では十分背が高い……と思いきや、これがモデル業界だと低いらしく、悩んだことがあると発言している人も。
海外だとフリーダ・グスタフソンさん(24)が184センチ。ヴァネッサ・アクセンテさん(21)が182センチ。カーリー・クロスさん(25)が185センチ。
180センチ超が当たり前なのが、海外へ進出するスーパーモデルの世界。背が高いというのはそれだけで武器です。背が低いのは、それだけで不利。服を着せるクライアント側の要求を考えれば、これはもうどうしようもない。身長が高いということは、存在感そのものですから。
マンガ『ランウェイで笑って』の藤戸千雪は、158センチの高校3年生。小学校のときは高身長でモデルを目指していたものの、そこから育たなかったというつらいパターン。
通常であれば158センチは低身長ではないです。例えばセブンティーンモデルの広瀬すずさん(19)は159センチ。日本国内でモデルをやる分には、特に問題ありません。
パリコレに行った先輩モデルは言います「あなたにできるの? その恵まれない身長で。千雪、無理なの。諦めて」
意地悪ではなく、事実。本人のために言っているだけです。
気が強くて跳ねっ返りで意地っ張りで折れない
逆境で戦うヒロインを描く物語……なのですが、千雪のキャラクターは少年マンガにしてはかなり珍しい。情熱家で、ものすごい不遜。
学校で洋服を作っている都村育人が、自作の服を譲ってくれると言ったときの返答が「え? いらない」。モデルの自分が素人の作った服を着るのは恥ずかしいからだって。わぁデリカシーのカケラもない。
育人が進路表に「就職」と書いたとき「貧乏なの? この就職も? お金ないから?」と言う始末。おい、千雪、デリカシー。表紙のかれんな表情から想像もできないような毒舌をバンバン吐きます。
これが彼女の強さ。千雪がスーパーモデルを越えたハイパーモデルになると言い続けるのを、周囲の人は何が何でも止めようとします。叶わない夢を追い続けるのは、つらいだけだから。けれども千雪は絶対に折れない。
世界レベルを相手にわがままを通し続けるのは、才能です。並大抵の精神状態では貫けません。ましてやモデルの「身長」なんていう、努力でどうにもならないものを乗り越えるとなるとなおのこと。ちょっとしたずうずうしさは、彼女の戦う術です。
半ば傲慢とすら言える彼女の芯の強さは、次第に周囲を巻き込んでいきます。ファッションブランド社長である彼女の父親は、千雪の志望を頑として認めていませんでした。千雪のためです。けれども1ミリたりとも曲がらなかった彼女を見て、こう言います。
『無理』に折れない心は最高の資質だよなぁ……その点で言えば、俺も千雪はいいモデルになると思ってる」
運も才能のうちとはよく言ったもの。千雪はどこまでも貪欲です。がむしゃらに手を伸ばして、何でもつかみます。じゃじゃ馬娘に見える序盤の姿は、1巻中盤からどんどん頼もしい、力強いものになってきます。
デザイナーになりたくて
この作品は途中からダブル主人公になっていきます。モデルを目指す千雪と対になる、デザイナー志望の同級生・都村育人。母が女手1つで育てている家族の、四人兄弟の長男。貧しい彼には、進学する余裕はありません。
育人「ふ……藤戸さん、高卒でもファッションデザイナーになれると思いますか……?」
千雪「どうなんだろ? 無理なんじゃないの?」「意外と厳しい世界なのよね、デザイン業界って」
気が弱い育人は、千雪に相談。まあそう言われたら「無理」と答えますわな。でもそれ、千雪が他の人に言われてるのと同じことだよ?
人に散々「無理」と言われている中、千雪は夢を諦めずひた走っていました。なのに自分も「無理」と育人に言ってしまった。もっとも「できるよ」と言うのは大ウソです。無理なものは、無理です。じゃあなんて言えばよかったんだろう。
千雪が迷うこと無くガンガン進んでいるように、育人も「無理」を突き破って進む決意をします。できないとわかった上での挑戦です。
育人が千雪の父親、デザイナー会社の社長と向き合うとき、自作の服を着ていきます。
横縞は、蛮族の象徴。今までは相手の言うことを伺いながらしゃべってきた育人。しかし千雪と出会ってから、それではだめだと気づいた。けんか腰で行くくらいの、攻めの姿勢に転じるよう、自分を鼓舞する服装です。衣装とは、武器でありよろいだ。
こんちきしょう戦ってやる
性格が真逆な2人だからこそ、お互い刺激されて、それぞれの戦いの場に出る引き金になる。超強気の千雪は、優柔不断な育人をひっぱたくくらいのことは何度もしています。正直だから。彼にはデザイナーになってほしいから。
育人も、自分のことを振り回すわがままお嬢様な千雪に怒りをぶつけたこともあります。でも千雪は絶対すごいモデルになると信じている。自分が作った服を着ている千雪を見て、深く感動したこともありました。
自分が戦っているとき、もう1人の人間が常識に立ち向かうむちゃをしている。
最終的には千雪も育人も、1人で戦わねばなりません。とはいえ、「無理」と戦う2人はお互いを意識しあう戦友に、すでになりはじめています。特に孤高だった千雪にとって、地道に歩みをすすめる育人の存在は絶大。気の強い彼女が、珍しく感謝するくらい。
プロの現場と常識は、まだまだ分厚い壁。シビアな現実は、努力と才能だけで乗り越えられないものがあります。叶わない夢なんて無い、とキレイ事は言えない。叶わないことなんてたくさんありますから。ましてや、やりたい人間と才能があふれる世界で、「努力しました」「頑張っています」なんて何の意味もない。結果がでなければ、即切り捨て。それが身長のような、物理的にどうしようもないことでも。なのに足りていない二人は、諦める素振りを見せません。
どう解決できるのかわからないような、絶対無理な問題が二人に降り掛かってきてほしい。心を折る寸前まで行ってほしい。そこを信念で突破する展開、見たいです。だってこの二人絶対折れないでしょう? 壁が乗り越えられないのなら、自分の信念で壁に穴を開けちまえ。
(C)Ktoba Inoya / KODANSHA
(たまごまご)
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