コラム
» 2017年11月30日 11時00分 公開

「正社員以外は社員食堂使用禁止」の企業と「アルバイトにも年金を払う」企業 “待遇格差”是正のカギは?

「働き方改革」や東京オリンピックによる影響も。

[二階堂歩ねとらぼ]

 「会社内のウォーターサーバーに『正社員以外使用禁止』と書かれていた」「食堂も正社員しか入れないのでビルの外のコンビニで買ってる」。某大手企業に派遣社員として勤めている友人の話、として投稿されたツイートが、ネット上で大きな注目を集めています。

 このツイートは2017年11月に投稿され、現在までに1万回以上リツイートされて拡散。Twitter上では、正社員以外の派遣社員やアルバイトが利用できない設備として「エレベーター利用禁止」「禁煙スペース利用禁止」「文房具使用禁止」などさまざまな事例が寄せられ、「待遇差別では?」などの声が上がっています。

待遇格差と法整備の遅れ

 厚生労働省は2016年12月、アルバイトやパート、派遣社員などの非正規雇用労働者と、正社員との待遇格差をなくすため、「同一労働同一賃金ガイドライン案」を発表しました。これは「仕事や責任の内容が同一であれば、同一の賃金を支払う」という考え方とその基準を示したもので、欧州では1997年に「パートタイム労働法」を定めるなど法整備が進んでいます。

 しかし、日本国内ではいまだ法改正に向けたさまざまな検討が行われている段階であり、現時点でこのガイドラインを守っていなくても、行政指導などが行われることはありません。冒頭のケースについても、「社員食堂など企業が福利厚生費として計上している設備は、税制上の理由で正社員のみの利用とせざるを得ない」と説明されることもあり、まだまだ法律が追い付いていないという状況です。

厚生労働省公式サイトに掲載されている「同一労働同一賃金ガイドライン案」に関するQ&A

企業独自の制度導入も

 こうした中で、労働者の待遇格差をなくすための制度を独自に打ち出し、改善を始めている企業もあります。

 ドトールコーヒーは2017年9月、飲食業界初となる「非正規雇用者向け退職金制度」の導入を発表。アルバイトやパートを重要な戦力と捉え、「飲食サービス業に従事する方々の地位向上と資産形成をサポートすべく導入に至った」とのこと。

 セゾンカードなどで知られるクレディセゾンでは、アルバイトを除く全ての非正規雇用者を正社員化する「全社員共通人事制度」を導入。従来の「正社員」「専門職社員」「嘱託社員」「パートタイム社員」という4つの雇用形態を撤廃し、雇用形態や処遇を統一しました。

全社員共通人事制度について(クレディセゾン)

 離職率の高さが問題視される業界での事例もあります。介護・医療事業などを行うケア21は、正規雇用者と非正規雇用者の昇給率/賞与基準/補助を同じにする取り組み「誰伸び人事制度」を2009年に開始。介護従事者の待遇改善を目指し、厚労省が選ぶ「パートタイム労働者活躍推進事業(2017年)」の最優良賞にも選ばれています。

企業が待遇改善を進める理由

 企業が非正規雇用者の立場を向上させようとしている背景としては、いくつかの要因が考えられます。

 派遣会社向けの業務効率化システムを提供しており、非正規雇用者の実態に詳しいマッチングッドの齋藤康輔代表取締役に話を聞きました。

1. 景気回復や東京オリンピックによる、空前の人手不足

斎藤氏:労働人口の減少、景気回復、東京オリンピック関連の人手などの影響により、現在はどの企業も、正社員・非正規・派遣問わず空前の人手不足です。派遣での採用も活発化しています。

 リクルートワークス研究所の発表(2014年)によると、2020年の東京オリンピック開催で、2013〜2020年までに81万5000人の新規雇用が生まれるとの試算が出ていることからも、人手不足がいかに深刻かが分かります。

 そんな人材不足を受け、企業側は非正規社員も重要な人員として捉えるように変化していると感じます。本来、派遣社員を含む非正規従業員は、人員や人件費を柔軟に調整するためのものとして考えられてきましたが、人手不足の影響で「派遣社員すらも不足している」、非正規社員であっても「長く働いてほしい」「定着させたい」というニーズが高まっているのではないでしょうか。

 非正規社員も含め、人材確保・定着をするために、福利厚生や、給与体系の見直しなど、待遇改善の動きが見られるのではないかと思います。

2. 「働き方改革」の影響

斎藤氏:働き方改革が叫ばれる中、企業は労働時間・残業時間の短縮を求められており、それには生産性の向上が不可欠です。

 非正規従業員の待遇や労働環境を改善することにより、当人のモチベーションを高め、生産性向上や、その企業が提供するサービスの品質向上にもつながると考えられます。

 また、世の中が「企業の労働環境」に対して厳しい目を持つようになった今、非正規社員の待遇改善を打ち出すことで、自社に対してポジティブなイメージを作ることができ、結果として正社員の採用にも良い効果があるとも言えます。

3. 2015年の派遣法改正

斎藤氏:派遣法改正で、期間制限のルール変更、派遣労働者の雇用安定措置、キャリアアップ措置の実施、均等待遇の推進などが盛り込まれました。派遣社員に関しては、この法改正も、待遇が改善している理由の1つと思われます。

放置のままでは“企業間格差”も

 慢性的な人手不足の解消や、働き方改革の推進は、現時点でも多くの企業が直面している喫緊の課題。冒頭で紹介したような労働者間の格差を放置したままでは、早晩経営が立ちゆかなくなる企業も出てくることでしょう。

 国を上げての法律面の整備と、企業側が独自に行う待遇改善の両輪で、今後どこまで問題を解消していけるか。対応の取り方次第では、企業内だけでない“企業間格差”もさらに拡大していくことになりそうです。

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