人生に必要なのは才能でも努力でもない 生きるのが苦しいなら、今こそ『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』を読もう
この春、あの泣き虫助手と無口な執行人にもう一度会える!
「この作品で人生が変わった」……もはや使い古されて記号のように見えるこの言葉を、『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』(西義之)の前では魂を込めて口にすることができる。筆者にとってこの漫画は、自分を思春期のどん底から救い上げてくれた、本当に大事な作品だ。
週刊少年ジャンプでの連載終了から10年経過した2018年、本作がマンガ誌アプリ『ジャンプ+』で復活することとなった。3月19日、続編となる『魔属魔具師編』の期間限定連載がスタートした。この衝撃のニュースに、涙を流したファンも少なくないだろう。
ホラー&アドベンチャーとも称すべき本作の魅力は、いくつも挙げられる。絵本や少女漫画からインスパイアされた美しくノスタルジックな絵柄、一度見れば目に焼きつくような異形の幽霊をめぐる事件の数々、そして魅力的で繊細なキャラクターたちが繰り広げる大冒険。しかし、ここで強調しておきたいのは、この漫画が「ともだち」の物語であるという点だ。
本作の主人公は2人。六氷透(むひょうとおる)通称ムヒョと、草野次郎(くさのじろう)通称ロージーのコンビだ。タイトルの通り、物語は「魔法律相談事務所」から始まる。「魔法律」とは、人の世界で罪を犯した霊を裁くための法律だ。見えないものに苦しめられている人を助け、犯人である霊を突き止め、地獄の使者を使役してそれらの脅威を取り除くのが、魔法律のプロフェッショナル=「魔法律家」の仕事なのである。荒ぶる霊に刑罰を与える「執行人」ムヒョと、彼を支える心優しい助手・ロージーは、街の片隅で小さな事務所を開き、人の暮らしの安寧を守ってきた。
魔法律はシビアな業界だ。世に広く受け入れられているとは言い難く、事務所があっても経営に失敗することもある。そして何より、才能の世界であった。そもそも霊が見えなければ話にならず、見えたところで力が弱ければ地獄の使者に指示を与えることができない。高い素質は前提だ。それだけではなく、この狭き門をくぐり抜けたとして、唯一使者を呼び出せる執行人の地位まで登りつめることができる者はさらに一握りである。その中でムヒョは最年少で執行人となった、まさに天才だった。
才能!
こんなに少年少女を悩ませる言葉があるだろうか。私たちはいつだってできないことをやってみたい。他者の圧倒的な力に惹きつけられるたび、これが自分にもできるなら、と想像する。想像するだけで、実際はうまくいかないことばかりだ。努力してもどんなに好きでも、できないことがあり、叶わない望みがあり、そしてそれを軽々と成し遂げる他人がいる。「みんなちがってみんないい」とは言うが、飛ぶことに関して言えば鈴が鳥に勝つことは絶対にない。
「才能を持たない人間は、どうやって生きていけばいいんだろう?」
この問いに、『ムヒョロジ』は真正面から向き合う。
ムヒョには友達がいた。名前はエンチューという。魔法律学校時代のルームメイトで、病気がちな母のために執行人になりたいと願う、優しい努力家だった。ある時までは。
たった1人が合格する執行人試験を、ムヒョとエンチューは同時に受けることになる。最初から秀才だったエンチューと、最初は落ちこぼれだったのに途中からめきめきと才能を覚醒させたムヒョ。エンチューはこれまで以上にムヒョを意識して勉強を重ねたが、次第に追い詰められ、試験直前に最愛の母親が急逝したことをきっかけに崩壊を迎えてしまう。自分はどこかで間違えたのだろうか。どうしてあんなに努力したのに報われないのだろう。なぜ自分が不幸の渦中にあるときに、ムヒョは夢を叶えているのだろう。どうして僕たちはこんなに違うのだろう。
母の葬式を終えて帰ってきたエンチューが目にしたのは、ムヒョが執行人に選ばれたことを祝うパーティだった。圧倒的な隔絶が、そこにはあった。エンチューはその場で、無差別に悪霊をばらまく大事件を起こす。「ムヒョばんざい」と叫びながら泣くエンチュー。心はもう、ぼろぼろだった。
こうしてエンチューは、反逆者に堕ちた。
自らの肉体を地獄の使者にささげて莫大な力を得る「禁魔法律」に手を出した彼は、そのまま行方をくらます。どうしようもない悲しみは、ムヒョへの憎悪に変わっていた。かつての明るい目標は見る影もなく、エンチューはムヒョを世界一苦しめて殺すために全てをささげてしまったのだ。ムヒョとロージー、そして彼の仲間たちは、エンチュー率いる禁魔法律家連合「箱舟」との壮絶な戦いに身を投じていくこととなる。
ここまでの情報で、「ははあ、読めたぞ、ムヒョがエンチューを倒してハッピーエンドになるんでしょう」と思った人こそ、『ムヒョロジ』をしっかり読むべきだ。本当に、敵を倒せば終わりなんだろうか?
『ムヒョロジ』を貫くのは、罪と罰の思想だ。罪には罰があり、そして罰によって罪はそそがれ、法を犯した者は己の間違いを清算することができる。魔法律は、人を脅かすものを倒す力でもあり、「間違えた」魂たちにやり直しの機会を与える仕組みでもあるのだ。ムヒョと仲間たちがエンチューを追いかけるのは、エンチューを救いたいからである。片時も忘れることのできない、唯一無二の大切な友達に、きちんと罪を償ってほしい。その一心で彼らは命を懸ける。もう一度エンチューと手をつなぐために、無謀なほど深くて暗い場所へ、ムヒョたちは手を伸ばし続ける。
「本当に人に要るのは 努力の成果や才能の成果より 好きな人達なんだね」
作中で最も印象深いセリフはこれだ。才能も努力も、本当はささいな問題だった。何もできなくても、間違えても、大事な人たちがいるならばそれが至上なのだ。それはムヒョも同じことで、ムヒョも1人ではエンチューを救えなかっただろう。主人公は徹頭徹尾2人、「ムヒョとロージー」である。目の前の人の苦しみに本気で涙を流す「落ちこぼれ」のロージーと、冷徹だが仕事に対して誰よりも誠実な「天才」ムヒョは、お互いを補い合って困難を乗り越えていく。誰かの孤独に、今日も寄り添う。
『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』は、現在文庫版全10巻、電子書籍ではジャンプコミックス版全18巻が発売中だ。あなたがもし、自分が何もできない人間だと信じ込み、つらい日々を送っているのなら、この漫画をめくってみてほしい。そこには、確かに事務所への扉が開かれている。泣き虫で優しい助手とぶっきらぼうな執行人が、あなたの気持ちに耳を傾けてくれるにちがいない。
(C)西義之/集英社
(正しい倫理子)
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「不器用で……加減が分からなくて……(泣きながら一本背負い)」見ているだけでお腹が鳴る……! ジャンプ作家・村田雄介先生と西義之先生のレシピ合戦(夜食研究所)がすごい
まさに神々の遊び。
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