ミステリ好きが早口で語る! ドラマ「アンナチュラル」の面白さ(1〜4話)(1/3 ページ)

まだ追い付ける!

» 2018年03月02日 12時00分 公開

 石原さとみさん主演の金曜ドラマ「アンナチュラル」(TBS)が話題になっています。法医解剖医という“死因究明のプロ”たちが謎多き死に立ち向かう――という1話完結型のストーリー。「逃げるは恥だが役に立つ」で知られる脚本家・野木亜紀子さんの初のオリジナル作品です。



 ドラマ好きから高い支持を得ている「アンナチュラル」ですが、ミステリファンの間でも人気が高まっており、Web上でミステリ作家どうしが「アンナチュラル見た?」と会話を交わすほど。ドラマとしての完成度だけではなく、ミステリとしての面白さも折り紙付きです。

 では、本作のどんなポイントが「ミステリとして」面白いのか? 「アンナチュラルは2018年を代表する大傑作」と断言するミステリ好きの赤いシャムネコさんに、魅力をとことん(極力ネタバレなしで!)語ってもらいました。

赤いシャムネコさん過去記事


1話「名前のない毒」

 1話を見て「このドラマは傑作だ」と確信しました。

 1話完結ものかつミステリ要素のあるシリーズの最初のエピソードというのは、「このシリーズはどういう話なのか」を示すイントロダクションであり、最も標準になるような話が選ばれるのが通例です。

 例えばマンガ「金田一少年の事件簿」では「オペラ座館殺人事件」が最初の事件。猟奇的な連続殺人事件が発生し、主人公がトリックを解き明かし、犯人を突き止める――というパターンを示しています。ドラマ「TRICK」では「母之泉」で、一見すると超常現象にしか見えない事件の裏には仕掛けがあり、科学者と手品師が解くという構図。「これからのシリーズ、こういう話が続いていきますよ」というテンプレートを視聴者に示すのが1話です。

 では、「アンナチュラル」はどのような1話だったのか。サブタイトルが「名前のない毒」で、不可解な死体がある。最初に提示される謎は「どのような毒が使われたのか?」です。しかも途中で死因が同じと見られる遺体がもう1体出てきて、連続殺人の可能性が出てきます。宮部みゆき先生の「名もなき毒」のことを思い浮かべたミステリ好きもいたことでしょう。ここまでで視聴者は「毒を鑑定していき、最終的に毒殺者を探す話なのかな?」と思わされたはずです。

 ところがこのエピソードでは、毒殺はミスリードにすぎません。中盤に本当の死因が明かされ、視聴者は「これは毒の名前を解き明かす話じゃないんだ!」とひっくり返される。最初の謎に対する解答どころか、構造そのものが変質するんです。そして主人公のミコトたちが目指すゴールが、前半の「毒殺事件の謎を解く」から「人命を救う」ということに切り替わります。ここにきて僕は「すさまじいことをするな」と気絶しそうになりました。通常のミステリではここまで大胆に問いが変わることはありません。

 さらにもう一段視聴者を驚かせる仕掛けがあるのがあまりにも技巧的。もう1回ひっくり返さなくても、お話としては十分に成立したはずです。ただその真相では、被害者の周囲の人々があまりにもやりきれない。視聴者もモヤモヤした思いを抱えたはずです。最後のひっくり返しがあることで、割り切れなさを解消するようになっています。



 先ほど「1話はシリーズのテンプレートを示す」とお話しました。僕はリアルタイムで見ている間、「最初からずいぶん変化球で来たな」と思いました。でも変化球というのが間違いで、「アンナチュラルとは、法医学という手法を使って、割り切れない思いを救っていく話である」というのが示されている1話だったんです。

 ミステリは「起きた事件の謎を解く」ということに焦点が当たりがちで、解いて終わりでも読者は満足できてしまいます。ですが「アンナチュラル」の主軸は、「謎を解かれること」そのものではなく、「謎を解くことで誰かの未来を救う」という、未来志向のもの。死者の物語でありながら、実は生き残っているものたちの物語である――ということを明示している、素晴らしい1話でした。

 キャラクター配置の魅力も触れておきます。ミコトを演じる石原さとみはかわいいに決まっていますし、中堂さんもカッコいい。「アンナチュラル」の探偵役はこの2人ですが、主導権は固定されていません。六郎と東海林は視聴者にとっての「翻訳者」として配置されていますが、彼らも彼らでバカではない。あまりにも頭の悪い推理がないので、フラストレーションが生まれません。そして1話ラストのミコトと中堂さんの会話「2人の解剖件数を合わせれば無敵」「敵はなんだ」「不条理な死」――これによって、物語全体の敵と、2人の探偵が共闘する話であることも示唆されました。2018年はこの1話に出会えただけでもう満足です。

編集担当からのどうしても言いたい一言

 生者のために死者の謎を解くお話が好きな人には、未解決事件の謎を再検証する米国のテレビドラマ「コールドケース」などもおすすめです。「コールドケース」は真犯人が逮捕されたタイミングで被害者が死んだ時代のヒットソングが流れるという構図になっており、めちゃくちゃ泣きます。さらにそのヒットソングを使っていることで(著作権の問題で)ソフト化が難しくなっているため、二重に泣かされます。



       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/15/news031.jpg ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. /nl/articles/2412/14/news019.jpg ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  3. /nl/articles/2412/15/news011.jpg 「懐かしい」 ハードオフで“30年前のPC”を購入→Windows 95をインストールしたら“驚きの結果”に!
  4. /nl/articles/2412/15/news035.jpg 餓死寸前でうなり声を上げていた野犬を保護→“6年後の姿”が大きな話題に! さらに2年後の現在を飼い主に聞いた
  5. /nl/articles/2412/16/news107.jpg 「靴下屋」運営のタビオ、SNSアカウント炎上を受け「不適切投稿に関するお詫び」発表 「破れないストッキング」についてのやりとりが発端
  6. /nl/articles/2412/10/news133.jpg 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  7. /nl/articles/2412/15/news002.jpg 毛糸でフリルをたくさん編んでいくと…… ため息がもれるほどかわいい“まるで天使”なアイテムに「一目惚れしてしまいました」「うちの子に作りたい!」
  8. /nl/articles/2312/15/news032.jpg 放置された池でレアな魚を狙っていた親子に、想定外の事態 目にしたショッキングな光景に悲しむ声が続々
  9. /nl/articles/2412/15/news028.jpg 脱北した女性たちが初めて“日本のお寿司”を食べたら…… 胸がつまる現実に考えさせられる 「泣いてしまった」「心打たれました」
  10. /nl/articles/2412/16/news023.jpg 父「若いころはモテた」→息子は半信半疑だったが…… 当時の“間違いなく大人気の姿”に40万いいね「いい年の取り方」【海外】
先週の総合アクセスTOP10
  1. イモトアヤコ、購入した“圧倒的人気車”が思わぬ勘違いを招く スーパーで「後ろから警備員さんが」
  2. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  3. パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
  4. 高校生のときに付き合い始めた2人→10年後…… 現在の姿に「めっちゃキュンってした」「まるで映画の世界」と1000万表示突破
  5. 大谷翔平の妻・真美子さん、ZARA「8000円ニット」を着用? 「似合ってる」「シンプルで華やか」
  6. 新幹線で「高級ウイスキー」を注文→“予想外のサイズ”に仰天 「むしろすげえ」「家に飾りたい」 投稿者に感想を聞いた
  7. 高校生時代に父と撮った写真を、29年後に再現したら……再生数1000万回超えの反響 さらに2年後の現在は、投稿者に話を聞いた
  8. 散歩中、急にテンションが下がった柴犬→足元を見てみると…… 「そんなことあります?」まさかの原因が860万表示「かわいそうだけどかわいい」
  9. コメダのテイクアウトで油断して“すさまじい量”になってしまった写真があるある 受け取ったその後はどうなったのか聞いた
  10. 「やめてくれ」 会社で使った“伝言メモ”にクレーム→“思わず二度見”の実物が200万表示 「頭に入ってこない」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」