死の間際に老人は何を願ったのか RPGツクールで世界の涙腺を緩めた男の新作「Finding Paradise」週末珍ゲー紀行

人生のハッピーエンドについて考える。

» 2018年01月08日 14時11分 公開
[Ritsuko Kawaiねとらぼ]

 2011年に発売され、すばらしいドット絵と音楽で世界中を魅了した、RPGツクール製アドベンチャーゲームTo the Moon。その作者の新作Finding Paradise(PC/Mac/Linux)が先日発売されました。残念ながらまだ日本語はサポートされていませんが、海外のゲームファンからは早くも絶賛の声が相次いでいる同作。「週末珍ゲー紀行」第14回はそんな「Finding Paradise」を取り上げます。


Finding Paradise

ライター:Ritsuko Kawai

週末珍ゲー紀行

カナダ育ちの脳筋女子ゲーマー。塾講師、ホステス、ニュースサイト編集者を経て、現在はフリーライター。下ネタと社会問題に光を当てるのが仕事です。洋ゲーならジャンルを問わず何でもプレイしますが、ヒゲとマッチョが出てくる作品にくびったけ。Steamでカワイイ絵文字を集めるのにハマっています。趣味は葉巻とウォッカと映画鑑賞。ネコ好き。




患者の記憶を書き換え「幸せな最期」を提供する技術者の物語

 世の中にあふれる“変なゲーム(珍ゲー)”を紹介する「週末珍ゲー紀行」。第14回は、2011年にRPGツクールを使って世界中を感動させたゲーム開発者の新作Finding Paradiseを紹介します。人がその一生を終えるとき、私たちは何をもって生きた証を定義するのか。本当の意味で人生のハッピーエンドとは何なのか。時に曖昧で儚くも、人が歩んだ軌跡に何らかの意味を刻んでくれるもの。記憶について考えさせてくれる作品です。

 あなたは死ぬ前に成し遂げたい事柄をリストにしたことはありますか。そうした願いを書き出したメモのことを、英語では「Bucket List」(バケツリスト)と呼びます。2007年のアメリカ映画「最高の人生の見つけ方」では、余命宣告された2人の末期がん患者たちが自分たちのハッピーエンドに向けてリストを埋めていく最後の旅路が描かれました。もし、そうした最期の願いが実際に叶わなくとも、記憶を書き換えることで理想の生涯を演出できたとしたらどうでしょう。「Finding Paradise」は、死を目前に控えた患者の記憶を改ざんすることで、疑似的なハッピーエンドを提供する技術者たちの物語です。


Findins Paradise

Findins Paradise

 本作を開発したのは、2011年にRPGツクールで制作したアドベンチャーゲーム「To the Moon」で世界的に脚光を浴びたゲームデザイナー、Kan Gao氏。汎用ツールを使った昔ながらの2Dドットからは想像もつかないほど重厚なプロットをはじめ、随所にちりばめられた機知に富んだテキスト、聴くもの全ての琴線に触れる情緒豊かな音楽など、表現手法の枠を超えた強いメッセージ性が高く評価されました。「Finding Paradise」はその続編。前作で死ぬ前に月へ生きたいという患者の願いを“かなえた”2人の研究者が、今度は自身の願いが何なのかすら分からないまま最期の時を迎えた依頼主の記憶にアクセスします。


「To the Moon」トレーラー

 実は今作の患者であるコリンは、2014年に発売されたGao氏の短編作品A Bird Storyの主人公です。同作は、同じくRPGツクールを使って、前作と今作をつなぐ実験的なミニエピソードとして制作されました。鳥のように空を飛びたいと夢見る孤独な少年コリンと、ケガを負った一羽の名もなき鳥。彼らの出会いと別れを、一切の言語を使わずにシンボリックな手法で詩的に表現した作品でした。あのとき少年だったコリンが、「Finding Paradise」では死の間際に臥せる老人として再び登場します。旅客機のパイロットとなり夢をかなえたコリンが、人生の最期に何を望んだのか。それを見つけるのはプレイヤー自身です。


Findins Paradise

Findins Paradise

 ゲームというよりは映画。映画というよりは小説。その枠にとらわれない純粋な感性の塊ともいえるかもしれません。現在のところ日本語には対応していませんが、英語が読める人には定価980円をはるかに上回る価値があります。何よりも、他者の感性に触れることで内に芽生える新たな感性は、文化背景や表現形態の枠を超えてプライスレスです。また、本作のメッセージを余すところなく享受したいなら、まず過去作の「To the Moon」と「A Bird Story」をプレイすることを強く推奨します。近年めざましく発展するインディーゲーム界に、まさに可能性という名の希望を示した作品であることは間違いないでしょう。


Ritsuko Kawai


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2404/27/news008.jpg 釣りに行こうとしたら、海岸に子猫が打ち上げられていて…… 保護後、予想だにしない展開に「神様降臨」「涙が止まりません」
  2. /nl/articles/2404/27/news009.jpg しぶとい雑草“ドクダミ”を生やさない超簡単な方法が115万再生! 除草剤を使わない画期的な対策に「スゴイ発見」
  3. /nl/articles/2404/27/news005.jpg “女子小学生”がメンズカットしたら……「え!」 その驚きの大変身に「な、なに!?」「絶対モテる」と反響
  4. /nl/articles/2404/27/news003.jpg 顔の半分は童顔メイク、もう半分の仕上がりに驚がく 同一人物と思えない半顔メイクが860万再生「凄いねメイクの力」
  5. /nl/articles/1901/08/news126.jpg 正体不明の「なにかふしぎなもの」がハードオフで販売→Twitterで情報集まり正体が判明
  6. /nl/articles/2404/28/news005.jpg 「とんでもないものが売ってた」 ハードオフに“33万円”で売られていた「まさかの商品」に思わず仰天
  7. /nl/articles/2401/18/news035.jpg 「起動しません」 ハードオフで4000円のジャンクPS4購入→電源入れると“驚きの結果”に「そんなことあるんだ」
  8. /nl/articles/2401/26/news015.jpg スーパーで買ったレモンの種が1年後…… まさかの結果が635万再生「さっそくやってみます」「すごーい!」「手品みたい」
  9. /nl/articles/2404/21/news011.jpg 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  10. /nl/articles/2404/28/news019.jpg 「ワンピース」ナミに扮したイタリアのコスプレイヤーが麗しい! 「完璧」「美しい!」と称賛
先週の総合アクセスTOP10
  1. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  2. 富山県警のX投稿に登場の女性白バイ隊員に過去一注目集まる「可愛い過ぎて、取締り情報が入ってこない」
  3. 2カ月赤ちゃん、おばあちゃんに少々強引な寝かしつけをされると…… コントのようなオチに「爆笑!」「可愛すぎて無事昇天」
  4. 異世界転生したローソン出現 ラスボスに挑む前のショップみたいで「合成かと思った」「日本にあるんだ」
  5. 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
  6. 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  7. 1歳赤ちゃん、寝る時間に現れないと思ったら…… 思わぬお仲間連れとご紹介が「めっちゃくちゃ可愛い」と220万再生
  8. 業務スーパーで買ったアサリに豆乳を与えて育てたら…… 数日後の摩訶不思議な変化に「面白い」「ちゃんと豆乳を食べてた?」
  9. 祖母から継いだ築80年の古家で「謎の箱」を発見→開けてみると…… 驚きの中身に「うわー!スゴッ」「かなり高価だと思いますよ!」
  10. 「妹が入学式に着るワンピース作ってみた!」 こだわり満載のクラシカルな一着に「すごすぎて意味わからない」「涙が出ました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」