最終回直前! ミステリ好きが全力で語る「アンナチュラル」8〜9話、そして10話への期待(2/3 ページ)
9話「敵の姿」
9話にして、ようやく中堂さんの事件――「赤い金魚」にまつわる連続殺人事件です。「赤い金魚」の意味は早々に明らかになり、連続殺人の共通項が明らかになります。少しネタバレで解説すると、共通項とは「ABC」……アルファベットです。
アルファベットを共通項にするミステリというのは、元祖であるアガサ・クリスティーの「ABC殺人事件」をはじめ、古今東西にたくさんあります。
多くのミステリでアルファベットが共通項となるときは、「ABC」という共通点を捜査機関などに気付かせるのが前提になっていることが多いです。遊戯性や嗜好性は表向きのミスリードで、本来の目的は事件の実際の順番や本当の動機を隠蔽することであるのがほとんどですね。一見異常な犯罪者だと思わせて、実は理知的な犯人というパターンです。
その観点からすると、「赤い金魚」はかなり特殊。そもそも連続殺人だと知って追いかけていたのは中堂さんだけですし、アルファベットについて気付いて(あるいは発見して)いたのはライターの宍戸だけ。他の人は全く気付いていないし、まあ気付けないでしょう。100%、犯人の美学や趣味嗜好でできた自己満足的な共通点というか、多くのミステリでは「ミスリードの真相」なんですよね。
「異常な犯罪に見せかけて、実は……」という展開が10話で待ち構えている可能性も否定はできないですが、ここから犯人や連続殺人についてひっくり返すと話が大きくぶれますから、単純に犯人の異常性を示すための設定ということになるのだろうな……。
……と、いきなりぼやいてしまいましたが、9話の死因究明の話は非常に面白いです! 解剖の逆手をとったトリックで、「満を持して最高のネタを突っ込んできたな!」とニコニコしてしまいました。ミステリにおいて、「調べても何も発見されない」ことが真相につながるネタというのはとてもきれい。「プロだからこそ見落とす“毒”」が、「ギ酸で死んだアリ」という知識1つでひっくり返り、大胆に事件の構造がズレていく……このネタには思わず声が出ましたね。
そしてこの事件は、実は「アリバイ崩しもの」なんです。1人の女性の死因を調べていくことで、結果的にアリバイが崩されて、意外な犯人が立ち現れる。アリバイ崩しものは一般的に「この容疑者のアリバイを崩せ!」という流れになりますが、9話では「死因を突き止めたら、容疑から外れていた人が捜査線上に乗った」という話で、犯人までの道筋が一直線になっていない。このプロセスには騙されました。
犯人が明らかになったあとの展開も、完全に予想を裏切られました。これまでは犯人が不在であったり、あるいは犯人が判明した瞬間に物語が終わるようなエピソードが続いていた。だからこそ、視聴者としても最後はUDIラボのメンバーと犯人との“対決”を期待していました。ところが9話ラストで犯人が意外な行動をして、10話で予想外の形で対決するということが分かる。視聴者として予想の一歩先を行かれましたし、登場人物の「やられた、一歩向こうが早かった!」という気持ちともシンクロしていると思います。
というわけで9話はミステリとして見るべきものが非常に多く、満足度の高い話数でした。中堂さんの回想シーンについては、個人的には「そんなベタなものをやらなくても……」と思ってしまいましたが、でも視聴者一人一人に“理想の中堂さん”がいますからね。映像とキャラソン「Lemon」に合わせてみんなの好きな中堂さんを妄想してね! というメッセージだと受け止めました。
編集担当のどうしても言いたいひとこと
来世の目標は、美大に入って卒業後に定食屋で働き肉じゃがをササッと作れるようになり、定食屋にやってきたやたら首筋のセクシーな男をスケッチすることです。中堂さん、肉じゃがでオチないで!(複雑な乙女心)
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