最終回直前! ミステリ好きが全力で語る「アンナチュラル」8〜9話、そして10話への期待(1/3 ページ)
今夜、決着。
法医学で“不条理な死”に立ち向かう、石原さとみさん主演の金曜ドラマ「アンナチュラル」(TBS)。魅力的なキャラクターや現実を反映したストーリーが評判になり、最終回に向けてますます注目されています。
遺体が“語る”手掛かりから真実を見つけ出す「アンナチュラル」は、ミステリ好きにも人気。ミステリ好きの赤いシャムネコさんも、「アンナチュラル」の面白さに引き付けられた1人です。最終話を前に、8話と9話の「ミステリ的な面白さ」を早口で語ってもらいました。最終話の前におさらいするのはいかがでしょうか! ちなみに極力ネタバレなしですが、まだ見ていない方はご注意を。
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8話「遥かなる我が家」
シリーズ最高傑作といってもよいのではないでしょうか! 雑居ビルで火災が発生し、UDIラボに10体の遺体が運び込まれてくる。そのうちの1体、男性の遺体の後頭部に打撲の跡があることに気付いたミコト。火災現場で本当は何が起こったのか――? というストーリー。ミステリでいうと、「ホワットダニット(何が起きたか)」を解き明かすタイプのお話です。
構造としては2話の「死にたがりの手紙」に似ています。2話も一家心中の遺体の中に、1体だけ特殊な遺体があり、その遺体の“謎”を解き明かすことで、事件の全貌が見えてくるというお話でした。この2話の類似性が、ある種のミスリードにもなっているのが面白いです。2話の“悪意”や、5〜7話のミステリらしい事件を見てきた多くの視聴者が、「この事件は悪意を持った人間による放火なのだ」「もしかしたら殺人事件の隠蔽で他の9人が殺されたのかも……」と予想したのではないでしょうか。しかも捜査を進めていく中で明らかになる「謎の男」のプロフィールも、強烈なミスリードになっています。
ですが8話の物語は“悪意の物語”ではなく、“善意の物語”なんですね。終盤の展開で、先入観によって引っ張られていたことが分かる。被害者の属性、性格、行動がひっくり返り、真相が明らかになる――という意味では、1話の事件にも近い。原点にも立ち戻った、「アンナチュラルらしい」お話であったと言えるでしょう。
8話は非常に凝った構成をしていて、「謎の男の遺体を巡るビル火災事件」「配偶者を亡くしてから家をごみ屋敷にしてしまったヤシキさん」「六郎くんと父との確執」という3つのストーリーがぎゅっと詰められています。サブタイトルは「遥かなる我が家」。ここに何重もの意味が重なっているのが本当にすごい。
「我が家」とは、まずビル火災の被害者の身元を特定し、「帰るべき場所」を見つけるということを意味しています。さらに真相が明らかになると、謎の男にとっての「我が家」が立ち上がってきます。さらにヤシキさんの配偶者、ミコト、2話の被害者の「ミケちゃん」、震災の犠牲者――と全てを拾いながら、最終的に六郎くんの話として収束していく。あまりにもよくできていて、立ち上がって拍手してしまった……。
事件の解決の糸口にある「ロープ」が、なぜそこにあったのか? 火災の通報は誰がしたのか? どうして被害者は通報しなかったのか?――などなど、説明されていないところはあります。まあでも、尺の関係で入れられなかったのでしょうし、視聴者が見たいところはそこではないかなーと思うので、大きな不満はありません。
印象的だったのは、神倉さんの過去と「震災の幽霊」。脚本の野木さんはTwitterで「すべての帰れない人たちに捧げます」とコメントしています。放送時期が3月だったこともあり、東日本大震災への追悼も込めたエピソードでした。現実に存在している「帰れない人」たちへの優しさのようなものを感じます。視聴者が「アンナチュラル」に期待する全てが詰まっている、集大成的なエピソードに仕上がっているのではないでしょうか。
ちなみに余談ですが、「震災の幽霊」は実はポピュラーな現象ではありません。東日本大震災では幽霊の目撃談が非常に多く寄せられていますが、阪神淡路大震災ではほとんど目撃報告がなかったと言われています。
その理由はいくつか考えられますが、「地震から時間差で発生した津波によって亡くなった方が多く、『あの時こうしていたら』と生存者が悔やんでいる」「遺体が見つかっていない方がいる」といったことが原因とされています。
東日本大震災での生存者は強烈なサバイバーズ・ギルト(生き残ったことへの罪悪感)を感じており、それが幽霊の目撃談につながっているという言及があります。サバイバーズ・ギルトはアンナチュラルのシリーズの中でも繰り返し浮上するテーマですね。中堂さんは「思いが足りていないから幽霊に会えない」と呟いていましたが、そんなことないよ! と言ってあげたいです。
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